第9章 TheWOCの科学者(3)
惑星ヒメジャノメの夜風にあたりながら、アキトは星空を眺めていた。彼にとっては、色々な考えを纏めるための、大切な時間である。
最優先はTheWOCの軍隊に見つからないようにすることか・・・。
ルリタテハ王国から救援がくるまで、1ヶ月や2ヶ月じゃすまないかもな。
重力元素開発機構にヒメジャノメ星系でのトレジャーハンティング計画を提出してある。そこには帰還予定は1ヶ月後と記載している。だが計画の内容はベースの確保と簡単な調査としてある。危険は少ないと判断されるので、帰還予定を経過しても1ヶ月以上は放置されるだろうな。
ヒメジャノメ星系に来るまで寄り道してたから、惑星ヒメシロを発ってから2週間になる。オレのトレジャーハンティング計画書は信頼性が高いから、早めに救助を派遣してくれるぜ。きっと・・・。
・・・たぶん。
いや・・・そうだ・・・。トレジャーハンターがここを目指して来たとしても、辿り着けるのか?
ここにはTheWOCの軍隊が駐屯してるんだぜ。
・・・どう考えても無理だな。
トレジャーハンティングユニットの宇宙船は、武装してねぇーからなぁあー。ユキヒョウや宝船みたいな船は、例外中の例外だ・・・。たとえ武装していても軍隊に勝てる訳ない。だが降伏しても助かるとは限らないな・・・。口封じに殺される可能性があるぜ。逃走を選択しても、宇宙戦艦のスピードには敵わない。
ということは、見つかったら最後だな。
ヒメジャノメ星系に進出している情報を持ち帰られないよう、TheWOCは絶対に見逃さないだろう。
惑星ヒメシロに星系間通信で連絡したいが、ここには時空境界突破装置なんてないしな。ワープだと3日はかかる。そもそも、惑星ヒメシロに帰れる状況じゃない。
七福神ロボと宝船の戦力だけだと、不意打ちで漸く宇宙戦艦と渡り合えるかどうか・・・。
いや、無理だな・・・。
どうしても、ジンと彩香のレベルで戦闘を予測してるみたいだ。
そうだった。ヤツらは別格なんだぜ。
ジンはデスホワイトと呼ばれ恐れられてる死神。
彩香は舞姫システムで無数の手打鉦を自在に操る魔女。
宇宙戦艦と同等の装備があって、どんな策略を弄しても、戦闘のプロ相手に勝利はできないだろう・・・な。
・・・待てよ。
ユキヒョウには風姫が乗ってんだ。計画より遅かったら、すぐにでもルリタテハ王国軍が派遣される・・・かも?
ダメだ。希望は持ってもイイが、憶測による楽観は禁物だぜ。
勇気と無謀は似て非なる物であり、慎重と臆病は全くの別物である。リスク対策により危険を軽減させつつ回避、チャンスとなるように行動する。いずれにせよ、バランス感覚が重要になるぜ。
まあ、残念ながらオレは頭脳派なんだよなぁー。
オレの周囲は翔太を筆頭に、感覚派ばかりだけどなっ。
ここに留まっていたら、宝船が発見されるのは時間の問題。
ラマクリシュナンとかいう科学者を捜索するために、TheWOCの軍が動くだろう。ならば、逃げ隠れるのと攻撃という名の嫌がらせ。どちらを選ぶ??????
まあ、当然のことだが、嫌がらせに決まってるぜ。
ただ、こういうのには大義名分が重要になんだよな・・・。
おおーっと、そうだった。侵略者共からルリタテハの王女を護るのために戦う。
イイ響きだぜ。
そう、護衛と離れてしまった10代の可憐なお姫様を護るんだ。
天地神明に誓って、科学者に大ケガを負わせ吹き飛ばすルリタテハの破壊魔を護るためではない。
そこからアキトの思考は、纏まるどころか拡散していった。
宝船のヒヒイロカネ合金装甲のおかげで、時空境界突破時にかかる人体への高負荷が抑えられてた。オレたち全員が時空境界突破した直後も動けたことで証明された。生物を時空境界突破させると、体の一部分の細胞が潰れる。体の大部分が潰れる時もあれば、全く潰れない時もある。どの部位が潰れるのかは、その時々で異なるのだ。そのため対策しようがなかった。そして最悪の場合、脳が潰れ死亡するのだ。
重力元素はオリハルコンとミスリルで構成される。この時点で元素と呼ぶのは間違ってる。ダークマターの解析が進んでいない時代に名付けられたのが原因だ。だが、未だに訂正されてないのは、この事実が知られてないからだ。オレだって知らなかった。
名称といえばトライアングルもそうだよなぁ。今ではオリハルコンボードを前後に1枚ずつの計2枚が一般的になってる。街乗りなら、それで充分な性能なのだ。昔はカミカゼのようにオリハルコンボードが3枚だった。バランスと性能の双方を満足させるために、オリハルコンボードが3枚必要だったのだ。
妖精姫の風は、ミスリル合金で重力を操って生み出してるということまでは推測できる。だが、両手両足にロイヤルリングを装備しても、あそこまでの威力はだせない。どうやってんだ? 訊いても教えてくんねぇーだろな。
「・・・風姫」
夜空を楽器にして音楽を奏でるような、それでいて凛とした小気味良い声がアキトの耳に届く。
「何かしら? それに毎晩、こんな処で何をしてるのかしら?」
言葉内容は美しい音色ではなかったが・・・。
「星をみてる」
アキトは仰向けになっていて、満天の星空に視線を固定したまま風姫に返事をした。
「似合わないわね」
辛辣な意見を口にしながら、風姫はアキトの隣に腰を下ろした。
「別にイイだろ。誰かに迷惑かけてる訳じゃねぇーぜ」
ジンと彩香が心配だから、オレに八つ当たりしてんのか?
いや、いつもの口調だな。
ただ重要な大義名分が隣にきたので、安心させるためにも柔らかい声色で、希望的観測をアキトは口にする。
「すぐに惑星ヒメシロから救援が来るぜ」
横座りの風姫は、アキト一緒に星空を眺める。ただ、視線の先に見えているものと、思考の結果の答えがアキトと全く異なっていた。
「ジンと彩香が負ける訳ないわ」
隣に座っている風姫を視線の端に捉え、アキトは嘆息しつつ理解した。
あぁー、いつもの強気で自信満々の風姫だった。
「・・・そうだな」
「きっと邪魔者がいなくなって、ノビノビと戦争してるわ」
風姫の台詞にアキトは上体を起こし、マジマジと風姫の横顔を見つめた。
「えーっと、邪魔者ってオレたちか? 少しでも戦力差を縮める方がイイよな」
「私たちを護りながら戦う必要がないのよ。ユキヒョウと一個艦隊ならユキヒョウの勝利は揺るがないわ」
強がりではないのは口調から分かる。だけど理由が分からない。
「死神と呼ばれることもあるけど、”デスホワイト”が、どこの国の軍隊にでも通じる名称だわ。良く聞きなさい・・・」
アキトは良く聞いた。
風姫の口から語られる驚愕の内容に、アキトは耳を離せなくなったのだ。




