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 森の奥に、洞窟があった。

 大きな洞窟だ。天井までの高さは三メートルほど。緩やかな坂が地下へ伸びている。

 入り口からほんの数メートルほどの岩陰に明かりがあった。炎のように揺れることもない、白く無機質な明かりだ。

 明かりの光源は地面に置かれた小さな硝子瓶。そしてその明かりの中、何やら作業をしている男の姿があった。

 痩せた壮年の男。エルバートだ。

 地面には他に大きさも形も様々ないくつもの硝子瓶が並んでいる。中身は液体や、石や、金属片、骨、などなど。

 今、栓をした新しい小瓶を地面に置き、そしてエルバートは一息ついた。

「ふむ、こんなものか」

 並べた硝子瓶を満足げに眺める。

「しかしあの冒険者め、私がワードゥスより授かった神秘の知識を魔術などと、不遜にも程がある。あの冒険者……名は何だったか? まあ良いか」

 瓶を法衣の懐に入れていく。無造作に放り込んでいるが、物音一つ立たない。

 明かり以外の瓶を全てしまい終え、法衣の胸元をぽんと叩く。

 それから周囲を見渡し、

「ところでここはどこだろうか。森の真ん中に放り出されてしまったので場所が全く判らぬ。これもワードゥスの試練であろうか。適当に歩いたら洞窟が見つかったのでとりあえず夜露は凌げそうだが。

 それにしても大きな洞窟だな。まるで何か大きな生き物のねぐらのような……」

 そう呟いた時。

 突然、巨大な影が洞窟の入り口に現れた。


 足音も立てずに現れたそれは巨大な人型の生き物だった。

 小瓶の明かりに照らされているのは、灰色の肌に、岩のような筋肉。頭部に角を何本か持ち、唇の両端からも長大な牙が覗いている。

 オーガだ。

 その左目は閉じられ、右腕は肘の辺りから断ち斬られていた。どちらも固まった血がこびりついている。

「…………」

「…………」

 しばらくの間黙ったまま、エルバートとオーガが見つめ合う。

 ややあってエルバートが口を開いた。

「これは……何だ?」

 それからふいにその顔がぱっと輝いた。

「……そうか! ワードゥスの使いだな?! 全能の神ワードゥスが私のためにお遣わしになった――そうだろう?!」

 立ち上がり、軽い足取りでオーガに近づいてゆく。

 そんなエルバートに対しオーガは歯を剥き出した。僅かに身を沈め、身構える。

 が、

「む、怪我をしているのか? どれ」

 オーガの右腕を見たエルバートが法衣の懐を探り、液体の入った硝子瓶を取り出した。

 その栓を抜き、

「ほれ」

 無造作に右腕の斬り口にふりかける。

 するとその傷口が見る間に塞がっていった。

「……?!」

 不思議そうにそれを眺めるオーガ。ほんの数秒後には、傷口は真新しい皮膚で完全に塞がっていた。滑らかで、小さな突起が五つほどある。

「お前の持つ生命力次第だが、おそらく二月もあれば新しい腕が生えてくるだろう。さ、その左目も見せてみなさい」

 エルバートが自分の左目を指さしてみせると、オーガは少し考えてからゆっくりと跪いた。突き付けられた顔面にもエルバートは瓶の液体をかけてやる。

 一歩下がると、オーガも立ち上がった。

「よしよし。しばらく安静にしていなさい。何、遠慮することはない、この洞窟は充分に広い。お前の大きな身体にもぴったりだろう」

 それから腕を組んで満足げに言った。

「お前が一緒ならばあの冒険者も殺し切れるだろう……あの冒険者、名は何と言ったか? まあ良いか」


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