仮の名前“桜田 遥”
「どうもありがとうございました。」
病院の人達にあいさつをし、わたしたちは病院をあとにした。
「ねぇ、なっちゃん。これから行く中学校って、何て名前なの?」
「確か、春田中学校だったかな。」
「春田中学校って、こっから遠い?」
「そうだね。30分くらいかかるかな。」
「結構遠いんだね。」
「だって、桜田さんが見つかった場所から10キロも離れてるんだからね。」
「そうなんだ…。」
なんで中学校からかなり離れた場所で、わたしは見つかったのだろう。
ますます意味がわからなくなってきた。
「ところで、桜田さん。」
「なーに?」
「桜田さんの下の名前、考えない?」
「下の名前って?」
「私は大久保奈津子って名前で、大久保が名字で奈津子が下の名前になるの。だけど、桜田さんには名字はあるけど、私の“奈津子”に該当する名前がない状態なわけ。」
「下の名前って必要なの?」
「名前を呼ばれる分には問題ないけど、どうしても下の名前がないと不便なの。」
「例えば?」
「学校にも通えないし、いろいろめんどくさいよ。」
「学校に通えないのは困るよ…。」
「そうでしょう。だから、今のうちに下の名前を考えましょう。」
「でも、学校に行けばわたしの身元もわかるんじゃない?」
「もしかしてわからなかった、のために考えておいた方が身のためかもよ。」
「そっか…。」
なっちゃんは、学校へ行っても身元がすぐにわからない可能性もあることをわたしに教えた。
「下の名前か…。正直、なんでもいいかな。」
さほど、名前に関してわたしは関心がなかった。
「桜田」という名字だけでもわたし自体を表す言葉だから、それ以上になんと呼ばれようとどうでもよかったのだ。
「それなら、私が決めていいかな。」
「いいよ。文句は言わないから。」
「それじゃ、遥ってどう? 桜田遥。」
「いいよ、問題ないよ。」
わたしは、なっちゃんの付けた名前に文句はなかった。
「よし決まり♪ それじゃ、あなたは桜田遥ちゃんね。」
「桜田遥か…。」
こうして、わたしの名前は桜田遥に決まった。




