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第44話「魔法魔術学院 ――光と影――」

注意:最後の方にいじめのシーンがあります。

後書きに今話の概要を載せておきます。

 それは学校というよりも、巨大な屋敷のようだった。

 長方形をした校舎の横幅は何百mもあり、いくつもの窓が内部を覗かせる。

 ただ、建物はそれ一つだけでない。

 陽斗たちからは用途不明の様々な施設が敷地内にはあった。


「へー想像してたのとは違うな」


 魔法の学校と聞いて、某有名ファンタジーのような城を想像していた陽斗。

 校舎内に入ってから、図書室を探せばいいと考えていた陽斗はアテを外された形だ。


「それでソフィー? どの建物に目的の図書室はあるっすか?」

「さあ?」


 両手の平を天に向けるソフィーは、知るわけないでしょと言わんばかり。


「さあって……知ってるからここに連れてきたんじゃないのかよ」

「アタシが知ってるのは、空属性について調べるなら、ここを利用すればいいってことだけ。アタシだってここの学院には初めて来たんだから知るわけ無いでしょ」

「どうするっすか? 誰かに聞いてみるっすか?」


 昼時な為か、校門付近では多くの制服姿の生徒が行き交っている。


「何か、お困りかな?」


 陽斗が適当な一人を捕まえて道を聞こうとすると背後から声が掛かった。


「ああ、道が分からなくてな」


 話しかけてきたのは、見事な金髪をサラサラと風に揺らす美少年だった。年の頃は陽斗達と同じだろうか。

 優しげな瞳は一見すると意志薄弱そうに見えるが、奥底には一本芯を持っている。

 陽斗は彼の居住まいからそういう印象を受けた。


「それなら、僕が案内しようか?」

「いいのか? これから昼飯なんだろ?」


 彼は後ろに多数の取り巻きらしき女子が群がっていた。

 彼女らの手には弁当箱が抱えられており、これから憧れの王子様との昼食会であるということが見て取れる。

 彼女らの目は早くどっか行けと言外に語っていた。


「ああ、困っている人を助けるのは当然だからね」

「……そうか助かる」


 取り巻きたちのことを考えるのなら、ここは断るべきところなのだろう。

 しかし謂れのないキツイ視線を受け、陽斗は少しばかりイライラしていた。

 それなら目の前の少年の懇願の視線・・・・・に応えたいという方が勝る。


「じゃあ、みんな。そういうことだからごめんね。お昼はまた今度ということで」


 一斉に落胆の声が上がる。

 陽斗は一足先に歩き出した。ここにいてもいいことにはならないという判断だ。実際に気の強い一部の女子を彼が抑えてくれていた。

 澪とソフィーも陽斗に続き、やがて彼も追いついてくる。


「お前も大変だな」


 隣りに並んだ金髪の少年に陽斗は同情めいた声を投げかける。

 立場は少し違うが、陽斗もまた澪を中心とした色恋沙汰に苦労させられてきている。

 恋愛という免罪符を得た人間の面倒臭さをよく知っているのだった。


「助かったよ」

「お互い様だ。案内人が欲しかったからさ。話しかけてきてくれたのは渡りに船だった。さっきの女子どもは敵にしちまったみたいだがな」


 金髪の少年は苦笑しながら言う。


「お昼を作ってきてくれるのは有り難いんだけどね。一人ずつあーんとかやってると、食べた気がしないんだ。せっかくの育ち盛りだっていうのに、最近のお昼の僕はいつも少食さ。彼女たちは僕の背を小さいままにしておきたいのかと思ってしまうよ」

「彼女は作らないのか? お節介かも知れねーが、一人に決めればそういうのも減るんじゃないか。お前なら選り取りみどりだろ」

「あっ、名乗ってなかったね。僕の名前はベイルスツァート。ベイでもベイルでも好きに呼んでくれ。それと彼女はいないよ。今は女の子にばかり時間を掛けている暇はないんだ。僕は強くならなくちゃいけないからね」

「そうか。俺は陽斗だ」


 澪とソフィーも簡単に名乗る。


「よろしく。ところで君たちはどこに行きたいんだい?」

「図書室っす」

「なるほど。学外の人で学院に用があるのは大抵があそこだったね。それと学院では建物まるまる一つが図書館になっているんだ。こっちが近道だよ、行こう」


 ベイルスツァートの案内で辿り着いたのは、大きな石造りの円形の建物だった。


「これが図書館?」


 ソフィーの疑問も最もだ。

 それはどう見ても図書館などという知的な雰囲気は持ち合わせていない。

 どちらかと言うと武骨な印象を抱かせた。


「これは円形闘技場さ。通称キルクス」

「闘技場? なんでそんなところに?」

「ここを通り抜けると近道なんだ。図書館は学院の敷地でも奥まったところにあるから」


 一行は円形闘技場の中へと足を踏み入れていく。

 巨人でも問題なく通れそうな長い廊下の左右の壁にはいくつもの扉がある。


「ここは学院の実技の授業の他に、試験や学院トーナメント戦でも使われるからね。この扉の一つ一つが更衣室や選手控室になっているんだ」

「学院トーナメント戦か。それって学院最強を決める戦いってことだろ? 熱いな。どんな試合なのか見てみたい」

「見れるよ。トーナメント戦は学外からも大勢の観客を集める一大イベントだからね。開催は秋だから、すぐにって訳にはいかないけど」


 陽斗がなんだか久しぶりな気がする、男同士の会話を楽しんでいると、ソフィーが横から口を入れてくる。

 無論、気分を害したという訳ではない。


「ハルトが見る必要はないと思うけど」

「どういうことっすか?」

「だって絶対ミオの方がレベル高いもの」


 ソフィーのあけすけな物の言い方にベイルスツァートは目を丸くし、


「……あははははっ!」


 破顔した。

 それは不快な笑いではなく、心底楽しいという感情からに拠るものらしかった。


「……凄い自信だね。それとも自分のことじゃないから自信とは言わないのかな」

「信じてないわね」

「申し訳ないけどね。僕も自分のことじゃないから他人のことは言えないけど、この学院は六国でも選りすぐりの才能持つ子どもたちが集まる。ここのレベルは世界一だと思ってる」


 ベイルスツァートの言は正しい。

 虹都の高等学院は、各地の中等学院で進学を認められた一握りしか入学を許されない。


 そしてこの学院の学生会長はトーナメント優勝者が務める決まりがある。

 学生会長は多くが後の進路で国の要職に就くことから、なりたがるものが多い。その為に才ある者たちが切磋琢磨を欠かさない。

 レベルは推して知るべしといったところだ。


「実力主義ってことか」

「そういうこと」


 ただ――陽斗はじっと澪を見つめる。

 それを聞いても陽斗には、視線の先にいる幼馴染が負ける姿は想像できなかった。


 六国の18歳未満最強決定戦と言えるトーナメント戦を、低レベルと言わしめる実力の持ち主がどのような態度でいるのか。

 ベイルスツァートは視線を澪に向ける。

 謙遜か得意げか。そんなところを期待した彼の目が刹那にして白けた。


「陽斗様ー、そんな熱い視線、照れちゃうっすよ~」


 でへへとだらしなく笑う澪。


「……この子が強いの……?」


 身体をくねらせる澪と首を傾げるベイルスツァートに、ソフィーは恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「ミオ! 恥ずかしいから!」


 ソフィーが澪を抱きとめて、気持ち悪い動きを止めさせる。


「…………」


 陽斗もまた顔に手を当てて、やれやれと首を振る。


「あはははッ! 君たちは良いチームのようだね。面白いよ」


 陽斗は澪の実力をまるで信じていない様子のベイルスツァートに、


(これじゃ信じられないよな……まあ別に無理に分からせる理由もないが)


 と内心で諦める。

 その時、廊下の先から漏れる光の中に剣戟の音が混じった。


「あれ? 誰か使ってるのかな? お昼休みなのに」

「へー行ってみようぜ。自主練するほどならレベル高い奴らかもしれない」

「あっちょっと待って! 魔法を使ってるかもしれないから、いきなり行くのは危ないよ!」


 陽斗は眩しさに細めた目を、徐々に慣らしていく。目に写ったのはぐるりと無人の観客席に囲まれた石の舞台。

 その上では一見すると、級友たちが昼休みにもお互いを高め合う為の練習試合が行われている。


 だがその試合は三対三と数の上では対等でも、チームの実力差が如実に見て取れた。

 一方のチームがもう一方をいたぶってるようにしか見えない。

 陽斗は期待に高まっていた感情が、急激に冷めていくのを感じる。


「……一応聞くが、何やってんだあれ?」


 陽斗は思いっきり眉をひそめた。


「…………」


 ベイルスツァートは黙して答えない。それが答えだった。

 思いもよらないシーンに、澪とソフィーの目つきも剣呑さを湛えている。


「……確かにレベルは高そうだな」


 陽斗はその光景に盗賊のリーダーであったギレを思い出し、吐き捨てるように皮肉った。


「…………」


 ベイルスツァートは顔に影を落とす。

 

 この高等魔法魔術学院に集められる生徒は誰もが、――今、イジメにあっている者たちも――他より才能ある子どもたちだ。

 しかし一定数の人間が集まれば、このようなイジメは必ずと言っていいほど起こる。


 陽斗たちはたまたまそのワンシーンを目撃してしまったに過ぎない。

 栄光ある学院――その最強を決める舞台。

 今日はたまたまそこに光ではなく、影が差していたというだけなのだ。


「……ふんっ」


 ソフィーが気分悪そうに鼻を鳴らす。


「相手は貴族だ。関わっちゃいけない」


 やがてベイルスツァートは自身に言い聞かせるようにそう言うと、足を動かし始めた。

 陽斗たちもそれに続き、舞台の横を通り抜けて反対側の出入り口へと向かう。

 四人が脇を通りすぎようとしても、石舞台の上の生徒たちは試合に集中しているのか、誰も気付く素振りを見せなかった。


「…………」


 陽斗たちもわざわざ面倒事に巻き込まれることはないと、足早にキルクスを出ようとする。

 しかし好むと好まざるとにかかわらず、否応なしに弱者を虐げる不快な声は聞こえてくる。


「――ハハアッ! おかわりだ!」


 強者側の一人が暴力に取り憑かれたように醜く顔を歪めながら、尻もちをついた小柄な生徒に木刀を振り下ろそうとする。

 陽斗がピタッと足を止めた。


「陽斗様?」

「ああ、ダメだやっぱり」


 陽斗は舌打ちを一つ飛ばしながら、腰の剣に手を掛けた。

空属性について調べるために魔法魔術学院へと向かった一行は、ベイルスツァートという男子生徒に図書室まで案内してもらうことに。

近道に寄った闘技場でイジメの現場を目撃してしまい……

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