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虹のファンタズマゴリア~全属性チートは異世界で王の証~  作者: 神丘 善命
第一章:斯くて王は異世界に降臨す
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第27話「誘拐 ――アジトを探せ―― その2」

 陽斗と澪の二人は街に入るまでにソフィーに追いつくことが出来ない。門を通り抜ける時の手続きにも時間を取られ、ようやく終えて街に入った頃には完全に見失ってしまっていた。


「くそっどこ行ったんだ、アイツ」

「陽斗様とりあえず南地区に行きましょうっす」

「そうだな」


 フィールドの街には十字に走るメインストリートがある。

 その大通りは東西南北に対して45度傾いているので、それによって街を綺麗に東西南北の4つの地区に分割している。


 陽斗たちはグラナの言葉に従って南地区に向かって走った。

 しかしフィールドの街はさすが風の国二番目の街というだけあって、半径3kmもの城壁に囲まれた大都市だ。一地区をとっても面積にして約7平方kmもある。闇雲に探してもソフィーが見つかるはずはない。


「聞き込みっす。緑髪で全力疾走していた美少女ともなれば誰かしら目撃しているはずっすよ」


 陽斗たちは手分けして住民たちにソフィーの情報を伝えた。

 初めは中々集まらなかった情報も、僅かな目撃証言に従い南地区を移動していくに連れ、次第に増えていく。

 そしてついにソフィーを最後に見たという場所に辿り着いた。


「ここか……ソフィーが入っていったっていう倉庫は」


 陽斗と澪の二人はソフィーが入っていったと目撃情報があった南地区にそびえたつ倉庫街にある、一つの倉庫の前に立っている。

 二人がここに来るまでにソフィーが街に入ってから30分以上が経過していた。


 ソフィーを心配しながらも陽斗は考える。

 目の前の倉庫がヒナを盗んだ犯人の根城なのかは分からない。しかし――ソフィーがどうやってここを探し当てたかは分からないが――可能性はあるだろう。


 辺りは薄暗く犯罪者のアジトに相応しい静寂に包まれている――といったことはなく、人通りはかなりあり、他の倉庫の利用者が荷物の運び入れで騒がしく行き来している。

 犯罪者の拠点としては不合格な気もするが、だからこそということもあるのだろうと陽斗は納得する。 


「じゃあ開けるっすよ」


 澪が宣言して木製の両扉の把手に手をかけ、思いっきり引く。

 陽斗の感じる重苦しい緊張感は反映されなかったようで、鍵のかかっていなかった扉はすんなり開いた。

 そして二人は中の暗がりへ脚を踏み入れ――


「「「「「ああっ?」」」」」


――途端に脛に傷をいくつも持っていそうな、ガラの悪い20人程の男たちの蛮声による唱和に出迎えられた。


 澪はそのあまりの声の揃いっぷりに吹き出しそうになり、口を手で押さえた。

 陽斗は幼なじみの普段通りすぎるその様子に、どこか安心感を貰いつつ倉庫に侵入していく。

 男たちの視線が一斉に陽斗に集まった。陽斗はそれに臆することなく問いかける。


「緑の髪の女の子が来たと思うんだが……知らないか?」


 ぱっと見たところソフィーの姿は見つからない。男たちにしらばっくれられたら面倒だなという考えは杞憂に終わった。

 男たちの雰囲気がざわりと蠢く。澪に小声で「馬鹿……ぷくく」と笑われるのも仕方ないというものだろう。男たちに心あたりがあるのは明々白々だ。


「テメェ! あの女の仲間か!?」


 男の一人が胴間声を張り上げる。


「そうだ。彼女はどこにいる?」


 陽斗がソフィーの安否を気遣う素振りを見せると、男たちにニヤニヤと気色の悪い笑みが走る。

 前に出てきたバンダナを巻いた男の一人が、倉庫内に唯一ある扉を後ろ手に指さし、


「へへっ……あの女なら俺たちの頭に遊ばれてるぜぇ」


 精神的に優位に立ったと思ったのだろう。嘲笑が倉庫の中に木霊する。

 陽斗の頭は一瞬で沸騰し、剣を抜きざまに男たちに斬りかかろうとした。

 しかし澪に肩を掴まれて止められる。


「澪ッ! なんでだよ!?」

「落ち着くっす! 陽斗様……耳を澄まして聞くっすよ。あそこ……おそらく地下っす。そこからは微かに剣と剣がぶつかる音がするっすよ」


 バンダナの男の舌打ちが鳴る。

 確かによく聞いてみれば、ガイン……ガインという金属同士がぶつかる甲高い音が断続的に聞こえてくる。


「まだソフィーは大丈夫っすよ」


 陽斗はホッと一息ついた。



   ■



「チッ……頭の嗜虐趣味にも困ったもんだぜ。弱い奴をいたぶるのが好きなんてよぉ……それがなきゃ今頃とっくに街の外にいるころだったってのに。強えーのとあの道具があるからって、新入りを頭にしたのは間違いだったかね」


 これだけの数の強面の男たちを前にして、やけに冷静な少女の言葉にバンダナの男は舌打ちを飛ばす。

 怒った相手ほど御しやすいものはない。それを狙っての挑発行為だったのだが、上手く躱されてしまったようだった。


 この集団は元はこのバンダナの男をリーダーに据えた盗賊団だった。

 しかし半年前にその地位は失われ、現在では副リーダーという立ち位置に収まっている。バンダナの男――ライギェン――はその時のことを思い返す。


 一年ほど前にとある男がライギェンの前に現れた。

 彼とその盗賊仲間のアジトである洞窟にふらりと現れたその男は、突然の来訪者に応戦する盗賊団の仲間を殺さないように手加減し、一番奥にいたライギェンの元までやってきて一つのアイテムを見せた。


 そしてそれでもってドラゴンの赤ん坊を攫って一緒に儲けないかと誘ってきたのだ。

 その日からリーダーはその男に代わった。


 ライギェンにそれを恨む気持ちはない。そのアイテムと男の力があれば、自分たちはあそこで殺されていてもおかしくなかったからだ。


 ライギェンにとって盗賊というのは弱者から財貨を奪う仕事。そしてこの世界で最も命の軽い身分の一つである。だからこそ自分たちより強いものに出逢えば、討伐される覚悟はできていた。


 最近はそのことを分かっていない盗賊が手下に増えてきたのが、ライギェンの悩みのタネの一つだったのだが……。


 弱いものは強いものに従う。これは暴力に生きる盗賊の世界の摂理だ。故にその新入りが自分の代わりになったことに文句はない。

 しかしその趣味がいただけない。


 討伐される危険が分かっているからこそ、『仕事は素早く、終われば即撤退』がライギェンのモットーだったからだ。

 未だこの街に留まっているのも、新リーダーの趣味に付き合わされた結果である。


 ライギェンの台詞の後半はボヤくように呟かれた小さな音だったので他の誰にも届かなかった。

 その時比較的年齢の若い盗賊のダミ声が上がる。


「ライギェンさん! コイツラ始末してるころには下だって終わってますぜ! そしたらあの女使っちまってもいいんでしょう?!」


 あの緑髪と新たに侵入してきた女はどちらも上玉だ。それらを売れば金になるのは分かる。だからこそ捕えることに反対はしない。

 しかし新リーダーの趣味も部下の言葉も、即撤退の意味を全く理解していない。ライギェンの悩みは尽きなさそうだった。



   ■



「ライギェンさん! コイツラ始末してるころには下だって終わってますぜ! そしたらあの女使っちまってもいいんでしょう?!」


 ギャハハハと聞くに堪えない笑い声が男たちから上がる。実際澪は耳を塞いでいた。

 陽斗も聞きたくないとばかりに別のことを考えている。


 男たちにはドラゴンのヒナを盗んだことに対する焦りが見られない。普通親ドラゴンが追いかけて来ると考えれば、少しでも遠くに逃げたいと考えるはずだ。


――何か秘策があるのか。


 陽斗は地下から聞こえる剣戟の音が未だに止んでいないことに安堵しつつ、男たちを鋭い視線で睨みつける。

 視線の先でひとしきり笑った男たちは、集団に酔った視線を陽斗に向けてきた。


「……まあとりあえずよ。終わるまで誰も通すなっていう頭の命令だ。つーことでテメーは死ね」


 陽斗に向けられる切っ先。陽斗にだけ向けられる視線。その意味は考えるまでもない。

 陽斗はいい加減男たちの言動にも我慢の限界だった。


「……ッタク。どいつもこいつも下衆しかいねえのか!」


 陽斗の咆哮を合図に戦闘の火蓋が切って落とされる。

 まずライギェンが指示を出した。


「テメエとテメエは回りこんで扉を閉めろ! 残りはあの男だ!」

「陽斗様、後ろは私が!」

「任せた!」


 陽斗はそう言って〈身体強化〉を発動する。男たちの中にも魔力を感じ取れる者がいたようで、陽斗の膨大な量の魔力に警戒感が強まる。


「コイツ……すげえ魔力出してますぜ」


 動揺する部下に対し、ライギェンは冷静に発破をかける。


「大方魔力の扱いが下手くそなんだろう。すぐガス欠を起こすはずだ。怯むな、掛かれッ!」


 男たちが鬨の声を轟かせた。

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