第11章 日常時々トレジャーハンティング(12)
風姫達が女子会をしている時・・・。
「恋敵に勝利するには情報が重要になるわね」
千沙は惑星ヒメシロの喫茶”サラ”で、沙羅から受けたアドバイスを思い出していた。
「それとね。重要なのは嘘を吐かないことよ」
「え~っと・・・えっ?」
「嘘は人間関係を壊すわよね?」
「えっ?」
嘘を吐かないのは、当然のことじゃないのかな~
「えっ、じゃないわよ。壊すわよねっ?」
「・・・は、い」
この時の千沙は話の方向性が判らず、とりあえず肯定の返事をした。
「戦争では嘘も欺瞞情報として利用するのは有効よ。でもね、恋愛では絶対ダメよ。バレた時のリスクが、高すきするからねっ!」
「うっ、うん」
「だからねっ。自分に有利になる情報だけを開示するのよ。有利不利は、多角的に情報収集して判断することが重要ね。私の知っている話だとー・・・。遠距離恋愛中に彼氏が突然別れを告げてきたのよね。その彼氏は遠距離恋愛が無理だとか、色々理由をつけてきた・・・。仕方なくお別れしたの・・・でもね。本当の理由は、いつ死ぬかも知れない命懸けの職業に就いていてから・・・だから生きて帰れない日がくるかも知れない。彼は大怪我をして、危険を自覚して、本当の理由を告げずに別れを告げた。別れた後で・・・本当の理由を知った時の彼女の後悔は、計り知れないわよ。恋は盲目と言うけど・・・。だからといって、彼の言葉だけに耳を傾けていると間違えるわよ。複数の筋から・・・そう多角的に情報を集め、正確な判断ができていれば別れなくて済んだのよ。彼と一緒になるために王都で勉強してたのに、シロカベンへ戻る前にお別れるすることになるなんて・・・」
千沙は怪訝な表情を浮かべ、沙羅の瞳を覗き込むように見つめる。随分と沙羅の話が逸れてきていたからだ。しかも知っている話が、経験した話に変化してきている。
千沙の視線に気づき、沙羅は怒りから冷静な口調へと変えて仕切り直す。
「・・・とにかく。いい? 一般的には良いと言われるところ・・・しかし彼からすると良くないところ・・・そこを彼に教えてあげるのよ。そしてね・・・それは、逆も、同じ。恋敵からすると彼の良くないところ・・・そこを教えてあげるのよ。可能なら、第三者の口から彼に伝わると最高よ。そこまでいけば、もう謀略と言ってもいいレベルになるわねー」
沙羅さんの恋愛観て、少し怖いかも・・・。
「そこまでするの~?」
「そこまでするのよっ! いい? 恋と戦争にルールはないから、相手を陥れてでも手に入れないと」
さっきまで沙羅さんは、嘘を吐いちゃいけないって言ってたよ~。それは何処行っちゃったのかな~。
千沙は柔らかく反論してみる。
「それは良くないですよ~」
「・・・ふーん? それで金髪のお嬢様に勝てるのかな?」
あたしのライバルを知ってる?
「なんで?」
「うちは情報屋なのよねぇー」
「喫茶店じゃないの?」
「兼業しているだけね」
「どちらが本業なの~?」
お茶目な性格の沙羅が、ウィンクしながら答える。それは21歳の沙羅に、ギリ許される仕草だった。
「それは私にも分からないわね。お宝屋がトレジャーハンティングユニットなのか、アキト君の護衛なのか分からないようにね」
宝船のオペレーションルームの応接セットで、千沙が風姫と史帆に紅茶を振る舞っていた。ソファーに千沙が腰を下ろすと、暇を持て余していた風姫が紅茶の香りを愉しみながら尋ねてきた。
「暇だわ・・・ねぇ千沙は、アキトの幼馴染なのかしら?」
「幼馴染ではないよ。アキトは12歳の時に転校してきたの」
「転校? 珍しい」
正直に答えて失敗したことに千沙は気づいた。
あたし、今なら沙羅さんの恋愛観が理解できるかも・・・。
「どうしてかしら?」
風姫の質問に史帆が答えるより早く、千沙が口を挟む。
「そこで翔太と同じクラスになったの。翔太とアキトくんは、その日のうちに友達になったんだよ」
アキトくんが、新開家の直系だと知られてちゃ不味いよ。新開一族だったら王位継承者でも、結婚相手として不足ないもの。
絶対にアキトくんの家の話にはしない。
「それでね。翔太は卒業と同時にお宝屋で働くことを決めてたの。だから休日はトライアングル、トラック型オリビー、コウゲイシ、大気圏宇宙兼用の輸送機、恒星間宇宙船の訓練をしてたんだけど・・・」
「そうなんだ」
史帆が短い言葉で答えた。声色だけでは分からないが、瞳が話の続きを強く促していた。史帆の興味を惹くのに成功したのだ。
「アキトは翔太に誘われて、訓練の見学に来たの。そして、運命的な出会いをして・・・あたしは、アキトくんと結婚するんだって、その時に確信したんだよ」
「運命的って、どういうことかしら?」
風姫の表情が曇り、唇は強く引き結んでいた。気分を害しているのが、風姫を見なくても千沙に伝わってくる。
千沙は史帆だけでなく、風姫も話に惹き込んだのだ。
宝船の研究室で、アキトがヘルと交渉している時・・・。
「我輩に頼みとな?」
ヘルの常識的な問いかけにアキトは少し意外感を覚えた。しかし、常にハイテンションで語るのは、如何なマッドサイエンティストでも疲れるのだろう。
「いいや、これは取引だぜ。テメーはダークマターとダークエナジーの研究成果を。オレはダークマターとダークエナジーの測定機器を用意する」
「何処にあるのだ?」
研究室の入口にいるオレに背を見せて立ったまま質問してきた。しかも、眼はディスプレイに固定し、視線を忙しなくに動かしていた。
「今はない」
「何処に行けば手に入るのだ?」
オレの話に興味がない・・・というよりは、信じていない。条件反射のように返事をしているようだった。きっと脳のリソースの殆どを研究に費やしている所為だろう。
「人類の手にはないだろうなぁー」
揶揄われていると感じたらしく、ヘルは勢いよく振り向き、怒りを体全体で表現する。
「何を言ってるのだ、貴様は。ふざけてるのか? それとも馬鹿なのか? 我輩は忙しいのだ」
「なければ作ればイイんだ。オレが開発する。だからテメーはダークマターとダークエナジーの研究成果をオレに開示しろ」
「大言壮語もいい加減にせよ。これ以上我輩の時間を無駄に消費させるというのか・・・ならば、貴様を殺すぅううう!」
「測れないものは把握できない。測れないものは作れない。ならば、測れる環境を整備せよ。何より先にあれ」
「何を言ってるのだ」
「オレの一族の家訓だぜ。トレジャーハンターやってて、骨身に染みた。ようやく是認できたんだ。オレは・・・」
「人類の宝であぁぁぁるぅぅぅ我輩の貴重な時間を奪うとは、この愚か者ぉーっがぁあああああ!!!」
ヘルは勢い良くオレの方へと5歩ほど進んでから、倒れ込んだ。
「まあ、話を聞けや」
「我輩に何をした」
「テメーには何もしてないぜ。まあ、そこだけ重力を強くしたんだけどな」
オレはヘルが這いつくばっている床を指さしして教えた。
自己中マッドサイエンティストの扱い方は何通りかある。その中でも話を聞かせるには、こちらに関心をもたせ、身柄を拘束するに限る。このやり方は、オレが惑星シンカイに居た時に学んだことだった。
「ヒヒイロカネ合金精製には、オレの技術も使用されてんだぜ。まあ、精製過程の5%だけらしいけどな。ただ、この技術を使わない場合、精製には約3倍のコストが必要になる。研究ベースでなく、商業ベースにするための必須技術だぜ」
うつ伏せから仰向けになり、ヘルは口を開く。
「どうやって証明するのだ?」
「特許申請はしてっから、ルリタテハ王国の行政統合ネットワークで検索すれば証明できるぜ。ただ、そこに行くまでの時間が勿体ねぇーよな? 測定機器の開発をもって証明とするのはどうだ? オレがダークマターとダークエナジーの知識を得れば測定機器が開発可能」
「測定機器があれば、我輩による人類の技術革新が加速されるな。いいだろうぅーーーー。貴様の口車に乗ってやろうではないかぁああああーーーー」
仰向けの状態で両腕を上にあげ、ヘルは叫ぶように了承したのだった。




