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エレメンツハンター  作者: 柏倉
第2部 ルリタテハ王国の神様の所業
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第7章 冒険とトレジャーハンティング(1)

 カミカゼ水龍カスタムモデルのチューニングバージョンで、アキトは森の上を疾走している。

「おおおおおおおぉおおおーーーーーっ! 疾駆、疾走、飛翔だぁあああああ」

 楽しくて楽しくて堪んねぇーぜっ!

 久しぶりのトレジャーハンティング。

 しかも、大気のある惑星で、だっ!

 盛り上がらないはずがないっ!

 高揚感に包まれ、アキトは空にある人となり、自由に翔けめぐっている。

 最新制御システム”ダークゼータシステム”の限界に挑むように、宙返り・横転・きりもみ・反転・背面飛行と次々に高難易度の飛行を実施する。

 トライアングルは飛行機と異なり、失速して墜落する危険はない。そして水龍カスタムモデルの気密カプセルは、その惑星での音速を超えた際の衝撃波にも耐え得る。

 だが、時速600キロ以上で空中衝突なんてしたら、死と限りなく親しいお付き合いすることになる。

 惑星ヒメジャノメの環境は、ルリタテハ王国の惑星開発省がコントロールしながらテラフォーミングしている。

 とはいえ、どんな生物がいるか分からないのだ。

 恒星の光や惑星の気候などの様々な要素により、独自の進化を遂げる生物がいるからだ。そしてそれは、どの惑星でも例外なく起きる現象である。

『アキトは楽しそうだねぇー。僕もカミカゼにしようかなぁあー』

 気持ち良く飛行しているアキトの耳に、翔太の気楽な声がクールグラスに接続した骨伝導イヤホンを通し響いた。

 カミカゼの後方上空に、スカイブルーに塗装された直方体に申し訳け程度の翼がある物体が飛行している。その物体は、翔太が操縦する大気圏宇宙兼用輸送機”コテツ”だった。宝船に搭載される時は翼を収納し、縦横10メートル長さ25メートルの直方体になるのだ。

 宝船の搭載機の中で、一番大きな機体である。

「ふ・ざ・け・ん・なっ! そんな時間ないぜ」

『うんうん、それなら方法は1つさ』

「ダメだ!」

『あれあれ。まだ、僕は方法を言ってないんだけど?』

「操縦を交替しろってんだろ」

 コテツには揚力を全く生み出さない翼が機体の上下左右にあり、大気圏内で飛行の直進性を安定させる為だけに存在する。大気の状態によっては翼の大きさ変化させ、最適になるよう設計されている。

 空中に浮くのは主成分ミスリルのオリハルコン合金で、推進はロケットエンジン方式である。コテツは宇宙空間で前後上下左右のあらゆる方向へと転進するため、バーニアスラスターが様々な位置に配備されている。そして機体の前後には、ブースターを配したメインノズルがある。

『いやいや、今すぐじゃないよ。次の場所で交替すれば良いさ』

 全く以て、自由な空ではなかった。

 今2人は宝船から半径200キロメートル圏内に、警戒網を敷こうとしている。そしてコテツの格納庫には、警戒網を構築するためのレーダーが1万基以上積んである。

 安全安心に、レーダー機器を輸送するコテツの操縦なんざ退屈なだけだ。丁重に・・・絶対に・・・断るぜ。

「ダメだ。これはチューニングのテストも兼ねてんだぜ」

 理由も説明するあたり丁重であり、台詞の始めで断るあたり、アキトに全く操縦を変わる意志がない、ということだった。

 しかし翔太は気にしない。アキトの意志を充分すぎるほど理解していながら気にしないし、気を遣わない。

『チューニングのテストなら僕がやるさ。テスト結果を伝えれば良いだろ?』

「翔太じゃテストになんねーんだよ」

 翔太は独特の押しの強さで反論を口にする。

『いやいや、テストパイロットとしての僕は、すっごく評判が良いんだよねぇー』

 それは真実だった。

 マルチアジャストという才能は、機体の隅々まで神経を行き渡らせて操縦する。だからなのか、機体に問題がある場合、即座に問題の発生箇所を特定できる。

 まったく忌々しいが、オレのカミカゼも翔太なら直ぐに機体を把握できるだろうな。

「オレの役には立たねーがな」

 これも真実である。

 カミカゼ水龍カスタムモデルは、アキトにとって操縦しやすいかに的を絞ってチューニングしている。自身の能力を存分に発揮できるかは、アキトが操縦しなければ判断できない。

『まあまあ。僕たちは、永遠の友じゃないか』

 同年代の女性からは、絶大な人気を誇る魅力的な笑顔らしい。だがオレの眼には、胡散臭さ全開の笑みにしか見えない。

 音声だけにして、クールグラスの端に映像表示を切りたい衝動に駆られるが、なんとか堪えた。

 翔太の映像が表示されるだけなら、迷まず間違いなく切る。だが表示される内容は、コテツから送られてくる情報も映している。

 水龍カンパニーの最新索敵システムを搭載しているとはいえ、所詮はトライアングル。搭載スペースには限りがあり、索敵システムはどうしても小型になる。大型の索敵システムを搭載しているコテツは、カミカゼ水龍カスタムモデルより索敵範囲が遥かに広い。というより、桁違いの性能を誇るのだ。

 そして、索敵システムの情報だけを取得できれば良いのだが、データ送信内容はコテツ側で決めるからだ。

「だから? それで? なんだってんだ?」

『良かった良かった。永遠の友というところを否定されたら、警戒網構築を取りやめて、事実を認めるまで話し合う必要があるからね』

 胡散臭さ全開の笑みのままだが、翔太の雰囲気が少しだけ変わった。眼だけが笑っていないのだ。

「・・・永遠の、だけは外してくれ。友というのは、今さら否定しない。それより、シミュレーション結果だと977箇所も設置すんだぜ。効率的にやっても4日はかかる」

『いやいや、別に日が暮れても続ければ良いのさ。13時間ぐらいの連続稼働なら楽勝だよね?』

「それでも時間が足んねぇーよ」

『シミュレーション結果って、パラメーターは標準で実行したんだよね?』

「それ以外に、どうシミュレーションすればイイんだ?」

 新しく最新のレーダー機器、新しく最新のコテツ、新しく最新の警戒システム。

 使ったことのない機械を、マニュアルにある標準時間で設置設定し、テストまで実施できると想定。移動の平均時速は300キロ。危険生物との遭遇リスクは考慮しない。その他、突発的なトラブルは起きない。

 以上を条件としてる。

『3、4回の実績をもって再シミュレーションすれば良いのさ。それと設置回数による熟練度もパラメーターとして設定すべきだよね。一人でトレジャーハンティングにするようになってから、慎重派に転向したのかな。前はもっと、ギリギリを攻めていった積極派だった気がするなぁー』

 オレが慎重派に転向したのは、1人でトレジャーハンティングするようになったからではない。ジンたちと行動を共にするようになったからだ。

 だが、今はお宝屋との共同のトレジャーハンティング。気持ちが高揚するのを抑えきれないぜ。

「言ってくれるな、翔太。ああ、やってやる。2日で終えてやるぜ」

『惑星ヒメジャノメの1日は、20時間なんだけどね』

 盛り上げといて水を差してきやが??。ホント、イイ性格してんぜ。まあ、少し頭に血が昇りすぎた自覚はある。

「取り敢えず、日没までの8時間は全力で行くぜ。翔太っ!」

『了解だよ、アキト』


 カミカゼ水龍カスタムモデルは、5ヶ所目のレーダー機器設置予定位置に到達した。そこは四方が荒野であり、所々に大きな岩がある。

 到着した次の瞬間、アキトの眼前にレーダー機器が、ゆっくりと降りてくる。上空にはコテツが、微動だにせず停止している。

『どこが良いかな?』

 アキトは周囲に視線をざっと巡らせた。それだけで、適切な設置場所を見つけだした。岩場の亀裂にレーダー機器を隠しつつ、ほぼフルで性能を発揮できる場所である。

 アキトはコネクトでコテツと連携し、ロイヤルリングでレーダー機器の設置場所を指示する。そしてクールグラスに映る、レーダー機器の設置シミュレーション映像を確認した。

「データを送ったぜ」

『OKOK。設置は、任せてくれて構わないよ』

「任せた」

 翔太は、コテツからレーダー機器を誘導し素早く設置した。警戒システムとレーダー機器のコネクションを確立し、警戒網としてリンクさせる。

 アキトは、コテツを経由して宝船の戦略戦術コンピューターを操作した。警戒システムとレーダー機器の連携情報から、警戒網構築に最適な次の設置場所を再シミュレーションする。

 レーダー機器の設置場所は、予めシミュレーションしている。しかし初見の惑星では地形データがなく、大気がどのくらい電磁波通信を阻害するかのデータもない。現地での微調整が必須になる。

 翔太は、最新のレーダー機器の移動、最新の警戒システムのリンク、最新のコテツの操縦を難なくこなしている。翔太のマルチアジャストという才能は、非常に強力である。

 アキトの頭脳は、設計書を一読しただけで機械の設計思想や仕様を理解し、応用方法まで考案できる。しかも、慣れ親しんだ新開グループの機械とシステムである。操作マニュアルを読んだだけで、幾通りのもの応用方法を考え付いていた。

「再シミュレーションした位置データを送信したぜ」

『うんうん、確かに受信したね。それじゃあ、先に往くよ』

 トライアングル水龍カスタムモデルとコテツを比較すると、防御力、索敵範囲に圧倒的な差がある。そして何よりも、コテツの方が速い。

 コテツが目的地へと先に往き、到着次第アキトに地形データを送る手筈になっているのだ。

『それで、どうかな?』

 既にコテツの姿は見えない。しかし、もちろん通信は可能だ。

「21時間ぐらいだな」

『相変わらずアキトの概算は精確だねぇ』

「半分は勘だぜ。コテツに食料は積んであるよな?」

『良かった良かった。昔のアキトが戻ってきたようだね。因みに、食料は充分以上に積んでるから大丈夫さ』

「まだ1年も経ってねーな。昔とは言わねーだろ?」

 アキトと翔太は短い言葉で、互いが考えていることを理解していた。

 友より上で、永遠の友より下。2人には、親友という言葉が相応しいのだろう。そして互いに笑みを浮かべているのを、映像を見ずとも分かっている。

『そうそう。つまりは、やるんだよね?』

「やらない理由が見当たらないぜ」

 夜には宝船へと帰還し、日の出とともに警戒網構築を再開するのではない。警戒網構築が完成するまで、食事以外に休憩をとらない方針へと変更したのだった。

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