第12章 結界攻防戦(7)
翔太は自分専用の七福神リモートコントロール機内で、ゴウたちが惑星ヒメジャノメの環境についての会話に参加しなかった。ただ、聴いているのみで、非常に珍しく口を挟まなかったのだ。TheWOCの偵察機を初撃で、1機でも多く撃墜するためにタイミングを計っているからだ。
今回、七福神ロボは拠点防御を目的としていない。ゆえに結界を効率よく維持するため、七福神ロボ同士は、適度に距離を空けて配置している。
さて、と。現在、七福神ロボは3機・・・弁才天に福禄寿、毘沙門天が敵を攻撃可能かな。ただ、複数機をセミコントロールマルチアジャストで操縦すると、どうしても精度が落ちてしまう。
ゴウ兄からは初撃で最大限の効果・・・要は、より多くの偵察機を撃破するよう要求されているんだよなー。いやいや、僕の兄は人を何だと考えているのか?
最近、人外君との二つ名が定着しつつある現状に、僕の繊細な心はズタズタさ。全くもって危機感を抱いちゃうよね。マルチアジャストってのは、ちょーっとレアなスキルで、すこーし操縦に便利なだけのにさ・・・。
それが充分に人外なのである。
しかし若くして頭角を現した才能のある者は、その才に恵まれなかった者が、なぜ出来ないのか理解できない。逆に実力の劣る者は、優れている者の力を測ることは不可能。
しかしアキトは、翔太の実力をかなり正確に把握している。それは翔太以上のマルチアジャストスキルを持っている・・・という訳ではない。アキトには客観的な評価基準があるからだ。
翔太に実施させた連日の宝船の操縦シミュレーションは、元々トレジャーハンターの操縦士訓練用であった。そのシミュレーターは、パラメーター入力によって無限のパターンを作成可能。そしてパターン毎の難易度はシミュレーターが判定できる。限定人工知能に作成させたパターンの難易度は、人としての限界を2倍超と判定していた。
人の限界としては、トレジャーハンターの操縦士として伝説のヘンリー・ブラッグ、ローレンス・ブラッグ親子を基準にしている。
彼らを伝説たらしめたのは、10数組のトレジャーハンターが失敗した惑星ルリシジミの大気圏突入脱出を成功させたからだ。惑星ルリシジミの大気圏突入は、現在の技術をもってしても困難である。
200年前にブラッグ親子が成功させた当時、挑戦するのは命知らずか自殺志願者か、それともなければ無理無茶無謀のお宝屋ぐらいと云われていた。
ブラッグ親子が成功したため、お宝屋は挑戦しなかったと現在でも尤もらしい噂が流れている。その真偽は、お宝屋の子孫・・・ゴウ達が知らないので不明なのだ。
翔太曰く、すこーし操縦に便利なスキルを使って、TheWOCの戦闘団に先制攻撃を仕掛ける。
弁才天は配置された時から座像姿でなく立ち上って8臂となり、戦闘体勢だった。そして弓には矢型ミサイルを2本番えている。矢は無論のこと誘導ミサイルである。偵察機をロックオンした刹那、翔太は2本の矢を発射した。
毘沙門天はレールガンである宝棒を構えていた。レールガンが発射する弾は高密度高質量、高速度で威力は絶大。偵察機を照準に捉えると、翔太はレールガンの引き金を引く。発射された弾を偵察機が回避するのは不可能だった。
福禄寿の杖からレーザービームが、ほんの0.5秒間放たれると、偵察機は上下に真っ二つになった。
「よしよし、偵察機4機撃墜かな?」
翔太の言葉通りだった。
誘導ミサイルが命中した2機は空中で爆散し、青空に爆炎の赤と爆煙の灰が浮かび上がる。レールガンの弾が命中した1機は、機体に空いた大穴から装甲の破片を撒き散らしながら落ちていく。最後の1機は機体をレーザービームの輝線に突入させ、自らを2つに分離し、緩やかな曲線を描き墜落する。
偵察機を同時に撃墜するため、速度の遅いミサイル、レールガン、レーザービームの順に発射したのだ。
『まだ、2機残ってんぜ。翔太』
「いやいや、終わりさ。そうだよね、アキト?」
翔太が言い終える前に、新たに2機の偵察機が爆散したのだった。
レーザービームを放った福禄寿から、すぐに弁才天へと操縦を戻し2本の矢を番えさせ、偵察機をロックオンしていた。翔太は無造作に矢型誘導ミサイルを放っただけで、後はアキトが誘導したのだ。
偵察機”チェーロ”のコンセプトは単機で行動するのではなく、集団の中で護られながら偵察する。まさに今も、戦闘団に護られながら偵察飛行している。しかし結界内に配備された七福神ロボの攻撃力が、TheWOC戦闘団の防御力を上回ったのだ。ただし、それは結界内に限ってである。
「次の的は、一体どれかな? さあ、派手にいってみようか」
偵察機の全機撃墜を確認して余裕ができ、翔太は軽口を叩いた。
『翔太ぁ~。戦闘団は、ほぼ無傷なんだよ~。早く殲滅して欲しいな~』
「いやいや、僕も全身全霊全力で頑張ってるさ。千沙こそ余裕あるよな」
『う~ん・・・。今のままだと、お話に集中できないの』
TheWOCとの戦闘より、宝船のオペレーションルーム内での会話を優先したいとは・・・千沙もやっぱりお宝屋のメンバーであり、宝家の人間である。
『翔太、弁才天に集中しろ。釣り出すぜ』
「なるほどなるほど、計画通りでよさそうだね」
『そういうことだ。任せたぜ』
「うんうん。宝船に乗った気でいてれれば良いさ」
『私の不安が一気に増大したわ』
『・・・ウチは信じる』
「ワザと聞こえるように言ってるのかな? ルリタテハの破壊魔さんはさ」
『あなたこそ、私の二つ名を間違えているわ。風の妖精姫と呼んでくれるかしら? なっ、何するの・・・』
アキトは風姫を羽交い締めで、オペレーションルーム前方の船外機の操縦席へ連れていった。そして風姫に、これからの役割を言い聞かせ座らせた。
『邪魔は排除したぜ。集中だ、翔太』
「了解さ」
情報統括オペレーターの千沙から迎撃目標の優先度が、七福神リモートコントロール機のサブディスプレイに明示された。
翔太は毘沙門天と福禄寿をレーダーに探知されないようにし、待機モードにした。それと同時にアキトが、自律飛行偵察機”ジュズマル”2機に予めインプットした命令を実行させる。
1機は毘沙門天の近く、もう1機は福禄寿の近くに待機していて、結界の中心へと移動を開始する。無論、両機とも七福神ロボと誤認されるようにし、敵の攻撃を躱すような軌道をとり、緩急までつけてだった。これらは、自律飛行偵察機ならではの機能である。




