おばさんとお買い物
「よし、遥ちゃん。話よりも今からおばさんと買い物に行こうか?」
リビングで話をすると思いきや、今度は買い物へ行こうとおばさんは言い出した。
「えっ、今からどこへ買い物に行くの?」
「近所の商店街だよ。夕食の用意と、遥ちゃんの部屋着を買いに行こうかなって。」
「わたしの部屋着?」
「そう。だって、さっきも着る服がないって言ってたじゃない。」
たしかに、昼ごはんを食べる時に服がないって言ったっけ。
「うん。家の中で着る服は持ってないの。」
「さすがに、毎日制服は嫌でしょ? ましてや、汚したら替えの制服が無いもんだから、学校に行く時に困るじゃない。」
「別に、毎日制服でもわたしは平気かな。でも、汚れた制服で学校に行くのは恥ずかしいや。」
「だったら、多少汚れてもいい部屋着があったほうがよくない?」
わたしは、おばさんの言うことに納得をしてしまった。
「確かに、言われるとそうだね。」
「なら、おばさんが買ってあげるからね。」
「あ、ありがとう。」
なっちゃんに次いで、おばさんにもわたしの服を買ってもらうことになった。
「それじゃ、準備して行こうか。」
「はーい。」
なっちゃんの家から出発して、10分ほどで商店街に到着した。
「へえー。結構人通りが多いね。」
「日曜日ってこともあるけど、それでもほかの商店街に比べたら多いからね。」
こんだけ人通りが多い商店街なら、買い物にも困らないだろうなってわたしは思った。
「さて、まずは今日の夕食関係の買い物から始めますか。」
おばさんはそう言うと、商店街の中にある市場のようなところへ入った。
「今日の夕食はどうしようかな?」
おばさんは、しらみつぶしに食材を探し始めた。
すると、店の人がおばさんに声をかけてきた。
「いらっしゃい、大久保さん。今日の夕食の食材探し?」
「ええ。今日は、この子のためにちょっと豪華な食事でも振る舞おうと思ってね。」
「えっ!? わたしのため!?」
いきなりおばさんはびっくりすることを言い出した。
「この子って、大久保さんとこの娘さん? じゃなさそうだけど。」
店の人は、わたしのことを不思議そうな感じで見てきた。
おそらく、大久保なのにわたしの学校の名札が“桜田”ってなってることに変に思ったのだろう。
「違うわよ。この子は、姪っ子なの。名札の名字が違うじゃない。」
おばさんは、わたしのことを親戚の子供って扱いにしたようだ。
実際は違うけれど、まあいいや。
「そうなんだ。でも、なんで親戚の子がここに来てるの?」
店の人は、結構細かいことまで聞いてきた。
「わたしの姉が入院しちゃってて、この子をその間預かることになったのよ。この子の父親は、出張で海外にいるもんだから。」
「なるほどね。」
すごいな、おばさん。
その場で、相手を納得させる嘘を思い付くなんて。
「この子、結構かわいいでしょ?」
「おばさんったら…。」
「確かにかわいいね。お嬢ちゃんはどこの中学校なの?」
「春田中学校です。」
「春田中学校、聞いたことないね。」
「そりゃあ、こっから40分くらい離れてるからね。」
「結構遠いんだね。」
このあとも、しばらくお店の人と会話が続くのであった。




