第11章 日常時々トレジャーハンティング(16)
アキトの説明は、本当に概念というか、初歩というか・・・しかし、それは重要ポイントであり、さわりの部分だった。
通常物質固有の力は”電磁気力”。
ダークマター固有の力は”不可侵力”。
ダークエナジー固有の力は”幽谷力”。
ヘルは、そう名付けていた。
ネーミングセンスをマッドサイエンティストに求めるのは酷だろう。そう考え、仕方ないと自分を納得させていた。しかし風姫達への説明で不可侵力、幽谷力という単語を口にする度に、アキトの羞恥心が刺激された。
もちろんオレは苦言を呈し、再考を強く要求していた。
「ダークマターとダークエナジー固有の力の名称に、特徴を表しているとかの意味はあんのか?」
「特に意味はないなぁ。最初に付与した名をジンからNGとされたのだ。強いて言えば、意趣返しとして、ジンに縁のある言葉から適当につけてやったぐらいだ」
「すっげー意志入ってるよな?」
「しかーし、言葉には意味がないのだっ」
「意味はなくても、由来はあんだろ?」
「良いかぁあああ。ダークマターの力にはシュテファン。ダークエナジーの力はヘル。我輩はそう名付けた。天才科学者である我輩の名を永遠に残す・・・。これこそが唯一にして最適解だったのだ。しかしっ・・・ジンはダメだと譲らない。ならばと、ジンに縁のネーミングをプレゼントしてやった。幽谷はダークエナジーを利用した幽谷レーザービームからとってやった。神聖にして不可侵の存在であるルリタテハ王国唯一神に因んでやった」
ヘルにとってもジンにとっても、不幸なのか幸運なのか? 少なくとも周囲には迷惑を撒き散らしてんな。
「それって当てつけだよな。再考の余地ありだぜ」
名付けは発見者の特権だ。
余程でない限り却下などされないし、発見者の名が付くのは珍しいことじゃねぇー。
当てつけしたくなる気持ちは良く分かる。
「我輩は既に専門書として完成させた、のだっ! 書籍名は”初めての不可侵力”と”初めての幽谷力”でぇえっあぁーーーるっ。この素晴らしい我輩の書籍は、ルリタテハ王国の王立大学の講座で使用されるのが決定しているのだぁあああっ!!! し、か、もぉぉぉだぁあああっ! この専門書の内容を中心とした複数の講座ぁがぁっ、来年よりカリキュラムとして組み込まれるぅうぅうううーーー!!! つ、ま、り、だぁあああっ、もはや名称の変更は不可能。この名が永遠に歴史に刻まれるの、だぁああああーーーーーー!!! そして我輩は研究室を構え講座を1つ主宰する。その講座名は”シュテファン・ヘルのエレメンツ総合講座”な、の、だぁああああーーーーー!!!!!!」
ああ、そりゃ明確な理由だな。
ヘルが名付けで譲歩したのは、自分の研究室を持つ為だったと・・・。
あの後、ヘル劇場が10分間に亘り開演された。それは、お宝屋劇場が観客を如何に愉しませていたか思い知らされた一幕となった。役者として強制参加させられるのは、全力で拒否したいけどな・・・。
ヘルによると、各物質に固有の力とはいえ、その物質で全く力の影響を及ぼさない元素も存在する。しかし、その力・・・電磁気力、不可侵力、幽谷力は互いに干渉する。
オリハルコンが精神感応物質との所以は、不可侵力を発生させ、電磁気力と干渉し合うからだ。オリハルコンの不可侵波と脳内で発生する微弱な電磁波は、互いに干渉し合う。その干渉を活用しているのが、ルーラーリングなのだ。
オリハルコンが発生させる不可侵力は、ダークマターの中でも非常に強力である。だからこそ人類でも発見できた。発見できたからこそ技術開発が進み、活用されるようになった。
しかし電磁波と不可侵力の干渉より、電磁波と電磁波の干渉力の方が何桁も高い。それは不可侵力にもいえる。不可侵力と電磁波より、不可侵力と不可侵力の干渉力も桁違いなのだ。
ヘル理論が正しいと仮定するとGE計測分析機器は重力波異常を捉えていたのではなく、不可侵力を観測していたのだ。いくらGE計測分析機器の理論を紐解こうとしてもムリな訳だぜ。
だが今、GE計測分析機器の改造の許可がでた。ということは分解してもイイ。ルリタテハ王国の最重要機密を暴き倒してやるぜ。
それに、それだけで済ませる訳じゃない。
これは、GE計測分析機器に不可侵力通信機能を加える”改造”だ。改良じゃねーから、元に戻せるようにとか、機器の目的に沿うようにとか、一切考慮しないぜ。
基礎技術検証用の実験機器として、徹底的に使い倒してやる。
風姫は勿論のこと、史帆もオレの真意に気づいていない。翔太と千沙は完全に気づいているとオレには分かる。しかし風姫と史帆には分からないだろうな。
翔太の表情は、いつもより2割増しぐらいの軽薄な笑みを浮かべ。千沙は概念図を机上に表示させ、表情を隠すように顔を下に向けている
視野の狭い技術者と辛辣な言葉を投げ、史帆を格納庫から追い出そうとした。しかし史帆は格納庫に残った。アキトは巧みに”改造”を”改良”と同じ意味であるかのように誤解させたまま、説明を乗り切ったのだ。
こんなことを考えながら説明していたアキトの顔には、少しばかり口角の吊り上った笑みが浮かんでいた。
平穏な日常が、突然終わりを告げた。
それは、アキトが予見していた終わり方だった。




