第8章 アドベンチャーレース! 翔太 VS 風姫(2)
千沙から説明を聞いて、オレは愕然とした。
ジンに無理矢理させられた訓練で、必要な時に必要な分だけ機体性能を発揮させることと、先読みの重要性を翔太は痛感したそうだ。文字通り、痛みを伴った訓練だったらしい・・・。
そして先読みは、才能より経験がモノをいう。
オレが翔太に用意した宝船の移動シミュレーションは、経験不足を補うのに相当効果があったらしい。
木をみて森をみず。
細部に神は宿る。
物造りに臨む際、オレが心に留めてる言葉だ。
製作するモノの目的や用途を決め、全体像を明確にする。そうしなければ、バランスのとれた設計ができない。最新の高性能品を試したいとかで木だけをみて、全体像である森をみなければ設計段階で失敗は約束されるだろう。一部分だけ高性能品を使用しても全体の性能向上に寄与しなかったり、他の部品に余計な負荷がかかったりする。
細部も手を抜かず、考えに考えて製作したモノは、想定以上の性能を発揮したり、製作意図と別の用途にも応用できるモノになったりする。
オレは宝船を隠蔽できる位置に安全に移動させるため、その場所の詳細な地形データを入力した。それ以外にも、大気圏突入時に収集した惑星ヒメジャノメの気象データや、想定した様々なイレギュラーケースを入力していた。そして限定人工知能に演算させ、作成したシミュレーションだ。
理論的には、シミュレーションパターンは無限。そして1回毎に異なる訓練の結果が、翔太のスキルアップへと繋がったのだ。
3日間、食事時以外に姿を見せなかったのは、シミュレーション漬けになっていたのが理由だという・・・。どうせ漬かったなら、発酵して熟成して腐っちまえば良かったのになっ。
敵は、まさに身内にいた。・・・というより、オレも敵だったとはな。
驚きの展開だぜ。
アキトは偽悪的な思考で、自分自身を立て直そうとしている。しかしショックが大きすぎたようで、体はフリーズを続けていた。
ジンだけでなくオレもか・・・知らない内にオレまで翔太のスキルアップを手伝ってしまうとは・・・スキルアップ自体は構わない。時期が悪かった。とはいえ、宝船を移動させる前にシミュレーション訓練をさせなければならなかった。シミュレーション訓練の結果、翔太はスキルが上昇した。翔太のスキルアップは、風姫の勝利の阻害要因でしかない。シミュレーション訓練をレース後にしていたら・・・ダメだな。レース後は速やかに宝船を移動させたい。全員の安全と風姫の勝利を天秤にかけたら、全員の安全が圧倒的に重い。
ヘルだけだったなら、迷っていたぜ。
結論は出ているにも関わらず、アキトの思考はループしている。
「アキトくん。翔太が森林地帯に入ったよ」
いつの間にか千沙がアキトの傍にきていて、肩に手を置き声をかけたのだ。
俯き加減になっていた視線をメインディスプレイに戻し、アキトは翔太の走行をじっくりと観察する。そして瞬きすら忘れ、翔太の走行テクニックに魅入ったのだ。
森の木々の間を疾走するカミカゼは、数ミリぐらいの近距離で回避している。もちろん、常に近距離で回避している訳でなく、先に先にと的確にコースを選択している。近距離になる時は、リスクを取ってでもリターンが大きい場合だ。
オレの予測とほぼ同じコースを、オレの対応できない速度で走り抜ける。
「すっげぇー・・・」
アキトは思わず呟いていた。
右に左にとトライアングルを傾け弧を描いては幹を躱す。そしてスムーズに上昇下降して枝を避け、時には横回転し逆さまになる。翔太のカミカゼは、決められたコースで競技しているかのように、華麗なテクニックを披露している。もはや神業だった。
熱い視線を注いでいる史帆は、言葉が出ないどころか身動ぎすらしていない。
マルチアジャストという反則級のスキル・・・だからといって、神業の如き技術があった訳ではない。先読みスキルの向上も寄与しているのだろう。だが・・・。
「なんでだ? なんで、あんなにも先読み・・・いや、先が見えんだ? 精確に予測できなきゃ、いくら翔太でもムリだろ」
先読みは、相手やモノの動きを予測する。
先が見えるは、あるがままの状態を予測する。
アキトは正確でいて精確に物事を把握するため、用語を使い分けている。そして、アキトの用語の使い分けを千沙は熟知している。
千沙の動揺がアキトの肩に置いた手から伝わってきた。
「千ぃー沙ぁー」
アキトの中で、ある推測に辿り着いた。
徐に、アキトは千沙の顔に視線を向け、ブラウンの瞳の奥を覗き込みつつ口を開く。
「さあーってと、見せてくれないかなぁー」
「何・・・をなの~」
「まずは森林地帯の地図。それと・・・次にクールグラスに表示している3次元サポートと、翔太に渡した事前情報かな」
索敵システムのレーダー装置には、通常のカメラも搭載されていて周辺の映像を見ることもできる。ただ、それだけでは装置と装置の間の地図を作成することは不可能。
しかし新造した宝船の索敵システムは、自律飛行偵察機で能動的に情報収集させることが可能である。
そして大気圏宇宙兼用の自律飛行偵察機”ジュズマル”が、7機も搭載されているのだ。
オレもジュズマルを飛ばそうと考えた。
しかし索敵システムのレーダーを、全力のアクティブモードで使用する必要があり、断念したのだ。
惑星ヒメジャノメに住人はいないし、開発している訳でもない。そんな惑星でレーダー索敵を全力で実行するというのは、居場所を喧伝するようなものだ。TheWOCのベースがレーダーの届かない場所であれば良いが・・・。
千沙には女子として、もう少し慎み深くあって欲しかった。




