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「村人の避難を」

 村長にそう言ってから、ランディと共に歩き出すヴィンセント。

 それに続く、シャルロットとジャネットとコンスタンス。

「――って、おい、あんたらも避難しとけよ」

「けれども、敵の数が少々多くありませんかー?」

 ヴィンセントの言葉にジャネットが答えた。

「あん? だからっつって……」

 眉をひそめるヴィンセントの後ろからエヴァドニが小走りに追いかけて来た。その手に持っているのは、

「宿の裏手に立てかけられていたこれが、先程ヴィンセント殿が仰っていた大剣ですな。お借りいたします」

 抜き身のそれを、片手でひょいと振る。

「は? えっ?」

 呆気にとられた表情を浮かべるランディ。


 そうこうしているうちに六人は村の中央の寺院を越え、森方面へ近づいていく。

 土人形が数体、彼らに気付き、走り寄ってきた。

 剣を構えるヴィンセントとランディ――それより早く、ジャネットとエヴァドニが前に出た。

「おい!」

 ヴィンセントが声を上げるが二人は振り返りもしない。


 土人形の一体がジャネットに殴りかかる。

 それに向かってジャネットは自分から滑るような動きで間合いを詰めた。突き出された土人形の手首を掴み、同時に彼女の腰が僅かに沈み――そして次の瞬間、掴んだ手首を支点に土人形の身体が宙に舞っていた。

「あの技は――!」

 ランディが目を見張る。

 土人形はそのまま背中から地面に叩き付けられ、胴と手足の接合部の辺りが砕けた。

 さらに別の土人形が横手から迫るが、ジャネットはくるりと身を翻し、斜めから打ち下ろすような掌底を土人形の顎に叩き込む。いくらも力を込めた様子は無い、打つというよりただ押しただけのような動き。だが土人形の身体は空中で派手に回転し、やはり地面に叩き付けられた。

「〈西の大陸〉のエルフが使う『まーしゃるあーつ』とかいう技だそうじゃ」

 誇らしげに語るシャルロット。

「正確には短期間である程度使えるようになるよう技を抜き出した限定的なものですけどねー。長命のエルフのように基礎訓練に何十年も掛けてはいられませんから」

 えへへ、と笑みを浮かべながら、ジャネット。


 一方で、三体の土人形がエヴァドニに迫る。

 だが、

「ぬん! ぬん! ぬん!」

 気合の声と共に、長大な大剣を軽々と三度振るう。

 それだけで、三体の土人形は次々と両断された。

「ンな阿呆な……!」

 ヴィンセントが驚きの声を上げた。

「エヴァはとても力持ちですの」

 胸元でぱんと手を打ち合わせて、コンスタンスが言う。

「力比べで彼女に勝てる方は騎士団にもそうはおりませんわ」

 じっと見つめるヴィンセントに気づいたエヴァドニが小さく会釈をした。その顔がほんの少しだけ赤くなっていた。


 ジャネットが言う。

「真に極めたエルフの使い手であれば、相手が自分より大柄であろうが熊だろうが竜だろうが関係なくその力を利用して技を掛けることが出来るそうなんですが、私では自分と同じぐらいまでの相手がせいぜいですねー」

 エヴァドニが言う。

「私は力には多少自信がありますが些か不器用でして、技であるとか、魔術師の相手というのは不得手であります」

「という訳で――」

 そして女性二人は声を揃えて言った。

「「雑魚の相手は我々にお任せあれ!」」

 対し、冒険者二人はやはり声を揃えて、

「「……う、うっす!」」

 そう答えた。


        ●


「ぬう……!」

 エルバートは眉をしかめ、その様子を見ていた。

 既に村人は皆寺院の向こう側まで逃げ、入れ替わりに出て来た六人――そのうちの女二人によって土人形たちが次々と打ち倒されていく。

 そして二人の冒険者が、抜身の剣を携えて歩いて来ていた。

 一人は金属の兜を被り、右手に剣、左手に小さな丸盾。

 もう一人は鉢金を巻き、両手にそれぞれ短剣を持っている。

「来おったな、ワードゥスに逆らう不遜な冒険者共よ……!」

 二人はエルバートから五メートルほどの距離を置いて立ち止まった。


「名を聞いておこうか、冒険者よ」

 エルバートのその問いに、

「……は?」

 ランディが怪訝そうな顔をした。

「おい、忘れたのか? 昨日会ったろ?」

「む、そうだったか?」

 小首を傾げるエルバート。

「……人違いとか言うなよ?」

「そんなことは無い……と思うすけど」

 ヴィンセントと小声で言葉を交わしてから、ランディは改めて顔を上げ、

「えーと、あんたエルバートだよな? 元・海洋神助祭の」

「海洋神だと……? 私はそのような偽りの神の下僕(しもべ)では……」

「やっぱり間違い無いす」

「なんだかなー……」

 ヴィンセントは頭を掻いてから、剣でエルバートの背後のオーガを指し示し、

「そのオーガは何故あんたと一緒にいる。あんたがどっかから連れてきたのか?」

「む? これはワードゥスの使いだ、不遜な冒険者よ」

「……あ?」

「昨夜、私の元にワードゥスがお遣わしになったのだ。そうに決まっておる」

「……よし、大体判った。ああいう奴か」

「ああいう奴す」

 と、

「――――!」

 突如、オーガが吼えた。

「ど、どうした、ワードゥスの使いよ?!」

 エルバートが狼狽えた声を上げるが、オーガは構わず歩き出す。ヴィンセントに向かって、その顔に憤怒の形相を浮かべて。

「へっ――」

 ヴィンセントが薄い笑みを浮かべた。

「俺の相手の方が判りやすいな。じゃあ、始めようぜ」

 言って、走り出す。

 それに続くように、エルバートに向かって走り出すランディ。

「私の相手は貴様か!」

 エルバートは懐から硝子瓶を取り出し、栓を抜いた。

 中身は泡立つ液体だった。突き出された瓶の口から真っ直ぐ、ランディに向かって飛ぶ。


 そして、

「――――?!」

 突如、オーガに向かって走っていたヴィンセントがその軌道を変え、ランディの前に出た。飛んでくる液体を、盾で受け止める。

 盾の表面で煙が弾けた。

「っと、酸かよこれ」

 一方でランディもまた、エルバートも飛んでくる液体も眼中にないとばかりにオーガに向かって突っ込んで行く。

「?!」

 戸惑ったように、しかし左拳を振るうオーガ。

 ランディは身を沈めてそれを躱し、転瞬、反撃に移る。

 まず右の短剣。オーガはそれを腕で打ち払う。

 すかさず左の短剣。オーガは一歩下がってそれも躱す。

 そしてさらに蹴りが飛ぶ。

 それが入った。

 殆ど逆立ちの姿勢で跳び上がり様に放った後ろ回し蹴りが、オーガの顎をしたたかに叩く。

「――!」

 ぐらり、とオーガの巨体が揺れる。

 だがかろうじて倒れるのは踏みとどまった。

 間合いを取り、短剣を構えるランディ。

 そこへ、ヴィンセントがエルバートに肉薄しながら、

「そっちは任せたぞ、ランディ!」

「はい!」

 応え、ランディは再びオーガに向かって間合いを詰めていった。

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