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エレメンツハンター  作者: 柏倉
第2部 ルリタテハ王国の神様の所業
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第8章 アドベンチャーレース! 翔太 VS 風姫(5)

 お宝屋の翔太は、惑星ヒメジャノメでのデビューを、華々しく果たしたのだった。

 カミカゼを華麗に操り疾駆するその姿は、映像だけでお金をとれるだろう。無料の映像共有サイトにでもアップしたら、男女問わず多数のファンを獲得できる。

 男性ファンは、トライアングルの華麗な操縦テクニックに・・・。

 女性ファンは、テクニックにプラスして翔太の容姿にも反応するに違いない・・・。

 何といっても、操縦している映像から翔太の性格は、全然伝わらないしな。

『あー、僕の気の所為かな? アキトが失礼なことを考えてるような気がするんだけどね』

 超能力者かっ!

 マルチアジャストに、そんなスキルねぇーよな?

「何を根拠に?」

『いやいや。顔を見れば、僕にはすぐに分かるのさ』

「顔、見てないよな?」

『まあぁーねぇーー。そんなに余裕はないんだけどさぁ』

 話してること自体が、全くもって信じらんねぇーけど・・・。

 翔太のカミカゼとジュズマルから、迫力ある映像が送られてきてる。メインディスプレイには、360度カメラの前方向を表示させていて、リアルな映像が映ってる。それも翔太と風姫の映像を横に並べてだ。

 スリルは、風姫が遥かに上。しかしスピードと華麗さは、圧倒的に翔太が上である。そして気密カプセル素材の残量割合は、2機とも約50パーセントと、ほぼ互角・・・。

 そう、如実に腕の差があらわれてるのだ。

 風姫はカミカゼを3回以上覆える量の素材を使っていた。それはそれは見事なまでに、素材を厚めに設定した気密カプセルが風姫を防護している。

 翔太は1回分しか使ってない。・・・というより、1回崩壊させただけだ。それも、鳥の巣にワザと衝突させてだった。

 史帆には理解できないかもしれないが、お宝屋とオレには分かる。

 あの巣にいたのは、鳥類タカ科ヒゲワシの進化種”オオヒゲワシ”だ。

 惑星をテラフォーミングすると、鳥類に限らず高い確率で進化種が誕生する。そして1Gより重力の低い惑星では、動植物が大型化する傾向にある。

 オオヒゲワシの成鳥は、カミカゼをも上回る速さで飛行し、鋭い爪で獲物を引き裂き、捕まえる。しかも獰猛な気性で、自らのテリトリーに侵入した生物を敵と見做し、即攻撃する。そんな鳥が崖の窪みや大きな木の重なり合った枝に巣をつくり、4~5羽ぐらいで暮らしているのだ。

 カミカゼの全長は3.5メートル。

 オオヒゲワシの全長は約半分のサイズだが、翼を広げた翼幅は4メートル以上になる。そしてカミカゼ以上の速さで飛翔し、カミカゼ以上の機動性を誇る。そんな猛禽類など、絶対に相手したくない。

 ただ消極的だが、攻略方法もある。

 巣を中心としたテリトリーは、そこに巣がなくなればテリトリーでなくなる。攻撃的で獰猛なのだが、それ以上に強い生存本能を持っている。まず巣を守ることを優先し、巣がなくなれば次善の策として巣作りをする。

 そう、巣を吹き飛ばせば良い。

 翔太はカミカゼにしがみつく体勢をとり、巨木の枝の巣の下を高速で潜り抜け、気密カプセルだけをぶつけたのだ。時速600キロで走行しても揺るがない粘性と剛性を兼ね備えた気密カプセルの衝突は、オオヒゲワシの巣を跡形もなく吹き飛ばした。

 ジュズマルのアシストを受けている翔太にとって、邪魔する運動体さえなければ、森の中すら庭も同然。

 緊張感の欠片すら感じさせない声色で、翔太は陳腐な問いかけをしてくる。

『実は、良い知らせと悪い知らせがあってね。とっちから聞きたいかな?』

「うむ、俺は良い知らせだけで良いぞ」

「ゴウにぃ、悪い知らせはどうするの?」

「アキトがいるじゃないか」

「そっかぁ~」

 千沙は安心したようだが、オレは不安で一杯だぜ。

 無駄とは知ってるが、一応ツッコんでおく。

「おいっ! 納得すんな」

『そうだね。それじゃ、良い知らせからだけどさ。TheWOCのベースの位置を割り出せそうなんだよね』

「ほぉー、それは良い知らせだな。後はアキトが引き受けるぞ」

 他人に面倒事を押し付ける時、ゴウのセリフは全くもって冗談に聞こえない。オレだけで対処できそうなら、絶対に丸投げする。

「でっ、悪い知らせってなんだ? TheWOCのベースが至近距離だってのか」

 敵対者のいる未知の惑星で、悪い知らせを聞かないという選択肢はあり得ない。仕方なく、嫌々で、渋々と、アキトは翔太に尋ねた。

『そんなことじゃあ、悪い知らせにならないね』

 心底聞きたくないぜ。

「う~ん・・・何だろう」

 千沙が翔太に水を向け、答えを促した。

『さあさあ、どんな知らせだと思う?』

 焦らすつもりか?

 だが、サブディスプレイのデータにヒントがあった。僅かに翔太のカミカゼが、想定したコースから外側へと膨らんできている。そこから推察するに・・・。

「情報源の確保をすんだな」

『いやいや。それじゃあ、普通の知らせだよね』

 TheWOCの人員を拉致るのが、普通の知らせか?

「アキトよ、悪い知らせなんだぞ。もう少し捻ったらどうなんだ」

「捻ってどうする」

「アキトくんの言う通りだよ、ゴウにぃ。アキトくんは常識的なのっ」

「想像力欠如」

 史帆の呟きにアキトはイラつき、即座に反応する。

「じゃあテメーは、悪い知らせが何か想像できんのか?」

「外にある死骸の・・・。あの甲殻獣が、群れを成してTheWOCを追いかけてるとか・・・」

 史帆の素人丸出しの意見に、オレは怒りすら覚えた。

 鼻で笑い飛ばし、嫌味成分をたっぷり振りかけて話してやる。

「バカかテメーは・・・。オレのトレジャーハンターとしての経験上、あれは群れたりしねぇーぜ。だから、オレたちが捕まえてきたんだ。あれに仲間意識があって、追いかけられたりしたら命が幾つあっても足りねー」

『うんうん、僕の経験上でも群れたりしないね』

「うむ俺もだ。少しぶつかっただけでも甲殻でお互いの体を傷つけあう。あの種は団体行動に向いてないぞ」

 オレは大きく頷き、ゴウを褒め称える。

「ゴウも、たまにはイイこと言うぜ」

『そうそう、だから僕もびっくりさ。20メートルクラスの甲殻獣100匹以上の団体様が、TheWOCと本気の追いかけっこしてるね。もちろん追いかけられてるのは、TheWOCのトラック型オリビー御一行様さ。10台ぐらいかな・・・何かの調査に来たんだろうけどね』

 オレの称賛を返せ、ゴウ。

 そして迂闊な自分・・・。5分前からやり直したいぜ。

「・・・当たった?」

 素晴らしい笑顔で翔太は答える。

『大当たりさぁー』

 翔太の笑顔は、危機に際して一層輝く。

 ホント勘弁してほしいぜ。

「ここに甲殻獣の死体があるよね。もしかして同じ種なの?」

『そうそう、取り残された憐れな被害者がいるみたいだから、丁重におもてなしをしないとね。あと甲殻獣の死体は処分した方が良いかな。あんな個性的な生き物が、彼方此方に生息してるとは思えないね。さてさて、アキトはトウカイキジで迎えに来てくれないかな?』

 翔太からの依頼は、宝船のオペレーションルームから離れる言い訳になった。

 そう、史帆と会話しなくて済む。

 オレは渡りに船とばかりに、格納庫へと全力で駆け出した。

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