第7章 冒険とトレジャーハンティング(4)
「どう? 適合率93パーセントにまで調整できたけど・・・」
「そうねぇ。分からないから、ちょっと動かしてみるわ」
風姫は史帆に答えると同時に、ルーラーリング適合率測定調整装置から両腕を抜き、アキトのカミカゼ水龍カスタムモデルに飛び乗った。
「おい、史帆」
「なに?」
「レースの後で、ちゃんと戻しておけよな。オレのカミカゼなんだぜ」
宝船の格納庫でアキト監修のもと、史帆はカミカゼと風姫の適合率を調整していたのだった。
カミカゼは軍事用ではないので、マルチドライバーモードシステムを搭載していない。しかもアキト用に調整していたので、風姫の適合率は72パーセントだった。
カミカゼを操縦するには適合率が50パーセントでも問題ない。しかし水龍カスタムモデルは、最低70パーセントの適合率が必要となる。
ギリギリ操縦できるレベルの適合率ではレース以前の問題で、翔太の勝利は疑いようがない。翔太の約4分の3の距離で、水龍カスタムモデルを使用するというハンデがあっても絶対にムリだ。
「わかった。でも・・・ハードが壊れたら、どうにもならない」
カミカゼを宙に浮かせ、その場で180度横回転したり、機体を少しずつ傾けたりと微妙な操作をしている。
「風姫、壊すなよ。絶対にだからなっ!」
「ダメになったら、新しいカミカゼ水龍カスタムモデルを買ってあげるわ」
「そういう問題じゃねぇーぜ」
真摯に向き合ってカスタマイズした、オレのカミカゼなんだ。2代目はいらねぇーぜ。
2台目なら歓迎だがな。
「私の勝利が最優先だわっ!」
そう言い残して、風の妖精姫は眩い光の先へと針路を取り、カミカゼと共に風を纏いながら格納庫から飛び出していった。
光の中に消えてゆく風姫とカミカゼを見送りながらオレは考えていた。風姫が翔太に勝つ方法を・・・。
正面から正直にレースに臨めば、絶対に負けるな。風姫は勝つ気でいるらしいが、このままじゃ勝負にすらならねぇーぜ。いくら訓練しても勝負になるレベルまで、操縦テクニックを上げるのはムリだ・・・たとえ何年かかっても。それなら、ルールの範囲内で工夫するしかねぇーな。
風姫を追って外へ以降とする史帆に声をかける。
「あーっと、史帆。ちょっと待て」
「なに?」
眉根を寄せた、あからさまに嫌そうな表情をみせた。
「ロイヤルリングなら適合率をもっと上げられるだろうけど、それだけじゃ翔太には勝てないぜ」
「どうして?」
「マルチアジャストのスキルを甘くみるな。翔太は伊達と酔狂と屋号のためにトレジャーハンターをやってんだぜ。レーサーになれば、すぐに王国一になる」
「なんで?」
「2年前ヒメシロ星系の第3惑星が、惑星一巡アドベンチャーレースの会場になったろ? そん時”ロイド”グループが参加しなかったよな? それ翔太の所為だぜ」
惑星一巡アドベンチャーレースは年に2回だけ開催されるルリタテハ王国で最も過酷なレースである。ただレースの内容は単純で、人の住めない惑星を1周するだけだ。
だが幅100キロメートルのコース中には、様々な危険が待ち受けている。危険を避けてオリビーを操縦するとなると、100キロメートルの幅を目一杯に使ってジグザグ走行しなければならない。
「えっ! どういう事?」
「訊きたいんだな?」
史帆にしては珍しく、大きな動作で頷いている。心なしか、顔を紅潮させてるようもみえる。
まあ、翔太の容姿は充分に女性受けする。
それに、マルチアジャストという才能がある。
技術者ならば憧れざるを得ない才能だろう。是が非でも親しくなり、開発した機械の操作を依頼したい。
「お宝屋がロイドから依頼を受けて、レースのコースを案内することになったんだ。ゴウは翔太にコースを走らせることにしたんだよ。だけど、14歳の子供にコースを案内される一流のレーサー達は、侮辱されたと思ったんだろうな。すっげぇー怒ってたぜ。自分達のプライドを護るために翔太にコースを走れるのかってバカにしたんだよ。そんで翔太は、ロイドの用意した自分用に調整もしてないオリビーに乗り込んで、レーサー達を案内したんだ・・・」
ヒメシロ星系の第3惑星は、炎の惑星と呼ばれている。彼方此方から溶岩が流れだしていて、時に熱湯が地面から噴き出し、突如として大気中に炎が顕れる。
そして惑星一巡アドベンチャーレースの常として、コースの中央は最も危険になっている。
翔太はコースの中央を躊躇なく最高速で走行した。調整もしていないオリビーに負ける訳はずないと、レーサー達は翔太のオリビーを追っていった。
あるオリビーは炎に焼かれ、また違うオリビーは水蒸気爆発に巻き込まれた。
その結果、ロイド所属の5人のレーサーは全員重傷を負い、ヒメシロ星系の第3惑星での惑星一巡アドベンチャーレースに出場できなくなった。ルリタテハ王国のオリビー製造で第1位と名高いロイドが、惑星一巡アドベンチャーレースに参加できなかったのは初めてであった。
「凄い、凄い。凄すぎる。でも・・・何でアキトが知ってる?」
「惑星一巡アドベンチャーレースはパイロットとナビの2名1組だぜ」
「だから?」
「そん時、翔太をナビしたのはオレだ」
史帆の驚いた表情に気を良くしたオレは、求められるままに翔太と自分の武勇伝を事細かく語った。
「・・・。だから今のままレースに臨んでは、風姫じゃ絶対に勝てねぇー。だが作戦次第で・・・」
本題に入ろうとした途端、カミカゼが風と共に格納庫に戻ってきた。
「2人で何してるのかしら?」
ついつい調子に乗り、話しが長くなったようだった。
風姫は眼を細め、突き刺すような視線を送って来る。主に史帆に向かって・・・。
「翔太君の話を聞いてた」
「ふぅーん。アキトって男の子の話を30分も語れるんだ。そういう趣味があるとは知らなかったわ」
風姫に向き直り、オレは両腕を組んで告げる。
「テメーの為に作戦を練ってたんだぜ」
「・・・。それなら仕方ないわ」
「それより、そういう趣味とは、どういう趣味か聞かせて貰えねぇーか?」
さっきまで真剣な表情だった風姫は、オレから顔を背け、慌てて話を逸らす。
「私の為の作戦を聞かせてくれないかしら?」
ツッコミを入れるのも面倒だし、ゴウ達と相談する時刻が近づいてきたので、オレはさっさと作戦を語ることにした。そうすれば、オレの自由時間が増え、風姫は作戦の為に多くの時間を割かねばならない。レースが始まる前までに、如何に大量の成果を得られるかが勝利を左右する。
オレが準備を手伝うと作戦が露見するだろう。レースが開始する前に露見したら、作戦はそこで失敗となる。オレが風姫に接触すると作戦の成否に関わるのだ。




