零の記 火災
燃え上がる、建物が一つあった。
その横の建物もまた、燃えていた。
その横も、はたまたその横も燃え上がっていた。
「そっち、人がまだ残っているぞ!誰か救援に行け!」
「こちら○○!こっちはもうだめです!」
「諦めるな!まだ人が残っているはずだ!行け!」
消防士や、消防団の声がそこらじゅうに響いている。
「助けてくれ!ま、まだ中に人がいるんだ!」
「パパ!ママ!熱いよー!どこにいるのー!」
「熱いよー!助けてよ!誰かー!」
建物の中に取り残されている人や、それの家族や、知り合いの声がこだましている。
それを、遠くから見ている影があった。
「まったく、人っていうのは、何とも脆いんだろな、君。」
その人物は、口にタバコを咥えて、ポケットからカッターナイフの刃を取り出して、あろうことか、それの先端に火を灯して、タバコに火を付けた。
タバコから煙がもくもくと出ている。
それを見つめる、一人の女性。
「いいでは、ありませんか、それもまた人ですし。」
そして、一息おいて、
「それにしても、リーダー、タバコ臭いですから、止めてください。」
男性は、それが結構ショックだったようで、落ち込んでいた。
「いや、それは、おいといてくれよ、参謀さん。」
「いやですよ、毎日誰がその服、洗濯していると思っているんですか!?」
会話が完全に夫婦の会話だが、この二人ただ同居しているだけで、付き合ってすらいないらしい。
燃える現場を目にしても、一切それを知らん顔で会話を進めている。
「まったく、あのガキが何すんだよー」
男は、気怠そうな顔をして、参謀と呼んでいる女性に言った。
「さぁ?でも、時見の人が言っていたのですから、間違いないでしょ!」
「ホント、お前のその自信はでてくるんだよ。」
目をキラキラさせて、自信満々の顔で言った女性にたいし、男性は呆れた。
「いいじゃないですか、ボスが殺せって言ったのだから、殺すんですよ?」
女性は、腕輪のようなものを、指でクルクルっと回しながら、笑顔でそう言った。
「そりゃそうだな、俺らはボスに忠誠を誓っているのだから…」
そう言って、男性は夜に消えていった。
つづいて、女性もついて行くように、消えていった。