第11章 日常時々トレジャーハンティング(7)
「ひゃあぁあぁああ・・・」
宝船のオペレーションルームに史帆の悲鳴が響いた。
史帆がエラブウミヘビの亜種に咬まれた翌日。
ゴウたちが今日のトレジャーハンティングの計画を再確認するためオペレーションルームに入ってきた時、彼女は運悪く扉の近くにいた。扉が開いた瞬間、ゴウとバッタリ鉢合わせになったのだ。
史帆は真っ赤になり、両手で顔を隠し蹲る。
昨日はゴウに太腿を吸われ、お姫様抱っこで簡易メディカロイドまで運ばれたのだ。
悲鳴を聞きつた風姫は、オペレーションルームのメインディスプレイ前から素早く史帆の傍まできた。そして、彼女の肩に手を置き、落ち着かせようと声をかける。
「大丈夫?」
蹲ったまま史帆は肯いたが、立ち上がったのはゴウと遭遇して、1分以上が経過してからだった。下を向いたまま深呼吸を繰り返し、漸く落ち着いてきたらしく呟くような小さな声でゴウに謝罪する。
「ごっ、ごめんなさぃぃ・・・」
言葉の最後の方は、隣にいた風姫でさえ殆ど聞き取れなかった。史帆の頬は未だ朱に染まり、顔を上げられないでいる。
ゴウはオペレーションルームに踏み入れ史帆の肩をポンと軽く叩き、大型メインディスプレイに向かう途中で背中越しに声をかける。
「うむ、大丈夫だ。俺は全く気にしてないぞ。慣れてるからな」
悲しい内容をサラリと口にしたゴウに、弟妹が2人してツッコむ。
「そうそう。でもさ、ゴウにぃ。最後のセリフは必要ないよね」
「う~ん・・・妹としてはね。女性に好かれる兄が良いかなぁあ」
「諦めろ。女にモテる為に俺自身を変える気は、更々ないぞ」
「知ってる知ってる」
「少しは気にして欲しいのっ!」
千沙は真剣な表情で、ゴウの台詞を責め立てた。しかしゴウの心と肉体は、微動だにしない。
「会った時から、ゴウは全くブレてねぇーのな。ある意味スゴイぜ。尊敬はしないけどな」
「女は現実的なのよ。あまり夢を見ていると、結婚なんてできないわ」
船長席まで歩を進めたゴウは足を止め、振り向いて風姫に答える。
「ん? ありのままの俺に惚れて欲しいと夢見るほど、現実が見えてない訳ではない。それにな・・・俺は結婚よりも、お宝屋としてトレジャーハンティングを続ける道を歩むぞ」
「言い訳かしら? それとも自虐?」
風姫の揶揄を無視し、ゴウはアキトに視線を合わせてから力強く宣言する。
「それが、俺の生き様だ。一緒に旅ができない相手は、寧ろ邪魔な存在だと言っても過言ではない。なあ、アキト?」
「何故そこでオレに振るのか分かんねぇーけど、ゴウの生き様は否定しない。ゴウの人生はゴウのものだし、オレの人生はオレのもんだ。だからオレの生き様は、オレが自分で決める。結論として、お宝屋に戻る気はない。ゴウの生き様は、オレの趣味じゃねぇーぜ」
アキトの台詞の途中で、ゴウは史帆に視線を向け声をかける。
「痺れや痛みはないか?」
「はい・・・。それと、昨日はありがとうございました」
最後は消え入るような声だったが、史帆はゴウにしっかりと謝意を伝えた。
「感謝を言葉にするのは重要だが、過剰に畏まる必要はないぞ。俺たちはチームお宝屋だ」
マイペースかつ、自分に都合の良くない話題には興味を示さないないゴウの態度にイラつき、アキトは即座に反論する。
「違う。オレはお宝屋じゃない」
アキトの言葉を無視して、ゴウは話を続ける。
「チーム内で助け合うのは当然で、リーダーが先頭に立ってチームメンバーを導くのは当然のこと」
オレは、お宝屋のメンバーじゃない。
「前提が間違っていぜ、ゴウ」
「大船に乗ったつもりで・・・」
「あれあれ、ゴウ兄。そこは宝船だよね」
「うむ。宝船ならば決して沈まぬ」
「この宝船、以前の船とは別じゃないかしら」
「前の宝船は寿命を迎えたのだ。断じて沈没したのではない」
「後10年は、船体寿命があったはずだぜ」
「いやいや、寿命だったのさ、アキト。船体ではなく性能的な方のね」
「翔太の言う通りだ。何せ新造宝船は、レーザービームを8門装備したんだぞ」
「それにね、2種類のミサイルを搭載したの。あたしは反対したのに・・・」
「一体何処を目指してんだか・・・」
「お宝屋って、本当にトレジャーハンティングユニットなのかしら? 普通の船にはレーザービーム砲なんて必要ないわ」
「トレジャーハンティングユニットさ」
「トレジャーハンティングユニットだよ~」
「トレジャーハンティングユニットだぞ」
「ホントは宇宙劇団お宝屋だろ。オペレーションルームに舞台装置があんだからな」
「なるほど、アキトの言う通りだわ」
「まあ、いいや。そろそろトレジャーハンティングユニットらしいことしようぜ」
時間は有限。
命の危機が迫りつつある中、リスクの最小化して生存確率を向上させる措置をとる。
「うむ、そうだな。今日は俺と翔太、アキトの3人だけで行く。後のメンバーは留守番だ」
「私は行くわ」
風姫の同行は許可できないと、ゴウ達お宝屋とオレで昨日の内に合意していた。そして、風姫の同行を拒否する理由は、新開グループの機密事項に抵触するため絶対に明かせない。要は同行させない理由をでっち上げるなり、自ら辞退するように誘導しなければならない。
アキトは風姫に疑問を投げかける方法で、同行させない流れに話を持っていこうとする。
「史帆を置いてか?」
「数日は、メディカロイドですぐに治療できる場所にいた方が良いと思うな。あたしがメディカロイドの操作をするとして、介助要員として、もう1人は必要なの」
アキトの意図を理解している千沙が、援護の意見を述べた。
「そうそう。惑星ヒメジャノメでの第一回女子会と洒落こんだらどうかな? たまにはスペースアンダーから華やかな服にでも着替えてさ」
「千沙と史帆とヘルの3人が留守番だと、なんとなく不安にならねぇーか?」
風姫の顔に憂いの表情が浮かんだ。何がとはハッキリしてないが、やはり不安になったようだ。千沙さえいれば史帆と宝船の安全と言っていい。
ホントのところ、風姫がいたとしても、ハッキリ言って女子会メンバーとしての役割しかない。
「風姫、史帆、千沙は留守番だ。これはトレジャーハンティングユニットお宝屋のリーダーとして俺が決定した」
ゴウの台詞に1ヶ所だけ異議を唱えたかった。だが、折角まとまった結論をひっくり返す訳にもいかず、アキトは黙ることにした。
いつものアキトなら、お宝屋のメンバーじゃないと声を大にして主張するとこだった。




