第7章 冒険とトレジャーハンティング(7)
宝船のオペレーションルームに安寧をもたらす為に、アキトは多大な努力をはらい。それが漸く実を結び、会話のできる雰囲気になった。ただし詳細の説明を求められた。
「デスホワイトがルリタテハ唯一神だと? 俺は知らなかったぞ。どういうことなんだ?」
翔太に至っては言うだけ言って、アキトに丸投げしていた。
「風姫さんて、お姫様なの?」
密着させた体は離さず、千沙は顔だけ動かしアキトを見上げていた。
千沙に抱きつかれたアキトは、心地よい柔らかさと芳しい香り、可愛らしい顔を間近にして言葉を発せずにいた。
そこに、念押しするように千沙が願望を口にする。
「アキトくんは、王都になんて行かないよね?」
ヘルは我関せずと宝船の端末にコネクトを置き、嬉々としてサブディスプレイに魅入っている。
未だ抱きついている千沙の背を、アキトは指先で軽く叩き、落ち着いてと伝える。名残惜しそうな千沙に、穏やかな笑顔をアキトが浮かべると、腕がゆっくりと解かれた。
アキトは穏やかな笑顔の裏に、翔太への罵詈雑言を隠していた。
翔太のヤツ・・・。何が「僕はお守り役じゃない」だっ! オレだってなぁ。お守り役じゃねぇーんだぜ!
千沙は大人しく、自分の定位置である情報統括オペレーター席に座った。
ゴウは仁王立ちになり、アキトを注視している。嘘や誤魔化しは少しも許さないと、黒い瞳で語っていた。
オペレーションルームの扉まで移動し背を預け、ライトブラウンの髪を翔太はかきあげた。そして、ブラウンの瞳を静かに閉じた。自分の出番は終わったとばかりに・・・。
終わらせるかよっ!
背後に陣取る翔太へ、振り向きざまに声をかける。
「でっ、翔太。何から話せばイイ? さあぁー、訊いてくれ」
オレは踵を返すと、空いているオペレーター席へと進む。
新造宝船でも船の全機器を監視できる席が、オレの定位置として用意されていたのだ。オレがお宝屋に戻った時に、技術者として利用する気でいるに違いない。
まあ、戻る気はないが・・・。
「いやいや、僕が訊きたいことはないさ。ゴウにぃと千沙の質問に答え・・・。そうそう。アキトくんと風姫さんの契約って、永続的なものなのかな?」
「おおーっと、見事な手の平返しだぜ。ゴウと千沙に譲らないのか?」
「まあまあ、重要なことだからさ。教えてくれないかな? アキト」
「あっちは永続的だと主張してるようだぜ」
アキトは他人事のように言う。
「あれあれ。相手の所為にするのは、どうなのかなぁー? もっとはっきり訊くと、彼女との関係を教えて欲しいんだけどね」
千沙の頬が仄かに赤くなる。
「あっちの主張だと、主人と従者らしいぜ」
「言葉遊びは好きだけどさ。肝心なことだから端的に訊くよ。アキトは王位継承順位第7位、一条風姫のフィアンセなのかい?」
「間違ってんな。王位継承順位は第8位だぜ」
「アキトくん・・・」
これ以上答えを渋ると千沙の心臓が持ちそうにないので、アキトは真実を告げることにした。
「ルリタテハ王国王家守護職五位に任命されたんだ。ムリヤリな・・・」
ため息を1つ吐いてから、アキトは惑星コムラサキで千沙と別れた後の顛末を簡単に説明したのだ。
千沙は羨望の眼差しで宙を眺めている。
きっと千沙の中では、物語として壮大な装飾が施されているのだろう。
「・・・少なくとも命懸けの貢献をするまでは、一緒にいるのがオレの責務と考えてんだ」
その話にゴウは呆れた表情を浮かべ、正論を述べる。
「そも、そんな契約は無効だぞ。命に関わるようなリスクがあるなら、事前に告知すべきだ。それが分かっていながら契約締結時に伝えないのは、情報提供義務違反だぞ。説明責任も果たしていない。トレジャーハンティングは、常に命の危険に晒されるため、依頼者には特段の注意義務がある」
「ゴウにぃっ! お姫様なのに自分の身を省みず、命懸けでアキトくんを助けてくれたんだよ。そこは絶対に重要なのっ!」
「うむ。では、アキトが一生従者になっても良いのか? 俺は困るぞ」
「それは・・・ダメだけど・・・」
「そうそう。アキトは、お宝屋に戻るんだからさ」
「待てぇーいぃ、適当言うな。オレはお宝屋に戻る気も、従者になって一生を過ごす気なんてサラサラないぜ。テメーらの都合を混ぜて、人の生活を定義しようとすんな。ジンからは、いつでも自由になれる。今はオレのメリットになるから一緒にいるだけだぜ」
アキトが席に腰をかけると、ゴウと千沙が問い詰めるかのように質問を投げる。
「ルリタテハ王国唯一神とか?」
「お姫様となの?」
「そうだぜ」
ゴウの口振りからは、ジンに対して含むところがあるのを感じ取れた。
「アンドロイドとか?」
「史帆さんとなの?」
「ああ、そうだぜ」
千沙の口振りからは、ユキヒョウの女性乗組員に対して含むところがあるのを感じ取れた。
「シュテファン・ヘルとか?」
「彩香さんとなの?」
「ああ、そうだぜってっ! くどいっ!! 時間の浪費が、後々問題になるかも知んねぇーんだぜ」
「でもね」
まだユキヒョウの乗組員構成に口を出すのかと、アキトは視線を千沙に向けた。しかし千沙の
「一番遅かったのはアキトくんだよ。何してたの~?」
アキトは千沙から、思いっきり顔を叛けた。首の限界点で、ゴウと視線が交錯したので、これ奇貨としアキトはゴウに問う。
「良く、ヘルを連れてこれたな」
幸いゴウは話に乗ってきてくれた。
「簡単な事だぞ。こういう輩は、するなとか、ダメとかの否定でなく、追加のご褒美をあげれば良いのだ」
「我輩は子供か?」
ヘルが顔も上げず、禿げ頭を向けたまま反論を口にした。しかし、その協調性のない姿は子供といっても過言ではない。
「まあまあ、大人も子供も損得で動くものさ。大人は義理と人情、契約に縛られるから、そう見えない時があるけどね」
「ああ、なるほど子供だからか。納得だぜ」
ヘルは宝船のサブディスプレイからアキトに顔を向け再反論する。
「ちっがぁーーーうっ。貴様のように中途半端な探究心ではなく、我輩は全身全霊で宇宙の謎に挑んでいるのだ。決して・・・」
「子供みたいだよ~」
「そんで、ご褒美は何なんだ?」
「うむ、ヒヒイロカネ合金の組成情報だ」
「いいのか? それって重要機密だぜ」
「今更、変更はぁあああ、ぜっっったいに許さないのだっ。もしも約束を反故にするなら、宝船の装甲板で強度テストを実施するぅううう。し、か、もぉーっだ、分析解析テスト分析解析テスト分析解析テストを繰り返しまくって、必ずや組成情報を明らかにしてみせるのだぁああああ」
「構わんぞ。俺は約束は守る男だ。すでに許可も取ってある」
「それでぇーはっ、我輩の知識と知恵を披露してやろう。さあ、ほれ。ほれ、早く尋ねるが良い」
ヘル、めんどくせぇー。お宝屋の倍以上の扱い難さだぜ。
知恵も提供させるつもりでいたけど、オレが我慢できそうにない。怒りで頭のキレを鈍らせるよりは、知識だけ吐かせて、さっさと臨時研究室にでも籠もってもらおう。
「さて、と。今後のトレジャーハンティングの方針と計画について、議論を始めようか」
アキトは会議の開始を宣言したのだった。




