第11章 日常時々トレジャーハンティング(2)
さて、と・・・どこまで感づいているか。
ふむ・・・。俺を監視役かと訊いてくることから、アキトは己自身が自立出来てると勘違いしてるようだな。
新開家直系の親族が、トレジャーハンターのような命懸けの職業に就くことを容認するはずない。表向きはアキトの意志を尊重しているが、裏では徹底的なリスクマネジメントで安全を確保している。アキトの安全の要として、お宝屋は新開家と契約を交わしている。主にアキトの支援、護衛、救助を実施する主体として・・・。
契約内容は明かせない・・・というより契約の存在自体を認めてはならない。アキトは世間を知らないが頭は切れるからな・・・これは結構キツイかも知れんぞ。
「おい、ゴウ。お宝屋と新開家で、どんな契約を締結してんだ?」
ゴウは視線を肩ロース肉に下ろしたままで、作業しながら口を開く。
「気になるなら、実家に訊けば良いだけではないのか?」
アキトは実家と約束した定期連絡を欠かしたことがなかった。しかし、定期連絡以外の通信はしていない。義務教育の後半3年間と、その後5年間の自由期間中、新開家と極力接触しないようにしてるらしい。
契約窓口からの情報だから間違いないだろうな。
ゴウは畳みかけるようアキトに話しかけ、時間を稼ぐ。
「まあ、待て。今は肉が美味くなるか。それとも、すっごく美味くなるかが決まる工程だぞ。俺はな、すっっっごく美味い肉を喰らいたいんだ。お宝屋にとって日々の食事は、まさにトレジャーハンティング。喰らって喰らって、そして喰らい尽くすぞぉおぉおーーーー。いいかぁああああーーー。食べることは生きること、生きることはトレジャーハンティング。これこそがぁあああ。お宝屋、だっ!」
アキトの表情は見るからにウンザリしている。なぜなら、幾度となくゴウが話して聞かせた内容だからだ。
顔をあげ、ゴウは更に熱弁を振るう。
「そしてトレジャーハンティングこそが、俺の生きる道な、の、だぁあああーーーっ! そう、俺が俺であるために、俺はトレジャーハンティングを続けるのだ。それは必ず、必ず・・・人類の明日へと繋がるのだぞ。俺たちお宝屋は人類の進歩に多大な貢献し、歴史に名を刻むことになるだろう。だがな、それは結果に過ぎないのだ。お宝屋は、常に人類最先端のトレジャーハンティングユニットであり続けるぞ。そ、れ、が、お宝屋の存在意義なのだぁあぁあああーーーー」
暑苦しく圧の強い声で話しているが、ゴウは口と頭を別々に動かしていた。
そして、漸く考えが纏まったので一息入れる。
その瞬間を逃さず、アキトが再質問する
「オレの訊きたいのは、お宝屋と新開家の契約内容だぜ。ゴウの人生に興味はない」
「新開空天と宝航征は、ルリシジミ星系で最初にして最大の重力元素採掘鉱床・・・”テンセイ”の発見者だぞ」
新開空天”シンカイアキタカ”は、ルリシジミ星系を新開家の拠点とし、発展の基礎を築いた人物である。そして宝航征”タカラコウセイ”は、トレジャーハンターで初代お宝屋だ。
「テンセイの・・・?」
「空天のタカをテンと読ませ、航征のセイを繋げてテンセイ。それが、鉱床の名前の由来だぞ」
「なんて安直な・・・ネーミングセンスがゼロだぜ」
「発見時の鉱床の権益は新開家5割、お宝屋5割だった。一介のトレジャーハンターにとって、その状況だとルリタテハ王国政府に売却する他ないよなぁあ。」
「そうだな・・・。んん? 今、テンセイの権益の4割はルリタテハ王国政府が持ってる・・・残りの4割は・・・何か変だぜ。確かテンセイの権益は新開グループで持ってねぇーんだ。他の鉱床はグループが所有してる・・・」
この話題でアキトの興味を惹き、ガッチリと食いつかせることに成功したのだ。
「そこで、だ。2人は別々の道を歩むことにした。権利の4割をルリタテハ王国政府に売って元手を作ったんだ。航征は宝船を購入し、トレジャーハンティングユニットお宝屋を創設。空天は鉱床の開発に必要な機材を調達。テンセイの開発権利の6割は、株式会社テンセイが握ってる。そして株式会社テンセイの株は、空天と航征で半々だった」
「株式会社テンセイの株は新開家が100%持ってるぜ・・・そうか、”設立当時”は、半々だったのか」
「その通りだ。その後暫くは、お宝屋も新開家も順調に業績を伸ばした。だが、お宝屋にはとんでもない金喰い虫がいたんだ。分かるか?」
「宝船だろうな。ゴウの先祖だ。どうせ、普通の恒星間宇宙船じゃねぇーよな?」
「お宝屋の乗る宝船のコンセプトは、今も受け継がれているぞ」
「やっぱりか・・・。新開家が株を買い取ったんだろう。いや、それだけじゃない。宝船の設計開発は新開家が担当・・・製造もだな。コンセプトが一緒ということは1点もので、かつ最新技術の塊・・・。同じクラスのトレジャーハンティング用恒星間宇宙船とは桁違いの金額になる。請求額に利益を乗せなくても10倍や20倍では済まないだろうな」
「うむ、当時の標準的なトレジャーハンティング用の宇宙船の31倍と、記録にあるぞ。むろん七福神も手抜きはしてないぞ。なにせ1柱あたり、宇宙船2隻とあったからな」
「あわせて45隻分か・・・メンテナンスにも多大なコストが掛かる。いくら新規の重力元素鉱床を発見しても、全く足りないだろうぜ・・・となれば研究開発費か」
「ふっはっはっははーーー、その通り。新開グループから研究開発名目で、費用負担してもらったようだぞ」
「新開グループにとっても悪い話じゃない。最新技術のテストをお宝屋がしてるようなもんだしな・・・そんなことが可能になるスキル・・・推測するに、航征は翔太と同じスキル”マルチアジャスト”を持っていた・・・」
アキトの表情を注意深く観察しながら、様々な方向へと想像の輪を拡げられるよう、ゴウは話題を提供する。アキトは少しのヒントだけで答えを推理し、正しい情報と要点に辿り着く。知識が豊富で、頭の回転が早いだけに、ゴウにとっては非常に扱いやすい。なぜなら、脳のリソースを他に使わせないようヒントを調整するだけで良いのだ。
この話題になってから5分と少し・・・アキトの頭の中で、お宝屋と新開家の繋がりに納得した。いつの間にか、お宝屋と共にあることを当然と考えるようになっていた。
これがゴウとアキトの経験の差なのだろう。ゴウはお宝屋の代表として契約交渉にあたり、10年以上も一線のトレジャーハンターとして活躍してきたのだ。
そして、この話題は唐突に終了してしまった。
それは、2人の耳に悲鳴が届いたからだった。




