第10章 ジンの所業(4)
今回は短めになります。
※ 風邪をひいてしまいました。
メローは、自分の端末に表示されたサルストン准将の作戦案にざっと目を通した。そして、参謀として第3分艦隊の幕僚としてサルストン准将が配属された幸運に感謝すると共に、その作戦案の採用を即断即決する。
端末の内容を3Dホログラムに展開し、メローは幕僚達の注目を集める。
「さて、諸君」
メローが良く通る声で幕僚達の注意を惹き、落ち着きを払った口調で死地へと誘う。
「サルストン参謀がデスホワイト伝説の終止符を打つ作戦を立案してくれた。伝説のデスホワイトを退治して、戦史に我々の名を刻みつけようではないか」
ちょっと散歩に行こうか、と誘われたのかと勘違いするぐらいの軽い話し方だった。
「尤も、敵は300メートル級の宇宙船1隻と人型兵器1機。サルストン参謀の作戦がなくても勝利するだろう。その上、お膳立てまでしてあるのだ。後は淡々と、作戦を実行すれば良い」
悪戯に誘うかのような笑みを浮かべ、メローは皆に畳みかける。
「簡単なことだろ?」
さっきまで幕僚達は、TheWOC旗艦モンテイアージが撃沈された事実に慄いていた。
敵はデスホワイト。
そんな幕僚たちの士気が、急上昇したのだ。
その様子にメローは満足すると、サルストン准将に作戦の説明を任せた。
「本作戦の要諦は・・・」
サルストン准将の説明を耳に傾けながら、TheWOCの私設軍隊が、遠路はるばる赴いてきた目的を思い起こしていた。
現状考えうる限り、最善の作戦をサルストン参謀は提示してくれた。しかし、勝利できるだろうか? 第3分艦隊は中破以上の艦はないが、既に第1分艦隊は8割以上、第2分艦隊は約3割の艦が戦闘不能になっている。
もはや撤退すべき状況なのだ。
生き残りを救うのに、それ以上の命を犠牲にするのは不合理であり、艦隊司令としては失格である。しかし艦隊司令部機能を継承した”レポラーノ”から未だ撤退命令はないし、第2分艦隊に撤退の兆候はない。
目的を果たすために、最悪のケースをも想定せねなるまい。
メローは頭を軽く振り思考の迷路から抜け出した。
さて、今はサルストン准将の作戦を完遂することに集中すべきだ。
ちょうどサルストン准将からの説明と、幕僚からの質問が終了した。メローは幕僚達の視線を一身に受け、徐に語り始める。
「さて、諸君。我々が伝説となる準備は調ったかい? 後は実行するだけだ。早速取りかかろう」
自信に満ちたメローの言葉に幕僚が敬礼で応えた。
幕僚は各々の担当するセクションに命令を飛ばし始めた。ある者は人型兵器バイオネッタの部隊行動の徹底と作戦配置について。ある者は第3分艦隊の全艦に戦域移動について。ある者は戦艦の武器管制システムに兵器使用について・・・。
第3分艦隊のコンバットインフォメーションセンターに、緊張感溢れる静寂が戻った。
高い練度と士気、それに細心の注意を払い第3分艦隊はジンと彩香に覚られずに陣取りを終えようとしていた。
目標はユキヒョウ。
スポッターを排除できなければ、スナイパーを排除すれば良い。極めてシンプルな思考によって導き出された結論だが、言うは易し行なうは難し。
宇宙戦艦の主砲の射程にユキヒョウを捉えるということは、ユキヒョウの射程に入るということでもある。TheWOCの宇宙戦艦が、被弾して散々な目にあっているにも関わらずだ。
舞姫システムで護られたユキヒョウに攻撃を命中させるために、第3分艦隊の全宇宙戦艦による全力射撃をする。そして、バイオネッタの機動力で攪乱して、宇宙戦艦の射線をつくる。
第3分艦隊の努力が実を結ぼうとする時に、レポラーノからオープンチャネルで信じられない通信が入ったのだ。




