第7章 冒険とトレジャーハンティング(8)
宝船のメインディスプレイに周辺地形図を映し出し、重力波分析の結果を上に重ねて表示していた。
「うむ、候補地は3ケ所だな」
「いやいや。ゴウ兄、4ケ所さ。ここを忘れてるよ」
翔太の言う通り、この場所も候補地である。
大気圏突入時にアキトはGE計測分析機器を使用して、重力波異常の顕著な位置を探しだしたのだった。その中でも、ここは広い草原で着陸が容易だった。
「だが翔太よ。ここは、野生動物の襲撃に備えるなら絶好のポイントではあっても、TheWOCと戦火を交えるには不利だぞ」
まず、戦闘を回避する方向で考えようぜ。
だが、ツッコミは入れない。絶対に入れない。
開幕されたお宝屋劇場にオレまで巻き込まれてたまるか。暫く静観してから、議論が充分に煮詰まった頃を見計らって意見をだす。そうでなければ
「まあまあ、ゴウ兄。この広い惑星ヒメジャノメで300メートルの船を見つけるのは至難の業だよ。宝船の通信装置から送信でもしない限り、ここを発見するのは無理さ。だから、戦火を交えることはないよ」
送信はするんだよ。
送信しないで、どうやってジン達と連絡を取るつもりなんだ?
ジン達が迎えに来れないような場合になっていたら、ルリタテハ王国軍が出撃するだろうぜ。そん時、どうやってオレたちの無事をルリタテハ王国側に知らせるんだ?
それにだな。昨日オレたちが警戒網構築した時、短距離通信用とはいえ盛大に無線連絡を取り合ってたろうが。
「TheWOCが物量作戦で包囲してくれば反撃は難しく、突破しての退却も無理だろうな。ここは人工衛星から偵察でもされれば、瞬時に見つかるぞ」
だ、か、らぁ・・・。人工衛星に発見されないよう宝船の上に光学迷彩を展開してんだろって。トレジャーハンティングの何に使用するため、光学迷彩装置が宝船に搭載されいるのか知らねぇーけどなっ。
「いやいや、それは大丈夫さ。軍事用の光学迷彩装置でカモフラージュしてるしね」
「おおっ、そうだったな・・・。うむ。ならば、もうここでも良いぞ」
「待てよ、ゴウ。しっかりと検討すべきだ」
我慢の限界に達したアキトが口を開いたのだ。そして言葉を続け、自論を展開する。
「ここより他の3ヶ所の方が、敵のレーダー索敵に引っかかり難いぜ。光学迷彩なんて、衛星の眼を誤魔化すぐらいしかできない。敵が200キロメートル圏内に入ってくれば、まず発見されるぜ。森の峡谷の近傍が安全だとオレは考えてる」
「でも、アキトくん。そこだと、暗いしジメジメしてるよ・・・」
千沙は警戒網を使って候補地の調査をしていた。
それが分かる発言だったが、議論のポイントを外しまくっている。
「他の3ヶ所の方が安全とは限らないぞ。移動することによって、敵の索敵システムに察知される可能性もある。わざわざリスクを冒す必要はないぞ。移動するのも面倒だ」
流石にゴウは、しっかりと議論のポイントをついた発言をしたのだが・・・。最後の台詞で、本音をダダ漏らしていた。
アキトは風姫達と自分自身の為にも、最善手を打っておきたい。それには、敵の情報を共有するべきと考え、さっきから一言も発していないヘルに声をかける。
「おい、ヘル・・・。ヘ、ヘル?」
アキトは全然反応を返さないヘルに視線を向けた。
どうやら、ゴウから手に入れたヒヒイロカネ合金の組成情報に夢中なようだ。
顔を動かさないヘルの許までアキトは突進し、サブディスプレイに手を付いて情報を遮ったのだ。
「おいっ、シュテファン・ヘル!」
すぐ傍で大声を出し名前を呼んたが、それでもヘルは顔を動かさない。
サブディスプレイに表示されているヒヒイロカネ合金の組成情報は、すでにヘルの頭の中にある。今は宝船の限定人工知能量子コンピューターを相手に様々なケースを検討しているのだ。それはコネクト経由でルーラーリングで双方向通信で実施しているため、自分を外側の世界から隔離しても問題ない。むしろ隔離された方が集中でき、ヘルにとって都合が良いぐらいなのだ。
「我輩は、すでに義務を果たした。打ち合わせが終了するまで勝手にさせてもらう」
「そうだ、ヘルよ。宝船の装甲板で強度テストをしたいんだよな? ヒヒイロカネ合金の組成情報だけで満足か? ヒヒイロカネ合金を使って色々な実験をしたいんだろ。宝船には補修用の装甲版のストックがあるぞ。どうだぁあ・・・。実験したくないか? 実験したいよなぁあああ?」
「なんだとぉおぉおおおーーー。実験するに決まっているではないか。それ以外あり得ない。ぜっっったぁいに、我輩は実験をするぅううう」
「そうだな。では、交換条件だ。この会議に、今から積極的に参加しろ。そして、まずはアキトの問いに答えるのだ」
「我輩に何を望むのだ。さあぁああ、告げるが良いっ!」
「TheWOCが惑星ヒメジャノメに投入している戦力と、索敵能力をどう評価したらイイ?」
「ユキヒョウと同レベル。そう考えておけば問題はないだろうな。The
WOCは軍用品を運用してたようだが、技術力ではルリタテハ王家とでは勝負にすらならん。ルリタテハ王国のトップメーカーとだと比較にすらならん。我が輩を放逐したツケであるな」
そう言いながらヘルは、メインディスプレイに膨大なデータを表示したのだ。ヘルの専門はダークマターの解析のはずだが・・・。
表示されているデータは、民主主義国連合の軍事情報に違いない。
声に出すとヘルが勝手に盛り上がりそうなので、心の中でツッコんでおいてやる。
いいかテメーが残ってようがいまいが、TheWOCの技術力向上には寄与しねぇーぜ。
「ふっはっはっははーーー。宝船はルリタテハ王国の最先端技術と、量産の目処すらたっていない開発したての技術で建造されたのだ。トレジャーハンティング専用恒星間宇宙船の中では、あらゆる面で間違いなく1番だぞ」
それって実験台じゃねぇーか?
「居住性が犠牲にされてるよ~ お風呂が1つしかないもの」
「うむ、居住性の除いたあらゆる面で1番だ」
「いやいや、ゴウ兄。七福神の攻撃力は良いとしてさ。宝船の武装は火力不足だと思うよ」
翔太は何処を目指しているんだ? 宝船を海賊船にして、貨物船相手にトレジャーハンティングをするつもりか?
「そう1度に解決しないぞ。コツコツと実績を重ね、必要性をアピールする。そうして、宝船の攻撃力不足を理解してもらわねばな」
いったい何の実績を、コツコツと重ねるつもりなんだ?
「我輩には、宝船の限定人工知能への強制介入権限が必要だ。今の権限では我輩の演算要求の優先度が低すぎて、量子コンピューターの性能をフルに使用できないのだ。これは由々しき事態なのだ」
ヘルの限定人工知能量子コンピューターへのアクセス権限は、オレが設定した。ゴウが権限付与を設定する前に、オレがその話を聞きつけたからだ。
あのままゴウに設定を任せていたらと考えると、全身に悪寒が駆けめぐるぜ。
なんせ警戒網と同等の権限を与えようとしていた。先に量子コンピューターへ命令して、リソースを確保した方の演算が実行される。つまりヘルが量子コンピューターに負荷をかけ続けていると警戒網が何かを探知した際、分析に支障をきたす。探知した何かが敵なのか、惑星の生物なのか、ジン達なのか判断できないということだ。
さあ、必要な情報は出揃った。
あとはゴウがオレたちを牽引するはずだ。
オレは殺し文句を放つ。
「いい加減、決断しようぜ。オレはゴウの決定に従う。異論は唱えないぜ」
ゴウはヘルの表示した軍事情報をサブディスプレイに移動させ、再度宝船の周辺地図をメインディスプレイに映した。そして徐にサブディスプレイの1点を指差す。
「おいっ」
オレはゴウにツッコんだ。
そこは、さっきオレが提案した場所だったのだ。




