第11章 日常時々トレジャーハンティング(14)
5人とも打ち合わせ机の備え付けの席に腰を下ろし、お茶しながら話に花を咲かせる。席は翔太、千沙、アキト、風姫、史帆の順で、アキトは壁ディスプレイの正面に陣取っている。そして花が咲いている話は、学生時代の訓練内容についてだった。
千沙が一通り翔太の訓練内容を公開し、アキトが補足説明という名の追い打ちをかけた。しかし、翔太は涼しい顔で聞きつつ、時には自らの怠慢を暴露し、昔の策略を披露する。
「いやいや、僕が修理とか整備とかの訓練するよりさ。お宝屋にアキトを入れちゃえば済む話だよね? つまり努力するとこは、アキトをお宝屋に勧誘することじゃないかな。アキトがいれば、宝船や七福神は安心。僕は楽ができるし面白い。千沙は喜ぶ。ゴウ兄は商売が上手くいく。万事解決さ」
翔太にとっては、暴露しているというより、自慢話をしている感覚らしいのが、あたしには理解できないなぁ~。
良く言えば正直なんだけど・・・。
相手に対する気遣いが、全くないんだよねぇ~。
「オレはもう、お宝屋じゃないぜ」
「また入れば良いだけさぁー」
翔太から今日一番の笑顔を向けられたアキトは、言葉に詰まり天を仰ぐ。
「それよりさ、アキト。僕の心と体に何をしてくれたのかなぁー? 今までとは明らかに感覚が違うんだよね。敏感になっただけじゃなく、世界が広がったっていうのかな?」
風姫と史帆は、徐々に顔を赤くしていった。
風姫は嫉妬心と怒りから・・・。
史帆は羞恥心と羨望から・・・。
「何ていうか、調子が良いというか、具合が良いというか、開発されたっていうか。とにかく凄いんだよねぇー」
「なあ、翔太。それってマルチアジャストの話だよな?」
「それ以外の何だっていうのさ?」
「う~ん? あたしとアキト以外には、マルチアジャストと別の話のように聞こえたみたいだよ~」
ため息を1つ吐いてから、千沙は言葉を継ぐ。
「やっぱり普段から芝居を意識するのは、コミュニケーションに影響があるよね。あたしは、やめた方が良いと思うの」
史帆が俯きがちに何度か頷き、風姫は翔太を睨みつけた。
そーだよねぇ~。
そーなるよねぇ~。
学校に通ってる時も、翔太に沢山の女子がすり寄ってきたけど、最後まで傍にいたのは2,3人ぐらいだったな~。思春期なのに、翔太の発言にはデリカシーがないんだよね。男友達も変なのしか残らなかったし・・・。
アキトが愛想を尽かさなくって、本当に良かったの。
「そうそう、それでさアキト。あのシミュレーションの秘密はなんだい? 操縦に緩急をつけるのと、機械のステータスを常に把握して、性能の限界を超えないようにする・・・だけど、これだけじゃないよね? なにせ、すっごく疲れるのさ。他に何を仕込んでるのかな?」
千沙の忠告に耳を傾けたのか、翔太はアキトから聞き出したい内容を言葉にした。
しかし、千沙は知っていた。
単に、あたしの相手をするのが面倒臭くて、話を進めることにしたんだね。本当に女子の扱いが適当なの・・・。
このままだと異常性癖の腐女子にしか、翔太は相手にされなくなると思うな~。
「空間把握能力を鍛えらるようにしたぜ」
「なるほどなるほど・・・。なんだって?!」
あぁ~~。理解できなてかったんだ~。
「空間把握能力を鍛える」
「なんだって?」
アキトくんは相変わらず優しいなぁ~。
「空間把握能力」
「なんだって?」
翔太の理解できてない箇所を絞り込んで訊いてあげてるんだもの。いつまでも翔太の親友でいて欲しいな~。
千沙は翔太の男友達は変なのしか残らなかった、という思考をすっかり棚上げしていた。誰しも自分の心を客観視はできないため、仕方ない側面もある。
それと千沙の思考には、桃色フィルターがかかっていてアキト酔いの状態なのだ。それ故、どうしても明るく都合の良い未来に想いを馳せてしまう。
そう、それで~あたしとアキトは、10年後ぐらいに結婚するの。
「そこかよ・・・。ああ、説明すりゃあ、イイんだろ。説明すりゃあーよ」
翔太の疑問が空間把握能力だったと見て取ると、アキトは心底呆れた声をだした。
「そうそう、流石はアキトだ。相変わらず良い判断をしているねぇー」
何故か得意満面の顔で翔太は、アキトに大きな態度で説明を要求する。
「さぁーってと、よろしく頼むよ。親友」
翔太の軽薄な口調は、まさに親しい友達へと向けたものだった。アキトは親しくない友人に勉強を教える雰囲気を漂わせつつ口を開く。
「空間把握能力は、その名の通り空間の何処に何があるかを把握する能力だ。何処に何があるか把握できれば、コースと速度が決定可能だよな。あとは、その通りに疾走するだけだぜ。だが、空間の状況は刻々と変化してくから、常に感覚と頭脳に負荷がかかるんだ。それが自分の操縦する機体だけなら、まぁー楽勝だろうけどな」
「そうかそうか、1機が2機に。2機が3機に、と機体が増えていくと大変だということなんだね」
「しかも幾何級数的にだぜ」
「なるほどなるほど・・・できるかっ!!!」
「できるぜ。翔太ならな」
「まあ、できなくはないかな。今までより10倍は疲れるけどさ」
「ああ、少し言葉が足りなかった。面白特殊人間の翔太なら問題なく対応できるぜ」
「そうそう・・・って、なんですと?」
アキトと翔太の低レベルな言い争いが始まったのだ。
あ~、懐かしい雰囲気だよ~。あたしの家に訓練しにきてた時みたいなの。
嬉しいな~。
楽しいな~。
いつまでも、このままが良いな~。
惑星ヒメジャノメから脱出できない現実を気にせず、千沙は幸せに浸っていた。しかし、風姫の質問が現実を直視させ、場の雰囲気を引き締める。
「それより、アキト。私を護るためって言って契約書にサインさせたわよね? GE計測分析機器に、どんな改造をするのかしら? その改造によって、どうやって私を護るつもりなのかしら? 私には、知る権利があるわ」




