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エレメンツハンター  作者: 柏倉
第2部 ルリタテハ王国の神様の所業
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第7章 冒険とトレジャーハンティング(3)

 そして宝船のオペレーションルームに集まった当初の目的を、3人は完全に忘れ去っていた。当初はアキト達の状況確認をする予定だったのだ。しかし連絡が全く取れず、会話内容が自分達の興味に移っていた。

 因みにヘルは招集に応じず、最初から格納庫で自分の興味・・・としうより欲望の赴くままに行動していた。

「ルリタテハ王国の共通7教科テストでね。アキトくんは総合成績で、アカタテハ星域地区の学年首位の座を、3年間1度も明け渡さなかったの」

 ルリタテハ王国では年2回、学年ごとに共通のテストが実施されるのだ。しかし、その成績は、大学進学の指標にならない。

 ルリタテハ王国の大学への進学時の年齢は、20歳代の割合が一番多い。次は30歳代である。つまり受験のライバルは、同級生でなく上級生、もしくは一度社会人になった人達になるからだ。

「先生達は当然、アキトくんが大学進学するだろうって思ってたらしいんだけど、学力検査すら受験しなかったの。宝船に乗って、あたしと一緒にトレジャーハンティングするために・・・」

 千沙の口からアキトの自慢話が止まらない。そして語りながら、徐々に自己陶酔気味になっていく。その千沙に、珍しく勢い込んで史帆が口を開く。

「しょ、翔太君の学生の頃は・・・」

 風姫と千沙から、怒涛のアキト攻撃に圧倒され、頷くだけのマシンになっていた史帆が暫く口を挟んだ。

「特筆すべきことはないよ~」

 瞬殺だった。

 今の千沙にとって史帆の訊き方では、完全に圧力不足だったのだ。

「それよりトレジャーハンター試験の実技テストなんだけど。実技がすっごく重視されていて、難しいんだよ~。それをアキトくんは、史上初パーフェクトをとったの。ホント、何でもできるんだよね~」

「トレジャーハンター試験の結果は知っているわ。なんでも出来るについては、異論を挟む余地が多少・・・あるけどね」

「アキトくんは宇宙航行理論とかの知識テストや、トラブル対策のテストも歴代1位だったんだよ~。歴代総合1位じゃなくて、全試験歴代1位の記録でライセンス取得したの。もうホント、アキトくんは凄いんだから~」

「実技試験でのパーフェクトは、歴代で2人いるはず」

 史帆から冷水を浴びせられたかのような表情になった。

 正気になった千沙は、アキトの才能を援護するつもりで口を開く。

「でもっ、初めてパーフェクトをだしたのはアキトくんなのっ!」

「たしか2人目の方が、同じパーフェクトでも質が違うとか、桁が違うとかいわれてる。工場で、そう聞いた・・・。誰かまでは知らないけど」

 援護でなく逆効果になってしまった。

「アキトと比較して桁違いというからには、重力元素開発機構の技術者だったのかしら?」

 風姫の独り言に、千沙は微妙に表情を変化させた。その微かな変化を風姫は見逃さず、小首を傾げ軽い口調で尋問する。

「あなたは何か知っているようだわ、千沙。教えてくれないかしら? いいえ、教えてもらうわ。さあ、話しなさい」

「・・・翔太なの」

 渋々と兄の名を告げた。

 千沙の声色には、嬉しそうな気配がまるでなかった。

「血がつながっているのよね? お兄さんではないのかしら?」

「ウソ?」

 ヴァイオレットの瞳を揺らしながら、史帆は衝撃を受けたように呟いていた。自覚はしていないようだが・・・。

「えっ、なんで? 正真正銘の双子だよ~」

「兄妹なのに口を噤みたいみたいだったわ」

「う~ん、少し複雑な気持ちなの・・・。翔太の場合、マルチアジャストがあるんだよ。あれも本人の才能だし・・・、アキトくんも色々な才能持ってるし・・・。だけど、マルチアジャストって反則級の才能なの。ルーラーリングを通して機械のステータスを把握できるから、性能限界値のギリギリで動かし続けられるし・・・。」

「・・・凄い。なんて凄い人・・・なんだろう」

 史帆の言葉を、千沙は即座に否定する。

「アキトくん程じゃないよ~。だって翔太は感性の人で、アキトくんは理論の人なの。あんまり考えないで行動してんだよ~。アキトくんが発見したことを、ゴウにぃと翔太で面白可笑しくイジッてる内、トラブルに発展しちゃうの。もうホント、大変なんだよ~」

「ようやく理解できたわ。あの2人が元凶だったのね。そうだったのね。・・・アキトが潰される前に潰すわよっ!」

 元凶は3人揃うと、である。アキトが発見しなければ、ゴウか翔太が発見するだろう。アキトが自分1人で行動する時、決して慎重さを失わない。しかし、ゴウと翔太の存在はアキトにとって大きく、どんなトラブルでも3人なら乗り越えられる。口では何と言っていても、心の中では頼りにしているのだ。

 それが心の何処かで甘えや油断に繋がっている。

 アキトはトラブルに愛されているのではなく、トラブルが起きるのは必然なのだ。

「でも・・・そうかぁ~。・・・そうだよ。一度徹底的に、潰しとかないとダメかも。今のままだとダメだよっ!」

 ”潰す”の定義が、2人の間では決定的に異なっている。

 風姫は物理的にで、千沙は考え方にであった。

 会話を続ければ、誤解をとく機会はあったのだろうが、その時間が存在しなかった。

 ゴウから秘匿回線で連絡があったのだ。


 ゴウは格納庫のシマキジとトウカイキジの間にコテツを収納し、宝船の外へと飛び出した。

 アキトと翔太を迎える為・・・というより、宝船の外に降ろした巨大な戦利品を見定める為であった。

 そのゴウを千沙が待ち受けていた。

「ゴウにぃ。反省してもらいことがあるのっ!」

「風呂を俺の一存で1つだけにしたことか? だが、送風機能は必須だぞ。対峙する敵同士。その雰囲気を盛り上げる演出に風は必要なのだ。風呂を2つにすると、どうしても送風機能が設置できない」

「お風呂が優先だよっ! そうじゃなくて、アキトくんのことなの」

「アキトとの結婚が決まっていれば、千沙の部屋を大きくし、2人用にしても良かったがな。婚約すらしてない現状では、アキトの部屋を用意するしか選択肢はなかったのだぞ」

「それは、これから頑張るのっ! 頑張るからアキトくんを引っ張りまわさないで欲しいの」

「何を言うか、俺たちはトレジャーハンティングユニットお宝屋なのだぞ。宝物を目の前にして戻ることなど出来ない」

 隣で千沙がゴウに、感情的に苦情を伝えているが、要領を得ていないようだった。

「そうでもなくて・・・」

 しかし風姫の神経は、完全に2人を遮断している。静かな怒りを込め仁王立ちしてカミカゼの到着を待っているのだ。

 風姫は千沙の隣にいるのだが、視線はゴウではなくコテツが戻ってきた方向に固定している。

 2機のカミカゼが曲芸飛行しながら、見通しの良い草原の空を疾走してくる。カミカゼ特有の鋭角なフォルムと3枚のオリハルコンボードが夕暮れの空に映える。その姿が風姫の瞳に映っていた。

 アキトと翔太は、風姫の近くでカミカゼを停止させた。

「遅かったわね、アキト」

「おー、ただいま。時間かかったけど、お宝を手に入れてきた。なんせ、コネクトのデータベースにない生物なんだぜ」

「そんな生き物イッパイいるんじゃないかしら?」

「オレのコネクトに登録されてない生物は、ほぼ新種だ。そして新種の中には、面白い遺伝子が含まれてることが多いんだぜ」

「それよりも、あなた」

 風姫は視線を少しずらして、アキトの隣にいる翔太を指差し剣呑な口調で声をかけた。

「あなた達のトラブルに、私のアキトを巻き込まないでくれないかしら?」

「いやいや、僕たちはトレジャーハンティングしてただけさ」

「聞いたわ。あなた達のトレジャーハンティングは、面白可笑しくトラブルと仲良くすることだってね・・・」

 それから風姫は10分以上も、透き通った声で、丁寧な口調で、翔太を見下すような罵詈雑言を浴びせる。

 流石の翔太も顔から笑みが消え、眼を細め刺々しく言い返す。

「僕たちはトレジャーハンターだからね。トレジャーハンティングは当然のことさ。キミは住む世界が違う人だよね。さっさと帰ればイイんじゃないかな。それとも力づくで言うことを利かせた方がイイかな? 僕は女性に対して紳士であれと考えているけどさ。必要であれば、実力行使を躊躇いんだよねぇー」

 不穏な雰囲気と翔太の険悪な口調に気づき、いつの間にかゴウと千沙が口論をやめていた。

「住む世界が違うというなら、あなた達がアキトの許から去れば良いのではないかしら?」

「参った参った、どうやら話し合ってもムダかな? キミが黙らないなら黙らせてあげよう」

 アキトが翔太の肩に手を置き、落ち着かせようと声をかける。

「止めとけよ」

「いやいや、売ったケンカを取り消せないさ。それに大丈夫さ、彼女にケガはさせないよ。少し痛い目を見てもらうだけさ」

「忠告しとくけどよ。風姫に、素手では絶対に敵わないぜ」

「あれあれ、彼女はアキトより強いっていうのかな?」

 茶化すような翔太の台詞に、アキトは真剣に答える。その刹那、微風が吹き始めた。

「認めたくねぇーが、オレより圧倒的に強いぜ。それに有名人だな」

 風姫が傲然と胸を張り、恒星の光により虹色に輝く長い金髪をかきあげ、風に靡かせる。

 風は宝船の方から吹いている。・・・というより、宝船が風を起こしているのだった。

 これはゴウが千沙に語った、お宝屋にとって必須の演出らしい。

「うんうん。それで彼女の正体は?」

「そうだなぁー。絶対に聞いたことあるぜ」

 愉しそうな表情を浮かべ、アキトは風姫の紹介を始めた。

「なにせ、魑魅魍魎跋扈するルリタテハ王国の王都で暴れ回り、数々の伝説を打ち立てたんだ」

「ア、アキト・・・紹介内容を完全に間違えているわ」

「なら、風姫に勝てる奴いるのか?」

「私は知らないわ」

「そんなヤツは存在しないぜ」

「どっ、どうして・・・そんな事が言えるのかしら?」

 質問に答えず、アキトは風姫の2つ名を告げる。

「彼女の正体は、ルリタテハの破壊魔だっ!」

「「「はっ!?」」」

 数々の冒険を経験し、大抵のことでは動じないお宝屋3兄妹が、驚愕で固まった。

「私の名前は風姫だわ。勝手に変更しないでくれないかしら。それに王都に魑魅魍魎なんて存在しないわ」

「成程な。俺は理解したぞ」

「うんうん、僕も良く理解できたよ」

「だ・か・らっ! 違うわ」

 もの凄い剣幕で風姫が否定したが、アキトの暴露は続く。

「正確には風姫1人の時がルリタテハの破壊魔で、グループ名が”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”だぜ」

「ルリタテハの踊る巨大爆薬庫だと?」

「ああ。風姫とジン、彩香さんのグループ名だぜ」

 彩香は自分を含めていなかったが、トラブル収拾の為と言いつつ2人に交じって暴れているに違いない。ならば、グループ”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”に含めても構わないだろうとアキトは判断したのだ。

「そうそう、勝負の方法を決めてなかったなー。僕がケンカを売ったんだから、勝負方法も決める権利があるから・・・うーん。何がいいかなぁ・・・」

 即座に、いつもの翔太に戻り惚けた台詞を吐いた。

「普通、反対じゃないかしら?」

「いやいや。売るということは、売りモノが決まってるということさ」

「話にならないわ」

 風姫は冷たい視線を突き刺すが、翔太は動揺の欠片もみせず勝負の方法を提案する。切り替えの早さはトレジャーハンターとして必要な資質の一つであり、翔太はトレジャーハンターとして一流である。そして身軽な体と性格を持っている。

「僕が売るのは・・・そうだなぁー・・・カミカゼで警戒網一周レースがいいかな。もちろんハンデはつけるさ。僕は外周にあるレーダー機器のレーダー範囲外側をギリギリで走行する。キミは外周のレーダー機器のレーダー範囲内側ギリギリを走行する。これでどうかな?」

 風姫の表情が厳しいものへと変わる。あまりにもバカにしたハンデを提示されたからだ。

「そうそう。なんだったら、アキトのカミカゼを使ってもらっても構わないよ。僕は宝船に積んであるカミカゼを使うからね」

 怒り心頭の様子の風姫に、翔太はバカにしたような口調で尋ねる。 

「不服かなぁ?」

「私はコースの地形を知らないわ」

 ジンと命懸けの生活を送ってきた風姫は、如何なる時でも勝率をあげる為の駆け引きを忘れたりしなかった。

「惑星ヒメジャノメでの3日後に勝負。で、どうかな? その間、僕は一切コースに出ないよ。キミは何度練習しても構わないさ」

 その駆け引きに対して、翔太に何でもないように即答された。心理的に追い詰められた風姫に、これ以上の駆け引きは無理だった。そう、風姫の退路は断れたのだった。

「・・・それでいいわ」

「良かった良かった。お互いが納得のいく条件での勝負だね」

「どこ行くのかしら?」

「ベッドだけど。眠いからねぇ」

 風姫は表情が固まった。3日後というのは、風姫の為の時間ではない。翔太の休息と警戒網の内側をチェックする時間だったのだ。

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