第12章 結界攻防戦(6)
TheWOCの機動戦闘団が結界を突破してから、約30分が経過していた。
風姫はおとなしく、メインディスプレイにリアルタイムで表示される戦闘団の進撃を見守る。史帆はオロオロしながらも手持ち無沙汰のため、空いているオペレーター席でデバッグ作業を実施。ヘルは自分の研究成果を整理している。オペレーションルーム内で一番物理的に動いているのは、限定人工知能搭載の調理機器”クックシス”だった。
翔太は、格納庫に設置してある翔太専用七福神リモートコントロール機に待機している。
アキトとゴウは千沙の席の傍らで、珈琲カップを手に持ち3人で惑星ヒメジャノメについて語り会っていた。
「ここ数週間分のデータだけだが、この地域であれば既に人が住めるぞ。無論、惑星ヒメジャノメが最低1周公転したデータを収集してみる必要があるだろうな」
「あーっと、そうだな・・・」
千沙の席の端末に自分のコネクトを接触させ、惑星ヒメジャノメに辿り着いてから収集したデータをアキトは表示させた。当然、生データではなくグラフやデータをサマリーし、それぞれの分析に対してコメントを付与していた。
「ここのデータからすると惑星コムラサキよりも、ずっとイイ環境だぜ。公転軌道と地軸の傾きも許容範囲内のようだな」
「適度な季節変化も期待できるよ~」
「うむ・・・これならコムラサキより先に、ヒメジャノメを開拓するとの政府決定が下されても可笑しくないぞ」
千沙はオペレーター席のディスプレイに、トレジャーハンティング用の限定人工知能が試算していた結果を映す。
「あたしはオリハルコン鉱床の探索より、惑星ヒメジャノメの環境調査を提案するよ~。確実に利益を見込めるトレジャーハンティングで、ゴウにぃとアキトくんの2人が大好きな冒険になるの。今までの惑星ヒメジャノメの調査データから推測すると・・・え~っと、ね。小さなオリハルコン鉱床以上の収入になるのは間違いないよ~」
試算結果の表示と共に発せられた千沙の発言には説得力があった。収入だけでなく、それぞれのトレジャーハンティングにかかる必要経費も計上されていて、推定利益額が一目で分かるようになっていたからだ。
お宝屋の財政全般を担当している千沙は、必要経費を詳細に把握している。そのため必要経費を項目ごとに表示させていた。
惑星ヒメジャノメにくる前だったら、アキトは完全に納得していただろう。しかし、お宝屋が新開家と繋がっていることをアキトは知った。しかも宝船は新開グループの最新技術の塊であることを知った。
宝船のメンテナンス費用は明らかに桁が違う。2桁は低く計上されていると、アキトは推測していた。それはアキトがトレジャーハンターとして独立し、恒星間航行小型宇宙船”ライコウ”を運用した経験からの試算だった。
しかし、このアキトの推測は間違いだらけであった。なぜなら、新開家が裏から色々と手を回し、ライコウのメンテナンス費用は低く抑えられていたのだ。
それに宝船は、新開グループの最新技術ばかりのため、純正品を用いるしかない。たとえ純正品以外の部品が存在したとしても、お宝屋が使用する必要はない。新開グループの部品は、無償提供されているからだ。つまり千沙の計上しているメンテナンス費用は、新開グループ以外の部品だけなのだ。
その結果、宝船のメンテナンス費用は4桁以上低くなっているのだ。
TheWOCの脅威が喫緊に迫っているにも係わらず、緊張感の全くない3人の会話に風姫が耐えきれなくなった。
「何を呑気にテラフォーミングの状況について語り合ってるのかしら? TheWOCの機動戦闘団が侵攻してきてるんだけど? もうすぐ結界に接触する状況だわ。理解してるのかしら? 地に足のついた議論をしないと足をすくわれるわよ。私が・・・」
ふと、風姫は気が付いた。お宝屋とアキトの視線が集中していることを・・・。
「何? 私の顔に何かついてるのかしら?」
「目と鼻と口がついてるよ~」
「いいや、正確を期すなら目は2つだぞ」
「目つきがキツイというのも追加すべきだぜ。性格を表現するのに最適だからな」
風姫の機嫌は急速に下方向へと傾いていった。その低気圧によって、今にも旋風が巻き起こりそうな雰囲気に、アキトは宥めるような口調で話す。
「なあ、風姫。お宝屋っていうトレジャーハンティングユニットを、そろそろ理解してもイイんじゃねぇーか?」
「何を? どんなところを、かしら?」
「トラブルに嬉々として突っ込んでいくけどよ。振り回されっぱなしでホント疲れるしな。いつでも全力で冒険すっから、全員のスキルが向上すんぜ。攻めすぎて能力ギリギリの冒険になってっから危険も一杯だな。うん? えーっと・・・」
フォローするつもりで話をしたアキトだったが、正直に自分の感じるままを言葉にしてしまったらしい。アキトの偽悪的な思考の所為で、短所の方を多く口にしていた。
「聞けば聞くほどに、駄目駄目なトレジャーハンティングユニットだと理解できるわ」
「どんなトラブルに遭遇しても対処できるよう、準備だけは怠らねぇーんだぜっ!」
「い、い、かぁあぁあああーーー。貴様らお宝屋は色々な意味で、手遅れっでぇええっ、命知らっずぅううっ。愚かにもほどがあるぅううううっ。しかぁーーし、嫌いではなぁーーいっ。さあぁああ! 我輩は喜んで手を貸そうではないかぁあぁあーーーー」
ヘルが唐突に、叫ぶような声で発言したのだ。
全くもって自分勝手なマッドサイエンティストである。さっきまで己の研究成果を整理していたのだが、一段落ついたので自分の疑問を解消するため発言なのだ。そう、話の流れをブッた切っての乱入である。
「結界とは絶対防衛線ではなかったのか? それとぅーもぉっ、このコネクトのコモンベース翻訳の登録単語が古いのかなぁああ?」
アキトたち全員はヘルを無視をしたかった。しかし無視すると、もっと面倒になるのでアキトが一言で答えた。
「使い方が悪いんだろうぜ」
「なんだと?」
「民主主義国連合でいうバリアでイイんだぜ」
「うむ、アキトの言うとおりだぞ。戦闘だからってシールドへと翻訳を変更し、わざわざ意訳しようとして、アブソリュート・ディフェンス・ラインとでもしたのか?」
「違うのか?」
「ふむ、そろそろだな。まあ見てろ」
ゴウがアキトに目配せすると、メインディスプレイが無数の6角形に分割された。その1つ1つの画面に、TheWOCの機動戦闘団の進撃の様子が、様々な角度から映し出されている。
TheWOCの1個即応機動戦闘団は、機動歩兵科1個中隊200名、人型兵器バイオネッタ1個大隊32機、戦闘機カヴァリエーレ2個小隊16機、偵察機チェーロ6機の規模になる。そして機動歩兵科200名は、兵員輸送用オリビー10台に分乗している。
機動戦闘団は結界内に、薄く広く立体的に浸透していた。
その薄く広くが災いする。
翔太がリモートコントロールしている七福神ロボの3方向からの同時攻撃で、偵察機チェーロ4機を撃墜したのだ。




