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童話シリーズ

僕の場所

作者: 綾小路隼人

夏の間、青々としていた緑の山はすっかりその姿を変えていた。


今夜は冷えそうだなぁ……

そういえば、僕が捨てられた時も山はあんな色だったっけ。

きれいだなぁって眺めてたのを覚えてるもん。


僕はいつものように日当たりの良い公園のベンチで日向ぼっこをした後、遠くの山を眺めていた。

さて、この後はどうしようかなぁ。

僕は自由だから好きな事が何でもできるんだ。



2丁目の山田さんとこのミケおばあちゃんはこう言ってた。


「私はね、お母さんと一緒じゃないとここから出られないのさ。いいねぇ、お前は自由に動けて…まぁ、お母さんが作ってくれた、この座布団の上も居心地いいけどね」


ミケおばあちゃん家のお隣さんは猫が好きじゃないんだって。

だから、勝手に家から出ないように言われてるんだ。

そういえば、ミケおばあちゃんとこに遊びに行こうとした時、すごい顔して僕を追い払おうとした人がいたけど、あれがお隣さんなのかな。

すごく怖い人だったなぁ。

ミケおばあちゃんは、あんな怖い人から守られてるんだね…



3丁目の斎藤さん家のソラくんは冒険が大好きで、3日に一度は僕と川や山へ行って遊ぶんだ。

でも、学校って所が終わる時間になると「早く帰らないと恵美ちゃんが心配するよ。いいなぁ、好きな時間まで遊べて。僕も自由になりたいよ」

そう言って、まだ遊びたいのを我慢して帰っていくよ。


恵美ちゃんはソラくん家の一番下の子で、3人目でやっとできた女の子なんだ。

2年前、ソラくんをダンボールっていう四角い箱から抱き上げてそのまま家に連れて行ったんだってさ。

お父さんは、恵美ちゃんの「お願い」って言葉に弱いんだって言ってた。

僕、一度斎藤さん家をのぞきに行った事があるんだ。

恵美ちゃんがソラくんの頭をずーっと撫でてた。

ソラくんはゴロゴロゴロ、って聞いた事のない声を出してたなぁ。



僕は好きなところに行けるし、好きな時間まで遊べる。

みんなが欲しい「自由」を持っている。

でも、僕にはみんなが持ってる「場所」がない。


ミケおばあちゃんの場所は、お母さんが作ってくれたフカフカの座布団の上。

ソラくんの場所は、恵美ちゃんの隣。

よく分からないけど、「場所」ってすごく暖かくて眠たくなるんだって。僕も欲しいなぁ。

よーし、僕の「場所」を探しに行こう。



※ ※ ※ ※ ※



綺麗な色の山へと向かって歩き、僕が辿り着いたのは、赤い葉っぱがたくさん敷き詰まった所に建っている一軒の家だった。

ドアの前では、おじいさんが僕に向かって優しく手招きしてる。

家の中には、僕以外にもたくさんの猫がいた。

その中の一匹、真っ黒な猫が寄って来た。


「お前はあっちで不気味って言われたりしなかった? おじいさんはね、私のこの黒い毛を綺麗だねぇって毎日撫でてくれるんだよ」


そう言って自慢げに僕の周りを一周してみせた。


次に寄って来たのは、真っ白な毛でブルーの目をした猫だ。

少し、足を引きずってるみたい。

ケガしてるのかな?


「キミは、誰にも意地悪されなかったかい? ここのおじいさんは優しいから、安心して眠れるよ」


そう言って大きなあくびをしたかと思うと、気持ち良さそうに寝息をたてた。

しばらくすると雪が降ってきた。

道理で今日は寒いと思った。

あれ? そういえば、ここに来てから全然寒くないなぁ。


「ここは冬でも寒くないんだ。だから、もう凍えて丸くなる必要もないよ」


さっきから椅子の上で遊んでいた、一番長くここにいるっていう小さな子猫が言った。

隣の部屋から出てきたおじいさんが、僕の首にそっとリボンを巻いてくれた。


「えらいぞ、よく頑張ったなぁ。そうだ、綺麗なもみじの中を歩いてやってきたから、名前は『もみじ』にしよう。いい名前だろ? 気に入ってくれたかな」


そう言って僕を抱き上げ、膝の上に乗せた。

そして、恵美ちゃんがソラくんにやっていたように僕の頭を撫でた。

大きな大きな手でずーっと……

なんだか暖かい……眠たくなってきた……

もしかして、これが「場所」っていうものかな。


「ああ、そうだ。もみじの場所はここだ。わしの膝の上だ」


おじいさんはニッコリ笑う。

僕はこの時、初めて喉を鳴らす事を覚えた。



そして、僕はこの世界でいつもと同じように好きな所で好きなだけ遊ぶ。

だけど前と違うのは、帰る場所があるって事。

一日の終わりには、必ずおじいさんの膝の上でゴロゴロと喉を鳴らすんだ。

やっと、僕の場所を見つけたよ。

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