第6章 時空境界突破。交渉。そして冒険(2)
5分後。
お宝屋3兄弟がオペレーションルームに揃った。ユキヒョウから送られてきた戦闘データの分析をメインディスプレイの半分に表示させ、あとの半分にジンを映していた。
ゴウは宝船からユキヒョウへの映像の中央に映るよう、腕組みをして屹立している。翔太は分析装置の席に座り、ユキヒョウのディスプレイでは左端に映っている。千沙はゴウを挟んで、翔太の反対側にいる。
《分析結果に詳細が記載されているから、記載されていない内容を、語ってやろう》
ジンがあたかも人の上位者として振る舞い、天の意志を告げるかのように偉そうな口調で話す。
珍しくもゴウが口を挟まないので、翔太と千沙も大人しく耳を傾ける。
《汝らは徹頭徹尾、掌の上でアキトの策略に踊らされていたのだ。アキトの狙いはシンプルだった。七福神ロボの全機体を操縦するには、宝船にある専用機器が必要であるな。ならば、リモートコントロールを不可能にすれば良い。ユキヒョウには備え付けの通信装置と別に、高出力高機能の移動式通信装置がある。それを使用して指向性のジャミングを実施したのだ。無論、通信装置に装甲などないので、センプウの背中に括り付け手打鉦で防御することにしたのだ。背中にあるメイン推進装置が使えない分、4本のオプションスラスターで推進力を補ったのだ。使い古された言い方をすれば、戦いは始まる前に終わっていた。七福神ロボに対して、何時でもジャミングを実行できたのだからな。我によるアキトへの特訓の成果を確認したいが為、可能な限り戦闘で片をつけるよう指示したのだ。何より最大の失策は、未熟なスキルしか持たぬのに7機ものコウゲイシを同時稼働させたことだ。ただ、コウゲイシ7機を合体させた判断は良かったがな》
一呼吸空いた瞬間に、ゴウはジンに尋ねる。
ジンに呼吸する必要はない。しかし、お宝屋3兄弟は、呼吸の合間と認識していた。
「妨害電波によりリモートコントロールが機能しなかった・・・。それだけでは七福神ロボと”輸送機”以外の通信が可能であった理由が理解できぬぞ。ルリタテハ王国の標準周波数帯域の全体にわたる妨害電波では、通常通信も不可能になるはずだ。なぜリモートコントロールだけ通信不能になったのだ」
《ほう、良いところに目をつけたな。トレジャーハンティングユニットお宝屋の代表なのは伊達ではない、というところか。普段から真面目に生きれば、周囲からの評価が上がるだろうに・・・。まあ良い。知っているだろうが、アキトは憎たらしいほど悪知恵が回る。初見の相手でも、2手3手ぐらいなら先読み可能だ。知っている相手であれば、戦う前に、あらゆる局面での手を検討しつくしているのだ。今回の戦闘において、無差別で広範囲へのジャミングを実行しては、戦略戦術コンピューターが勝敗判定できなくなる。その状況を避けたかったというだけだ。もし撃墜されそうになったら、即座に無差別でのジャミングを実行しただろうな》
「なるほど、アキトは性格が悪くて、世の中を斜に構えて見る癖がある。その性格は先が見えすぎている故なのだな。俺は身を持って知っているぞ。それとな、確かに周囲からの評価は重要だと考えているぞ。評価が高ければ、契約金額も上昇するからな。だが、実力と評価が乖離している身の程知らずは、すぐに死神との対面が待っているぞ。トレジャーハンティングの世界は命がけだからな。それに俺には、評価以上に重要なモノがあるのだ」
《うむ、汝とって評価以上のモノとは何なのだ?》
「お宝屋の誇りだ。それとな、お宝屋にとって周囲とは、ルリタテハ王国全域でなく、クライアントからの評価だ。クライアントから適正な評価が貰えれば、別に構わないぞ」
《お宝屋の価値向上に、汝ら興味はあるか?》
「当たり前だろう。俺たちお宝屋は研鑽を怠ったりしていないぞ。常に時代と向き合い、情報を集め、貪欲に技術や技能、知識を身に付けている。ただな、仕事を楽しめねば命はかけられない」
ゴウは口角を上げ、邪気だらけの満面な笑顔で嘯いた。
お宝屋は仕事を楽しむ。
その姿勢の所為で他人からの評価が落ちても、全く気にしない。クライアントには、実績をもって実力を示せば良いのだ。
《それならば、我の言う通りにせよ。もう一段階上の世界をみせてやる。その世界をみれば、汝らの問題点が明らかになる。どのスキルをレベルアップすべきか、分からせてやろう》
「何をするつもりだ」
《まず、能力不足のパイロットから訓練してやろうか。確か翔太だったな》
「いやいや、いやいや。能力不足の意味が、全く理解できないんだけどさ。ジンさんは、僕の能力の何を知ってるのかなー? 僕の問題は、僕自身が一番良く知ってるさ。だからジンさんの訓練は必要ないね。トレジャーハンターですらないジンさんには、トレジャーハンティングに必要な訓練メニューを用意できないよね?」
軽薄な口調の中に、微かなイラ立ちが含まれている。
親しい人たち・・・それこそ親兄弟、アキトでなければ分からないぐらいの微かなイラ立ち。
つまり、翔太は相当イラついている。
だがゴウは、翔太がイラつこうが、反発しようが全然構わないと考えている。お宝屋代表として、お宝屋の価値向上の機会を捨てるようなマネはできない。本当にお宝屋の価値向上に繋がる提案であれば、ムリヤリにでも翔太に訓練を受けさせるつもりでいる。
無駄な提案には全力で断るつもりでいるが・・・。
「翔太のマルチアジャストは、能力不足なの~?」
《人類で唯一といって良いぐらいの強力なスキルだな》
「良かった良かった、それなら訓練の必要はないね」
ゴウは静かにシンの真意を知ろうと、
《使い方と使いどころを汝は心得ていないのだ。マルチアジャストというスキルの特性を、汝は全く理解していないようだな。愚かとしか言いようがない》
「どういうことかな? もちろん証明してもらえるんだよね?」
《まずは、その思い上??りを訂す必要?????るようだ》
「思い上がりだって? ・・・どこに思い上がりあるっていうのさ」
ジンは傲岸不遜な態度でほくそ笑み、翔太は精神的な余裕を失っていた。
「大体さ、マルチアジャストのスキルを持っていないヤツに・・・」
途中で翔太の台詞が、ゴウの豪快な笑い声に遮られた。
「ふっはっはっははーーー。まったくもって珍しいことだぞ。言葉遊びで翔太が負けるのはな」
ゴウはディスプレイに正対していた体を横にし、翔太に視線を向けていた。
「ゴウにぃ~、あのね・・・」
とりあえず場を落ち着かせようと、千沙は口を挟んだ。しかし、ゴウは止まらない。
「さあ、翔太。刮目し、一段上の世界とやらに飛び込め。タダで人から教えてもらえるのだぞ」
ゴウは、わざわざ”タダ”と”人”という言葉を強調し、翔太に向けて言い放った。その意図がキチンと伝わったようで、翔太は落ち着きを取り戻していく。
「ゴウ兄。・・・ジンさんは、人じゃないらしいけどね」
もちろん、あんな衝撃的な発言を忘れるわけないぞ。だが、忘れたかのような台詞を吐く。
「なにっ、そうなのか?」
「惑星コムラサキでの本人の言が、正しければさ」
「うん。そう言ってたよ~」
《無料だとは一言も発した覚えがないな。しかし感謝するが良い。無論、無料で訓練してやろう。翔太、汝の問題はマルチアジャストによる反応速度に頼り切り、精密精確な操作ができないところにある。トライアングルやオリビーの操縦なら、機能が少ないため問題にならない。しかしだ。コウゲイシのように機能の多い機体を乗りこなせていない。それは段取力が足りないからだ。まずは身を持って知ってもらおう。弁才天で出撃するが良い。今すぐにだ》
宝船と七福神ロボの見学を後回しにして、何故か翔太の訓練が先になった。この決定に異を唱えるような命知らずは、ヘルだけであった。
しかし、ヘルがどんなに騒ごうとも、ジンが気まぐれに決めた事でも、”神”の意志は絶対であった。
ジンは”ルリタテハ王国の唯一神”であり、現ロボ神である。ただ、一条家と高級官僚の間では、死神とか疫病神の類だと断定されているのだが・・・。




