第12章 結界攻防戦(10)
翔太が偵察機チェーロ全6機を撃墜した後、統合オペレーター席に座っているアキトが翔太に指示をだす。
「弁才天を空へ、派手にブッ飛ばせ、翔太っ! 七福神一の凶暴な破壊の力を解放するんだ」
アキトのいる統合オペレーター席は、オペレーションの全てを実行できるよう汎用性を重視した設計になっている。情報分析に特化している情報統括オペレーター席とは、設計思想が真逆なのだ。
宝船の統合オペレーター席は、汎用なのにアキト専用の場所である。なにせ、事実上アキトにしか使いこなせない。お宝屋の3人は、それぞれ操縦、射撃指揮システム、情報分析オペレーターの専用席と決まっている。
そして翔太のもう一つの専用席・・・翔太専用七福神リモートコントロール機から、お気楽で陽気な声が、オペレーションルーム届く。
『僕とアキトの2人なら、TheWOCの1個即応機動戦闘団を撃退するぐらい訳ないさ』
「目標は殲滅だ。ゴウ、風姫、そっちはサポートできない。頼むぜっ!」
千沙の座っている情報統括オペレーター席と横並びに、統合オペレーター席がある。
「こっちは気にするな。アキトは、アキトにしかできことに集中すれば良いぞ」
「私は問題ないわ。私は、ね」
風姫は蔑みの目をゴウに向け、断言する。
「このぐらい簡単だわ。まあ、任せなさい」
ゴウは風姫の視線を受け止め、小馬鹿にした口調で揶揄する。
「ふっはっはっははーーー。俺の方は、まーったく問題ないぞ。破壊するしか脳のない、何処かの王女様に実力を見せつけてやろう」
「無精ヒゲの筋肉ダルマに、如何ほどの実力があるのかしら?」
「んっ? 無精ヒゲだと? ふっはっはっははーーー。相変わらず貴様は、見る目がない愚か者だな。いいか俺の・・・」
統合オペレーター席にいるアキトは、一瞬だけ千沙に視線を向けた。視線を感じた千沙が軽く頷き、仲裁のため口を開く。
「ゴウにぃっ! ゴウにぃは風姫さんに気を遣わなすぎっ! 円滑に戦闘を進めてTheWOCを排除するには、人間関係は重要なの。ゴウにぃは、あたし達のリーダーなんだよっ!」
降参とばかりに、ゴウは両手を挙げた。
「うむ、千沙の言う通りだな」
「謝罪はないのかしら?」
「ないっ! ただ、一言だけ貴様に伝えよう」
風姫をゴウは瞳に蔑みの色を浮かべ、自信満々に言葉を継ぐ。
「俺は毎朝ヒゲの手入れをしているぞ」
千沙の台詞はゴウを一方的に責めたような内容だったが、仲裁のため口を開いた。そう、ゴウが風姫に謝罪することはないと千沙は知っていたのだ。
ゴウは千沙たちに、前以って言い含めていた。
ゴウをリーダーとして認識するまで、風姫と徹底的に戦うから邪魔をするなと・・・。
サバイバルやトレジャーハンティングで、個々人が好き勝手したら生き残れない。ヘルはマッドサイエンティストだが、生存に対して理性が働く。風姫は若さ故の過信か、それともジンという護衛としては過剰な戦力の傍にいた所為か、生存本能で動いている。
風姫とヘルを含め全員無事に、惑星ヒメシロへと帰還させる為、ゴウはリーダーシップを発揮せねばならない。
しかし、ゴウの狙いを知っているアキトが言い争いの停止を千沙に求めた。それだけTheWOC即応機動戦闘団と真剣に対峙せねばならない場面なのだ。
「千沙、戦闘機の数は?」
統合オペレーター席の簡易戦術ディスプレイに、戦闘機の集団が2手に分かれたのが映し出されていた。アキトは、それぞれの集団の戦闘機数が知りたかった。千沙はアキトの質問の意図を正しく受け取った上、有用な情報を渡す。
「8機ずつ。2分でレーザービームの射程内なの。TheWOCのカヴァリエーレより射程距離が長いから先制攻撃可能だよ~」
福禄寿の杖型レーザービームは、超長距離ライフルである。しかし、弁才天のレーザービームは福禄寿と比べ、射手距離が圧倒的に短い。
「翔太。ミサイルは上方向からの集団へ。残りは下方向からの集団だ。レーザービームの射程距離に入った瞬間、攻撃開始だぜ」
『了解さぁ』
照準補助と戦術、琵琶による防御をアキトが受け持つ。翔太は七福神ロボの操縦に集中する。2人は役割を分担しているが、互いに阿吽の呼吸でフォローし合う。確かな信頼関係がアキトと翔太の間には存在するのだ。信頼の源は性格でなく、技量に対してだが・・・。
「10秒前・・・」
千沙がカウントを始めた。
アキトはレーザービームとレールガンによる照準をカヴァリエーレへと定め。
翔太は弁才天を回避運動させ、弧の軌道を描く。
「2、1、今」
『「発射」』
レーザービームがカヴァリエーレを両断し、レールガンの弾がカヴァリエーレを破壊する。矢型誘導ミサイルは、有効射程外であるにも関わらず発射した。
結界内にはアキトが改造したモニタリング端末が展開してある。端末からのデータをオテギネがリアルタイムに収集して、オリハルコン通信で宝船に情報提供している。矢型誘導ミサイルは、発射後に敵機をロックオンする仕組みに変更したのだ。しかも、様々な方向からのリアルタイムデータを利用するため、ほぼ100パーセントの命中率となっていた。
翔太は矢形誘導ミサイルを発射するだけでよく、後はアキトが担当しているのだ。
矢型誘導ミサイルがカヴァリエーレ3機を撃墜した時には既に、もう3本の矢型誘導ミサイルが弓に番えていた。弁才天の正面を回避する軌道を描き、機体の後部を見せたカヴァリエーレは絶好の的になる。




