プロローグ
――うちのクラスには秘密がある。
それは、6月も終わろうかというある日の朝。
かわいくて秀才と名高い女の子、楠木さんが教卓前で言ってのけたことから始まった。
「実はボク、男なんだ」
とてもさわやかに、少しはにかんだ様子で。
爆弾発言をした顔に後悔の念など一つも見当たらない。
あとで聞いた話だけれど、クラスのみんなには「嘘を嘘のままにしておけない」からだそう。
「(ま、マジだったのね)」
その時の俺はきっと、ずいぶんと間抜けな顔をしていたに違いない。
昨日の放課後、俺と二人きりで行ったゲームセンター。
クラスの男の中で特に仲のよかった俺は、実はみなより先に告げられていたのを思い出す。
改まった様子で、
「お前には先に言っておくよ」
とか言っていたのを。
正直、今の今までジョークだとばかり思っていた。
だって楠木さんかわいいし。
身長も小さくて、いかにも小動物っぽい、ふわっとしたショートボブな女の子……だったし。
いや、今思えばだけれども。そういえばやたら男言葉で話したり。
あんまり、その……。下着が見えてしまうことにも無頓着だったりもした。
でもそんなのはいわゆる「ボクっこ」って奴だと思うことでむしろ女の子ポイントアップとかアホなことを考えてたわけで。
俺だけじゃない。
クラスのみんなも同様のはず。
そう思ったのは間違いじゃない。
だって、実際、宣言どおり翌日クラスで堂々と語る楠木さんを前に、やはり間抜けな顔をしていたから。
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ともかく。そんなこんなでおかげさま。
楠木”クン”に嘘がなくなったその日。
代わりに俺には嘘が一つ、出来てしまった――。
告白をクラスのみんなにしたその日。
楠木クンは よほどスッキリしたのか晴れやかに、テンション高く。
「あ。おい、アキ!」
俺に向かって、おいでおいでと手を振り振り。
「ん? ……え? なんだい?」
だもんで、とりあえずフラフラと近づいてみるなり、
「えい、」
ちょっぷ。
「い、いたぁ」
俺が何事さ、と顔に出せば。
「なんかさ、おまえのボケッとした顔見てると、チョップしてやりたくなってさ」
えへへと眩しい笑顔を浮かべてるんだから、もう返す言葉はない。
カレの席は窓際。
カーテンがひらめき、太陽の陽光がカレを照らす。
「……」
「……?」
「(俺は……)」
「相変わらずへんなやつだな、アキは」
そう言ってまた、
「でも、そういうとこ、いいよな。お前」
はにかむ姿が。
俺は――。
彼女が、好きだ。
――無論、女として。
ちなみに彼らは高校1年で、ほぼ全員がエスカレーター式で上がってくる中高一貫の学園。
制服だとかが人気で、高校受験して外からやってくる人も結構います。
九良は普通の高校受験組。