第11章 日常時々トレジャーハンティング(4)
ゴウとアキト、翔太は史帆達3人の許へと全速力で駆ける。意外にも、3人の中で海辺を走るのはゴウが1番早い。そしてアキト、翔太に続き、3台のカミカゼが高速で疾走する。
3人ともカミカゼのROP機能を起動したのだ。
ROP機能・・・Return to Owner Position機能とは、カミカゼが自動で所有者を迎えに行く機能である。正確にはルーラーリングで生体情報を読み取り、コネクトがカミカゼと一定間隔でデータ通信している。その通信によってカミカゼは所有者の位置を常に把握し、ROP命令を受信次第、駆けつけるのだ。
カミカゼに乗るより走った方が早いと、ゴウ達3人は即座に判断したからだ。
その判断は正しく、ゴウは史帆の元にカミカゼより早く到着したのだ。そしてアキトと翔太は、カミカゼにタッチの差で勝利した。
アキトはゴウより脚が早く、同じ場所にいた。それにもかかわらず、アキトはゴウより到着が遅れた。その場所で1番早い走り方をゴウは選択しているからだ。2人のトレジャーハンターとしての経験が差となって表れたのだ。
「風姫、史帆を立たせろ。動かすなっ。そのまま抱きしめてろ」
ゴウの勢いに、風姫は言われた通り座り込んでいた史帆を立たせ抱きしめた。
女子2人が水着姿で抱き合い、滑らかな肌が海水の雫をはじいている姿は、非常に魅惑的である。特に風姫がもつ華やかな雰囲気はアキトを魅了する。逆に言うとアキトは、余裕があるため風姫に魅了されたのだ。
「エラブウミヘビにしては口の開きが大きいぜ・・・独自進化したエラブウミヘビ亜種だな」
エラブウミヘビ属内のエラブウミヘビ種の口は小さい。
いくら細身の史帆の太腿とはいえ、咬めるものではないのだが、口が180度近くまで開いているのだ。惑星ヒメジャノメで独自の進化を果たしたらしい。
「おお、そうなのか。千沙、史帆の膝を固定してくれ」
ゴウはアキトの言いたいこと、そして史帆に聞かせたくないことを瞬時に理解した。エラブウミヘビは、エラブトキシンと呼ばれる神経毒の一種を持っている。独自進化した亜種も神経毒を持っていると推定される。
流石のコンビネーションであった。
「・・・なに?」
史帆は不安そうに尋ねたが、翔太が安心させようと微笑を浮かべ、軽薄な口調で答える。
「まあまあ、まーったく心配ないよ」
少しだけ史帆は落ち着いたが、それは一瞬だけだった。
史帆の目に2本のコンバットナイフを構えたゴウの姿が映ったからだ。
「ひぃっ。い、嫌ぁ・・・」
史帆が悲鳴を上げきる前に、ゴウは2本のコンバットナイフを一閃した。
エラブウミヘビの毒牙を微動だにさせず、口の端から風姫が切断した頸部まで上下に分割したのだ。そして重力によって蛇の頭と下顎が下へと動くよりも早く、ゴウは頭と下顎をコンバットナイフで深々と突き刺す。
そして、コンバットナイフを器用に使い、史帆の太腿に余計な傷をつけずに毒牙を引き抜いた。ゴウがコンバットナイフを背後に向けると、アキトはエラブウミヘビの頭と下顎を受け取る。
「アキト、分析しろ。翔太、簡易メディカロイド準備。往けっ! それとカミカゼはアキトの1台だけでだぞ」
2人に指示を出しつつも、ゴウは史帆の傷口から視線を外さない。
「「了解!」」
アキトのカミカゼ水龍カスタムモデルは、適合率調整を元に戻していた。つまり残る4人には操縦不可能なのだ。
アキトのカミカゼをアキトでなく翔太が操縦し、トウカイキジに積んである簡易メディカロイドへと急ぐ。アキトには不本意だが、翔太が操縦する方が早く到着するからだ。
「千沙は蛇の胴体を回収。翔太のカミカゼで待機だ」
「私にできることはあるかしら? 何でもするわ」
風姫が手伝いを申し出たが、彼女にできることはないな。
それどころか、お宝屋のコンビネーションの邪魔にしかならない。風姫に何もさせないことが最大の手伝いだろう。
「今は、そのまま史帆を押さえてろ」
ゴウは顔を上げ、史帆に尋ねる。
「痺れはあるか?」
「はい・・・」
「呼吸はどうだ? 苦しくないか?」
「・・・特には」
体全身の痺れてるが、呼吸困難にはなってないか・・・。
毒は史帆の体内に入ったが、すぐに処置すれば問題ない量と判断して良いだろう。しかし、体内にある毒の量は少なkれば少ないほど良い。
ゴウは躊躇せず史帆の太腿に口をつけた。
「ひゃっ・・・あ、あ、あっ」
史帆の口から、思わず羞恥に塗れた声が漏れ出た。
構わずゴウは史帆の太腿から神経毒の混じった血を吸い、海へと吐き出した。
血を口で吸いだすのは、口の中に傷があるなどで対処者にも毒が入るリスクを抱える。そのため推奨されないどころか、本来はすべきでない。
しかし、ゴウに一切の躊躇はない。
5回ほど毒を吸い出した後、ゴウは有無を言わせず史帆を横抱きにし、自分のカミカゼに乗った。史帆が抵抗したがゴウの膂力には全く敵わない。
「動くなっ! 体中に毒が回るぞ。大人しく俺に抱えられてろ」
一喝された史帆は、顔を真っ赤にしながら大人しくなった。心の準備もないまま、男性に初めてお姫様抱っこをされては、心拍数が限界値まで跳ね上がっても仕方ないだろう。しかも史帆は、学生生活を技術で埋め尽くしていたため、恋愛に縁が遠かったのだ。
「千沙は風姫と一緒に乗ってこい」
ゴウは千沙の返事も聞かず、カミカゼを追尾モードにしてトウカイキジへと疾走させた。




