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夢川なぎさ

夢川むかわなぎさ。猪突猛進な女の子。台風の目?

 くやしい!

 なぜなんだ!!


 夢川むかわなぎさを憤然としていた。

 ついに運命が、我が道を照らしはじめたはずなのに……と。


 ヤツさえいなければ――!!


 夢川なぎさは勘違いをしていた。

 つい最近、男の子になった元・女の子に振り向いてもらえるはず……と。

 

 そしてなにより、……。




-夢川なぎさの場合-


「ねぇねぇ~」

 友人の琴音ことねが必死に彼女をとめようと奮闘している。


 ここは空き教室前。

 以前は使われていたらしいけれど、詳しいことは知らない。


「やめようよー」

 バレかけちゃったしぃ~。

 しかしその間延びした声ではまるで効果はないようで、


「だまらっしゃい!」

「えぇえ~……」


 かえってなぎさの中に眠る決意の炎をよりつよく、より濃いものへと昇華させてしまっている。


 あまりの燃え盛りぶりには、

「やれやれ」

 もう一人その場にいる、ミコなどはもはや無駄とばかりに首を横に振るしかないといった様子。


 それもそのはず。

 夢川なぎさ。

 一度思い込んだら止まらない。イノシシのような女なのであるからして。

 それはもう、ひどいってレベルで。




「ぐぐぐ……」

 意識せず漏れるうめき声。

 

「(なんで……)」

 なんであそこにいるのはワタシじゃないの!?


 荒い鼻息。 


 いかにも薄暗い青春を謳歌している女子校生。

 手を出したら実際に噛まれるどころか、突進してきてもおかしくないとさえ思わせるだけの迫力を、彼女、夢川なぎさはもっている。


 それだけに、

「あぁ~、ごめんね楠木さん。言うなって言ってたのにぃ」

 嘆く琴音。

 特に仲のいい友人には秘密をもたない主義(というより持てない)の彼女。

 実はこの中で唯一クラスが楠木さんと違うなぎさにとっては良いスパイとなってしまっており後悔が尽きない。


 いかにも哀れなので、

「お前は悪くないさ」

 楠木さんだってわかってくれる。

 ミコがボソリと慰めるも、根拠に乏しく、とりあえず言った感がどうにも強い。


「うぅ~」 

 半べそをかく琴音とボーイッシュで背の高い(楠木さんとはまた違ったなんとも魅力的な”ボーイッシュさ”を持った)彼女は、まるでホストと、ホストに依存する客のようでもある。




 そんな二人に目もくれず。

「く、くやしい!」

 一人血走った目で中を覗きこみ、

 ハンカチを渡したらば古い少女マンガのように端っこをかんで涙を流しそうな勢い……どころか噛み千切って血の涙を流しそうななぎさ。


「あのやらしい目! きっと今になにかしでかすに違いないわ!」

 自分のことは完全に棚に上げ吠えていた。

 

「だって、ほら!見て」


 琴音とミコに、同じく覗くよう促し小さく指を指すと、そこにはなにやら必死に天井を仰ぎ見ている九良がいる、が――。

 

「??」

 琴音にはなんなのか1ミリもわからない。

 そこでなぎさのほうをチラリと見る。

 すると、


「――あれは、準備しているのよ」

「準備?」


「そう、」

 若干声を低くし、なぎさなりにおどろおどろしく、


「楠木さんにチュ……」


 ……。

「チュ……」


 ……。

「……」


「……ん?」

 なにか言わんとするなり、突如押し黙ってしまい赤くなるなぎさ。


 おかしな様子に、

「どうしたの?」

 琴音が当然のように尋ねるも、


「だまらっしゃい!」

「えぇえ~……」


 またも理不尽に跳ね除けるなぎさであった。

 よく友達を失わないものである。




 琴音とは違い、

「(……ありゃ、どう見たって見たいのを堪えてるだけだろう)」

 わかってるけどあえて言わなかったミコといえば、おかげで理不尽な被害にはあわずにすごせたわけだが――。

 これは要領がいいというよりか、単に『どうせなぎさの性格からして信じないし、なにより面倒くさい』と言うだけの話。


 それに、

「(悪いけど、九良くんには借りもないからな)」


 ……。

「……つっても、」

 ミコは思う。 

 これまで恋愛とはトンと縁のなかった(自分もだが)無鉄砲な友人が、”男の子に”惚れた。


 そう。楠木さんに、である。

 間違っても九良ではない。


 正直それほど親しくもしてこなかった楠木さんに、である。


「(ほんと、なにがあったのか)」

 は、彼女にもわからない。

 

 が、

 ともかくとして、

「かならず尻尾をつかんでやるんだから」

 などとブツブツ呟いているなぎさの目を見れば。

 今度の覗きは借りにはならないのかと言う疑問を残しつつも、

「(はやめに借りが出来そうではあるな……)」と思うのであった。 




 それにしても。

 このなぎさの目。もはや獣。彼女が真に戦うべきは、九良なのか。猟師なのか。

 はたして――。




 ※

-なぎさのあれこれ-


 なぎさはかねてから思っていた事がある。


『まただ。

 九良くん。

 いっつもいっつも彼がいる。

 

 授業中は杉水さんを中心にいつも女の子の誰かと一緒にいて、クラスの違う自分はいっぱい話すことができない。


 だから、楠木さんと話すなら放課後だ。

 なのに。

 でもそこにはいつも九良くん。彼がいる』


 今とは少しだけ違う様子で、似たようなことをなぎさは思っていた。

 琴音とミコと、同じように話せたらいいな、と。

 あくまで友達として。




 ――前からだった。

 それは彼女が楠木さんに慕情を持つ前から漠然と。 

 女の子にいつも囲まれてる楠木さんはどこか居心地悪そうに思えてならなかった。

 今ならば、あぁなるほどとなるけれど、当時の彼女としては、あんなに人気で、本人もほんっとうに楽しそうなのに。なんだか……。

 なんて。


 でも、

 あるときふと気づいたことがある。


『そう、九良くん。

 彼といる時だけは、

 九良くんといるときが一番たのしそうな楠木さん。

 

 彼女が男の子って知るまでは、

「あぁ、彼女も恋に目覚めたのね」程度にしか思ってなかったものの、

 今ならわかる。


 あれは、隠し事のいらない相手。

 『親友』に向ける笑顔だったんだなって』


『……』


 そう、

 友達だ。

 恋人じゃない。


『でも、

 でもでも、、、!!

 うぅ……。

 胸が張り裂けそう。

 

 だって、

 楠木さんが男の子だってわかってからはもっともっと楽しそうなんだもの』

 

 彼女の、楠木さんに対する想いの変遷を今ここで詳しく語ろうとは思わない。

 あえて言うなら。

 まぁ、このモヤモヤした気持ちに名前がつくまでは。

 のちに同窓会あたりで話して若干引かれつつも楽しめるほほえましい話題だったかもしれないとだけ。




 ただ彼女は違った。

 なにがどうして、

『楠木さんが”告白”したあの日から、私はこれまで以上に楠木さんのことを考えるようになってた!

 男の子なのに!

 これって、そう、


 恋よ!


 そういえばブラを凝視してたし!

 あの変態から守らねば――』


 いつの間にかこうなった。




『九良くん。

 いや、クラ!!


 もう、もうもう、絶対に負けないんだから!』


 彼女の暴走は止まらない。


やはり3000字以内が平和かなと思いました。


8/19

ちょこちょこ修正。

読みやすくなったかな?

「なぎさ」が男の子になってからの楠木さんに想いを寄せてるっぽい雰囲気が伝わっていれば良いのですが・・・

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