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エレメンツハンター  作者: 柏倉
第2部 ルリタテハ王国の神様の所業
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第6章 時空境界突破。交渉。そして冒険(5)

「命の借りを命で返すのは当然だ。良いか? ルリタテハ王位継承順位第八位”一条風姫”の命なのだ。安くはないな」

『自作自演と断定する。契約書にリスクの記載を怠り、事前に危険と知っている星系に案内させる。命懸けでアキトを護るのは当然である』

 新開蒼空との交渉は、ルリタテハ王国の未来に重要な影響を与えるのだ。しかし、交渉にすら入れていない。

 アキトの身柄について結論がでない限り、他の案件は議題にあげないと蒼空が宣言したからだ。

 我は宝船で装甲として使用されている、ヒヒイロカネ合金の各種データが欲しい。

 また調査分析を実施するために実物を入手したい。幸い宝船の格納庫に、交換用のヒヒイロカネ合金製装甲が積載されている。

 購入でもサンプル供与でも構わない。この交渉で、宝船に積んであるヒヒイロカネ合金の提供を約束させる。

 そして最終的には、一条家と新開家でヒヒイロカネ合金の共同研究、開発、製造についての合意を得ておきたい。

 ヒヒイロカネ合金が大量生産可能になれば、宇宙は今以上に狭くなる。人/物/金/情報の流れを妨げていた距離を一気に短縮できるのだ。ワープ航路に縛られず、命懸けでワープ航路を開拓する必要がなくなる。

 たとえ脅してでも、我は交渉を成立させる。

「ほう、汝は一条隼人と知った上で逆らうというのだな。無論、ただで済むと考えていまが、一つ忠告しておく。我を敵にすると、様々な面で困難に直面することになる」

『筋や道理を通すのが、正しい大人の姿ではないか? それともルリタテハ唯一神だと子孫に祭り上げられて、増長したのか一条隼人。新技術開発研究グループは多額の税金を納め、社会貢献にも力を入れている。ルリタテハ王国の発展に寄与している。その新技術開発研究グループの会長に、ルリタテハ王国の法も護れない大人が意見するとは、おこがましいにも程がある』

「ならばルリタテハ王国の発展に、より寄与する方法を教えてやろう」

『話を逸らす必要はない。まず、アキトを自由にしてもらおうか。先の契約書は、ルリタテハ王国の法律に照らしあわせれば明らかに無効。証拠なら既に用意してある。それともルリタテハ王国の法適用対象とは人間であり、アンドロイドは関係ないとでもいうのか?』

 アキトに似ている切れ長の眼を細め、蒼空は黒い瞳を妖しく光らせた。

「アキトはルリタテハ王国王家守護職五位に、一条風姫によって任命されたのだ。いまさら撤回などできぬな。風姫とアキトの微妙な関係的も考慮すると、引き離すのは得策ではない」

 風姫とアキトの微妙な関係。

 それこそ、この議論に全く関係がないと分かっている。しかし、どんなに些細なことでも材料とし、攻略せねばならない。理屈だけでは不利というなら、蒼空の感情に訴えかけて、揺さ振りをかければ良い。

「あの年頃の経験や知見は、人生の財産となる。今の2人は、問題に対する解決策を共に考え、議論して、協力して、衝突して、打ち解けあって、人間として急速に成長している。そして風姫とアキトは、互いに持っていないものを求めあい、親密さを増しているのだ」

 かなり・・・というか盛大に誇張しているが、分かりはしないだろう。諜報戦に長けているとしても、ユキヒョウからの情報漏洩はあり得ないからだ。

 しかし蒼空は、風姫とアキトの関係を一顧だにしない。

『おのれは、王女のみを心配すれば良いのだ。アキトの心配は無用。そもそもの始まりと原因は、違法な契約締結にある。守護職を拝命するには、未成年の場合、保護者の承諾が必要だ。緊急避難措置として、一時的に守護職へと任命できる。しかし有効期間は、緊急避難が終了した段階で保護者の承諾がなければ解任されるとなっている。もちろん承諾はしていない』

 巨大企業グループを経営しているだけのことはあるな。法律面でも。良く事前調査が成されている。我が所業の弱点を遠慮なく突き塩まで塗ってくる。アンドロイドである我でも、感情があるのだから、だいぶ堪える。ただ生身とは異なり、ストレスで胃を悪くしたり、体に変調を来すことはないな。

 ジンは仁王立ちのまま、眼光鋭く蒼空を見据える。

「・・・譲歩の余地は、ないのだな?」

『ない。アキトを自由にしろ』

 ジンはコンピューターの頭脳とユキヒョウの戦略戦術コンピューターを総動員して、打開策を検討する。

 人質ではないが、アキトをダシにしてヒヒイロカネ合金の交渉を進める予定だった。しかしアキトを返さないと、ヒヒイロカネ合金の交渉をしないと主張するとは想定していなかった。

『一条隼人の頭脳と機転は、この程度なのか? 所詮、上の立場から要求することしかできず、対等での交渉は平均以下か・・・』

 少し下を向き呟くように話しているが、声量も変わらず、言葉もクリアに聞こえた。

 ジンは自分の過去を思い出す。

 そうであった。

 我も昔は、唯人であり、実業家であり、冒険家であった。

 ルリタテハ神と呼ばれ、そして余生だからと好き勝手に行動していた。どこか驕りがあったのだな・・・。

 頭では交渉と考えつつも、最終的には脅してでも言う通りさせるつもりであった。それでは命令や強制となってしまう。交渉とは、双方に利益をもたらすものでなければならぬ。一方の利益のみを追求すると交渉は決裂する。力づくで交渉をまとめたとしても関係は継続せず、どこかで破綻を迎える。

 我は人類史上初、太陽系の小惑星セレスへと向かう21人のメンバーになった。実業家である我がメンバーに加わる為、多方面との交渉を行った。小惑星探査に相応しくないとの世界中の非難に、我のスキルが必要だと証明してみせた。

 そう、これは交渉なのだ。

 そして新開蒼空は、交渉に応じる用意があることを明確に匂わせているではないか。

「アキトの自由を保証しよう。ユキヒョウに残るかどうか、それはアキトの意志に任せる」

『そのあたりが妥当である。ただし1つだけ要求する。一条隼人の名に懸け、アキトを全力で護れ。知っての通り、新開家は陰ながらアキトを支援し、護っている。しかし、おのれの許に残るというなら、トレジャーハンティングとは危険度が段違いだ。必ず護れ。これは契約だ』

 お宝屋のことを隠す気はないようだな。

 新造した宝船に、あんなにも新開グループの最新製品を使い。まだ発表したばかりの技術まで導入していたようだ。

「新開家は、アキトに5年間の自由を約束した。残りは3年半。少しでも有意義であればと考えている。しかし、おのれに巻き込まれ死亡などしたら本末転倒。王女の命より優先順位は上とするのだ」

 王女・・・風姫より、命の優先順位を上にしろだと・・・。

 ふざけてるのか?

「ルリタテハ王国の王女より、アキトの命の価値が上になる訳がなかろう。新開家は王国を敵に回すとでもいうか」

 厳しい口調で睨みつけジンは、本気で脅した。

『一条家の代表として新開家と事を構えるなら、宣戦布告せよ』

「ほう。宣戦布告の定義とは、戦争でも良いのか? それとも、合法的な潰し合いか?」

『どちらでも受けて立つ』

「随分と自信があるようだが、デスホワイトと戦場で恐れられた我に、果たして勝利できるかな?」

『ルリタテハ王国の王族が、一条家ではなくなったとしても、一条隼人の勝利となるか』

「どういう意味だ?」

『言葉通り受けとれ。一条家を王族の地位から引きずり落とす方法。それなら幾らでもある。おのれは、情報戦で遅れをとっているのが分からない程、愚鈍か?』

 情報戦で遅れを取っている? それが本当なら驚愕の事実であるが・・・俄かには信じられぬな。

「遅れを取っているだと・・・」

 蒼空との会話で驚かされるのは何度目か。

 感情と表情の連動の割合を10分の1に設定に本当に良い判断だった。

『アキトは新規技術開発グループの至宝となる予定なのだ。ルリタテハ王国としてはアキトの命の方が高い価値を有している。おのれが宣戦布告しないのなら、新開家が一条家に宣戦布告する。今すぐ選択せよ』

 驚愕がジンの表情に浮かんだ。

「汝は、本気なのか?」

 蒼空の声から圧力が、眼からは本気の意志が発せられている。

『今すぐだ。早く返答せよ』

 ブラフでも駆け引きでもなく、絶対に本気の本気のようだ・・・。

 ジンは新開グループと新開蒼空を見誤っていたことに、漸く気づいたのだった。

第6章が長くなっています。章の改題はせずに乗り切りたいな、と考えています。自信はありません。

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