仮の名前“桜田”
わたしは、起こしてくれた男性と近くの警察署へ向かった。
「ここで、お嬢ちゃんのことを調べてもらおうか。」
「それで、わたしが誰かわかるのかな?」
「いつかはわかるさ。」
男性に励まされ、少し心が落ち着いた。
そして、警察署の中へ入り男性は状況説明をし、しばらくしてからわたしに対する取り調べが始まった。
「つまり、あなたはなにも覚えてないと?」
「はい、なにも覚えてないです。」
「その制服、名札を見ても思い出せないですか?」
「まったく…。」
「それじゃちょっと、身体検査でもしましょうか。」
すると、近くにいた女性警察官がわたしの制服のポケットなどを調べ始めた。
だが、胸ポケットやスカートのポケットを調べてもなにも出てこなかった。
「生徒手帳があればすぐに身元がわかるんだけど、どこにもないか…。」
女性警察官は大きなため息をついた。
「手掛かりが少ないのが痛いね。名札だって、校章バッジが付いてれば学校がすぐわかるけど、名字の彫られた名札の板だけでは…。」
結局、現時点ではわたしの身元は判明しなかった。
「とりあえず、この子はこちらで保護致します。」
女性警察官は同行してくれた男性にそう言った。
「すいません、お願いします。」
男性はそう言って、取調室から出て行った。
「それじゃ、これからは私があなたのお世話をします。」
「は、はい…。」
これから、わたしは警察のお世話になるようだ。
「心配しないでもいいよ。いつかはあなたの身元を突き止めるから。」
「う、うん…。」
「ところで、名前はどうしよう? 呼んで欲しい名前とかある?」
「特にないから、名札の名前で呼んでくれればいいかな。」
「なら、桜田さんでいい?」
「うん、それでいいや。」
わたしは、仮の名前として“桜田”と呼ばれることとなった。