第8章 アドベンチャーレース! 翔太 VS 風姫(3)
外見と話し方から想像できないが、千沙の活発さは大概である。・・・というより、一般的な女性と比較したら、かなりジャジャ馬な部類だ。
家業とはいえトレジャーハンターになるぐらいなのだから、当然といえば当然なのだが・・・。
翔太がコースを下見をせず、調査をしていなくても、お宝屋にはゴウと千沙がいる。そして情報収集活動と綿密な計画は、千沙の十八番である。
このままじゃヤバイぜ。
過去を検証し反省するのは必要だが、変えられない過去よりも変えられる未来の方が遙かに重要だ。今は、より良い未来のために思考力を注ぎ込むべき・・・か。
「風姫! 最初っからいけるか?」
風姫を勝たせ、早めに宝船を移動させる。
『当然だわ』
透き通る声での強気な言葉。
ほんっと小気味イイぜ。
予定より早いが・・・まあ、何とかなるだろう。
「全力でいけっ!」
風姫のモチベーションをアップさせようと、アキトは活を入れた・・・つもりだった。
『アキトは勘違いしているのかしら? 言われなくても、私は全力でいくわ』
「はっ? ざけんなっ!」
『さっきは全力でいけと言ったわよね?』
「そーじゃねー。オレの指示を聞けってんだ!」
『有益なアドバイスなら、考慮してあげるわ』
さっきまで感じていた小気味の良さが、綺麗に消え去っていた。
このお姫様は・・・。もう、勝たせなくてもイイかなぁー。
『まあ、見ているがいいわ。そして私の勝利を称えなさい』
「ああ、翔太に勝ったら称えてやるぜ」
自分自身を、なっ。
まともにレースしたら勝負にすらなんないぜ。
それをオレの力で、風姫に勝利を齎すんだからな。
数分後。
風姫の駆るカミカゼは、異常なまでの猛スピードで広大な森林地帯に飛び込んだのだった。
「危ないっ・・・あれ」
千沙の上げた声に、史帆が落ち着きを払って答える。
「大丈夫」
「3日間も練習したコースだからな」
千沙の疑問に、オレは積極的に答えるつもりだ。
話題を逸らすためにも・・・。
「でも・・・」
「カミカゼにコースを記憶させてあるんだぜ」
「うむ・・・だが、アキトよ。あれは反則だぞ」
「マシンだけじゃなく、レースのコースもキチンと整備しないとな。取り決めにはコースの整備をしてはいけないとはなかったぜ」
不自然なまでに拓けている。開拓どころか移住も始まっていない惑星の大森林が、だ。
「コースの整備して良いともしてないぞ・・・だが、認めざるを得ないか」
「ア~キ~ト~く~ん~。あたしにはジュズマルを使って翔太をアシストしてるのに対して文句言ったのに・・・ズルいよ~」
「言ってない」
納得していない表情を千沙が浮かべているので、アキトは説明すべきと判断した。
「文句じゃないぜ。千沙がどんなサポートを翔太にしたのかを尋ねたんだ。批難したわけでも、糾弾したわけでも、問責したわけでも、咎めたわけでもないぜ。ただ、ちょーっと強く質問しただけだろ」
納得はしたようだが、むくれた表情へと変化していた。それでも千沙は、可愛いらしい。それは反則だろう・・・。
「どうやったんだ? 今更レースを中止にしたりしないから、安心してネタばらしして良いぞ」
「コウゲイシの正しい使用例だぜ。七福神ロボ・・・主に弁才天を使って木を伐採していったんだ。8本も腕があると捗るな」
「でもアキトくん、宝船の周辺から離れなかったよね。どうやったの~?」
「オレは七福神ロボを堪能・・・いや、チューニングしてたからな。風姫と史帆の2人が頑張って切り拓いてたぜ」
何の兆しも現れていないのに、風姫がカミカゼをレースで規定した限界高度まで緩やかに上昇させた。上下動しない方が、距離を稼げるのは自明である。それにも関わらず上昇したのだ。
その理由が直後に判明する。
前方に全長2メートル前後の未知の生物が、群れを成して顕れたのだ。
「むむ・・・むむむぅー。カミカゼ水龍カスタムモデルには、水龍カンパニーの最新索敵システムが搭載されていたな。それにしても・・・」
ざっと数百万平方キロメートルにもなるだろう森林地帯は、翔太の疾走している場所でもある。それに3日前、おもしろそうな戦利品を捕らえたのも、この森林地帯であった。
そう、様々な動物が生活しているのだ。
遭遇は必然。
突然の遭遇に対する備えは、アキトにとって当然であり、考えもせずレースに臨むのはあり得ない。




