第7章 冒険とトレジャーハンティング(5)
「風姫さんって、何者なのかな~」
宝船のオペレーションルームで、翔太と千沙がメインディスプレイに映る広大な草原を眺めながら浮ついた話をしている。重要な相談の前なのに、心にゆとりが有り余っているようだ。
「僕たちとは住む世界が違う人さ」
「そう言ってたねぇ~」
「そうそう。よくよく思い出してみると、僕たちとアキトの住む世界が違うと言ってたかな? 彼女は、アキトが新開家に連なる者だと知っているんだろうね。だから、住む世界が違うと言ったのさ」
翔太が自信をもって披露した推理は、大きく的を外していた。
風姫はアキトが新開家の人間ということを知らない。というより、新開グループがルリタテハ王国に多大な影響を与え続けている大企業であると、風姫は知らないのだ。
新開グループの売上高はルリタテハ王国内で31位。しかも業種が機械、エナジー、量子、化学など科学分野に偏っているため、風姫にとって馴染のある製品が殆どない。王女とはいえ、15歳の少女が興味をもつ分野ではない。
それに新開グループの売上高や製品などでは計り知れない、無形の影響力を新開家は有している。その影響力は風姫どころか、ジンの想像をも遥かに超えているのだ。
新開家は多額の資金を投入し、新開財団を設立運営している。その財団は新開グループの社員の子に対し手厚い奨学制度を設けているのだ。
ルリタテハ王国は教育に力を入れていて、国公立大学の教育費は無償である。しかし大学は義務教育ではないため、衣食住は自己負担となる。そこで財団は、衣食住に加えて長期休暇の際の帰省費用など、多岐に亘り援助している。しかも大学に入ってからだけでなく、入る前の援助も多種多様に用意しているのだ。新開グループの社員の子は、ルリタテハ王国内の様々な分野で活躍している。その人脈が新開家の人財となり、ルリタテハ王国内で隅々まで影響力を行使できるのだ。
トレジャーハンティングユニットお宝屋は、新開家の人脈が結びつけた縁なのだった。そして翔太と千沙にとって親兄弟と同じくらい、アキトとの縁は非常に大事なものとなっているのだ。
「どこかのお嬢様なのかな~?」
「お金持ちで・・・いいや大金持ちではあるさ。なにせ、武装した恒星間宇宙船に乗り、傭兵とボディーガードを雇って、サムライシリーズまで配備してるんだからねぇー」
「美人さんだし・・・アキトくんの雇い主らしいし・・・強いみたいだし・・・お金持ちだし・・・。あたし、どうすれば良いのかな?」
「千沙は充分に可愛いさ。彼女とは、方向性が違うだけじゃないかな?」
風姫は綺麗で美しい容姿をもち、華やかな雰囲気を纏っている。千沙は愛らしく可愛い容姿で、庇護欲を刺激される。
「じゃあ・・・アキトくんは、どっちが好みなの?」
翔太は笑顔でキッパリと、一切の迷いもなく千沙に教える。
「彼女だろうね」
学生時代とトレジャーハンターの期間を合わせ4年間。多くの時間を一緒に過ごした翔太は、アキトの好みを良く把握していた。
「そこは嘘でも、兄妹なんだから妹の肩を持つべきじゃないの」
「僕は常々、自分に正直でありたいと考えているのさ」
「それで周りの人に、だいぶ迷惑かかっているって自覚してるの?」
「僕は気にしてないさ」
翔太は軽薄な口調で、千沙しかいないのに爽やかな笑顔を周囲に振り撒いた。
「周りが気にしてるのっ!」
「ただのルリタテハの破壊魔・・・ではないようだねぇー。ルリタテハ王国の王都で暴れ回ったにも関わらず顔すら知られてない。そんなこと、新開家ですらムリさ。不思議としか言いようがないよね」
「もしかして・・・裏社会の人ってことなの?」
オペレーションルームの扉が開き、賑やかな話し声が2人の耳朶を打つ。
「ゴウにぃなら分かるのかな?」
「少なくとも、僕たちよりは王都の事情に詳しいだろうさ」
2人はオペレーションルームに入ってきたゴウとヘルに視線を向けた。賑やかと感じているのは、翔太と千沙の感性がお宝屋に染まっているからである。通常人の感性なら、控えめに言って議論。言葉を飾らなければ論争、舌戦、口論、言い争いと呼ばれる類のものだった。
「ゴウにぃ。風姫さんて何者なの?」
「んっ? あいつはルリタテハ王国の王女だぞ」
「「は?」」
「たしか・・・王位継承順位は第10位? いや第7位? あー、まあ。そんな事どっちでもいいが、とにかく王位継承権をもってる一条風姫だな」
翔太と千沙が驚愕する。
「・・・いやいや。本当に・・・かい?」
「ゴウにぃ・・・本当?」
「間違いないぞ。ルリタテハの破壊魔が風姫王女だというのは、王都の官僚の間では有名な話だな。官僚たちの口から漏れるのは愚痴というより、呪詛だという噂だ」
暢気に答えたゴウに続いて、張り合うかのようにヘルが暴露する。
「良いかぁああああ。我輩も素晴らしい情報を提供してやろう。なぁああああーーんと、ジンの正体は現ロボ神、一条隼人であぁーるっ」
お宝屋3兄弟は衝撃の事実を前に、刹那動きが止まる。
「ふっはっはっははーーー。よもや敵だったとはな。これで遠慮は要らなくなったぞ」
「敵だと?」
「いやいや、ゴウ兄。不倶戴天の、が抜けてるよ」
「赦してあげようよ~。本人の所為じゃないんだよ」
「貴様ら、何を言ってるのだ?」
「いいかぁあああーー!! 俺たちの宝船には、七福神様が乗船なさっているのだ。それを頭の固い管理局の連中が、型式を七福神で登録しようとしたら却下されたのだ。何が、ルリタテハ神以外は信仰してはいけないだ。形式論や建前など知ったことか。宝船に乗船なさっているのは七福神様だぁああーー」
コウゲイシなど、ある一定以上の大きさの人が乗る機械は、乗用機器管理局への登録義務がある。登録しなければ、ルリタテハ王国内での使用を禁じられるのだ。
「・・・どういうことだ?」
誰に訊こうかと、ヘルは迷ったが千沙に尋ねた。
それは良い人選だった。ゴウと翔太に尋ねたのでは、いつ話が本題に入れるか分かったもんじゃない。ただの同族嫌悪だったのかもしれないが・・・。
「型式名が”七福”はちょっと・・・ね。でも名称は、そのまま登録できたの」
アキトのトライアングルであれば、型式は”シンキ・カイ”で、名称は”カミカゼ”である。
「そうそう。まあー、毘沙門天とか大黒天とかに”天”はついても、”神”はついてなかったからね」
「我輩には、一切、まぁぁぁぁったく理解できんな」
「そもそも、お宝屋は無宗教だから、七福神を信仰してないしさ」
「なんだと? 信仰していない・・・?」
「祀ってもいないよ。それに儀式とかしたことないもの」
「・・・まあ、確か仕信仰はしていない。しかぁーし、七福神は七福神なのだっ!!」
「我輩が言うのも何だが・・・。貴様ら、もう少し真剣に生きろ」
アキトがいたら、「ホントになっ!」とツッコミを入れただろう。しかし、少しだけタイミングがずれていた。彼は今、宝船の格納庫からオペレーションルームへと向かう途中だった。




