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ハート・ビート   作者: 藤浜吉和
天災科学者との遭遇
6/7

ラスト・エネミー

八束橋姫(やつかみきょうき)さんにいろいろな事をされながらも何とか抜け出して八束さんを制圧して隣の部屋に居ると思われる巌咲刃華莉(いわさきはかり)くんのところへと向かう私。

 巌咲くんはリビングの真ん中にある傍目から見ても高級と思われる黒い革張りの椅子、足が細くて壊れるかと思ったけど巌咲くん位じゃまったく堪えてない様子だ。その椅子に腰掛けて優雅にもコーヒーを飲んでいた。


「ちょっと、なに一人でくつろいでるの?それにここは嘉倶さんの部屋なんだから」

「・・・別に。関係ないでしょ。それより早く説明に移りたいんだけど」

「・・・むぅ」


 巌咲くんに言われるままに私は彼の正面の白い革張りの椅子に腰掛ける。


「まず初めに。〈I.A.O〉--これに聞き覚えは?」

「ん~、ない」

「・・・はぁ」


 ため息を、年下にため息をつかれた!普通なら温厚な私でも軽くきれてるところだけども、巌咲くんには助けられたらしいのでそこは年上としてぐっと不満を飲み込んで耐える。

 そんな私の葛藤なんて露知らず、巌咲くんは説明を続けていく。


「〈I.A.O〉。国際能力研究機構の略。国際的にも黙認されてる立派な国際機関さ。規模はかなり大きくて世界中に支部がある。因みに本部は日本」

「へぇ。大きいって言うけどそんな名前聞いた事無いよ?」

「当たり前。一般的に活動している非営利団体なんかと違って〈I.A.O〉は表向きには活動してないから。そいつらをさがそうとしてもせいぜい過去にあった一財団扱いさ」

「しかしながらその影響力はアタシ達の生活圏内まで及んでいる。今アタシ達が使ってる携帯だって基本的な技術はその〈I.A.O〉の技術を流用しただけだからって話もある。それだけその組織は世の中に浸透してるってことさ」


 嘉倶さんの部屋からのそのそと出てきたジーンズに赤いジャケット姿の変☆態--もとい八束橋姫さんはキッチンに向かいコーヒー片手に私の隣へと座る。でも携帯とかのハイテク機器もその〈I.A.O〉絡みなのか。なんだか想像できないな。


「アタシもその話をしなきゃなって思ってたんだけどね。話をする前に神器所有者とやりあったっていうじゃない。焦りまくりよ」

「その割にはあの時全く慌ててませんでしたね、〈影の守り(シャドウ・ダンサー)〉」

「まあね。伊達に修羅場は潜ってきてないわよ。これくらいの事、圭一と居れば日常だったし」


 八束さんの話は何処から何処までか良く分からない。あるときは沈みかけた東京を救った、とか言うしまたあるときは世界を乗っ取ろうとした悪の組織を潰した、とか。


「ま、アタシのことは置いといて。その〈I.A.O〉なんだけど、この団体の一部はが神器の研究、製造を一括して行ってる。更にはアタシ達のような能力者を監視と言う名の下に拘束し実験台にする、と来たもんだ」

「その〈I.A.O〉に巣守は所属している。それも開発部主任という高い地位でな。近づこうにも偽情報がそこらじゅうにある所為で巣守の居る場所は分からないし。こっちもなかなか手が出せずに困っているんだよ」


 巣守の場所と言う言葉で私の記憶の中の一つの欠片が反応した。そうだ、確か榎本火乃江(えのもとひのえ)はこう言っていた。


「・・・巣守はこの町の隣に今は居る」

「「え?今なんて(言った)?」」


 二人が驚いた顔でこちらを睨んでくる。いやいや。怖いんですけど。ってかさっき思わず言葉が出ちゃったのか。


「どういうことなの?!美佳!どうしてアンタ巣守の居場所を」

「それは確かなんだろうな!?」

「ちょ、ちょっと落ち着いて二人とも!」


 こちらにずいずいっとよってくる二人を落ち着かせるために手元にあったお盆を使って簡易的な盾を作って対抗するけど、すぐに破られてしまう。とりあえず落ち着いてもらわないと。


「は、話しますから!いちど落ち着きましょう!!」


 二人を引き剥がしてなんとかソファに座ってもらう。あんなんじゃ私の傷がまた悪くなっちゃう。


「すまないね。巣守と聞いたらつい」

「・・・ごめん」


 おっ、巌咲くんが謝るなんて珍しい。これは雨が降るかな?って言いたいところだけどここは大人の女性(?)として我慢我慢。


「しかし何だって隣町に?あそこにはあいつの欲しいものなんて何も無いはずだけど」

「確か隣町の陽静町。昔から避暑地として人気の場所。あの巣守がいる雰囲気は感じない」

「わ、私も聞いただけですから」

「聞いたって、誰によ?」


 私は榎本火乃江との交戦後にそのような話を聞かされたと二人に話した。話をするときあのときの記憶が甦ってきそうになったけど、気持ちを落ち着かせて、ぐっと飲み込んで何とか話す事が出来た。


「榎本・・・ねぇ。そういや最近こっちにちょっかいを仕掛けてくる奴がいて情報屋でも足がつかめてないって話があったわね」

「僕もそれは聞いている。ここ一月の間に急に出てきた、って。」

「ふうん・・・もしかしたらその榎本ってやつはつい最近神器を手に入れたのかもね」


 八束さんはなにやら顎に手をやり考え込むような雰囲気を醸し出しながら自分の推理を述べてゆく。


「推理じゃないわよ。事実を並べるとそこから見えてくるものよ。通常神器ってやつは〈I.A.O〉が審査をして使用者を選ぶもんなんだけど今回はどうやらその審査をしてないみたいね」

「通常審査は一、二週間はかかる。それがこんな短時間で神器使用者がでてくるのは異常」

「そんな強引なこと出来るのはあの巣守を他置いていないわね」


 審査とかいろいろ分からない単語が出てくるけどここは黙って話を聞く。意見を出し合っていた八束さんと巌咲くんは、


「こうなったら直接乗り込んで確かめるしかない」

「そうね。今のままではなにも解決した事にはならないわ。敵地だけど話をするだけならもしかしたら通して貰えるかもしれないわ」


私の意見なんて何のその。半ば強引に敵地に乗り込むことが確定してしまった。余計な事を言わなきゃよかったかな?でもこれで進展するなら構わないかな、という二つの気持ちが私の中で渦巻いていた。



 翌朝。嘉倶さんの事務所に私と八束さん、そしてあいも変わらずの黒黒ファッションの巌咲刃華莉君の三人が集まっていた。因みに私は学校帰りなので学生の証でもあるセーラー服。八束さんは今日は青いジャケットに藍色のタイトジーンズで決めていた。なぜ巌咲くんが私よりも年下のはずなのに学生服じゃないのかが気になるけど八束さんも突っ込まないので私も気にしないことにした。

 三人は八束さんが用意してくれた車(アメリカの七十年代の車らしい)に乗り込み隣町「陽静町」へと向かう。

 隣町の陽静町は巌咲くんが言ってたように観光を主な収入源としている町で学校はもちろんの事、工場もない珍しい町。その代わりにお土産やさんや観光協会がひしめき合っている観光の人間からしてみれば「天国と地獄、二つの顔を持つ陽静町」と呼ばれるほどの激戦区。らしい。

 そんなところに噂の巣守天一がいるなんて思えないんだけど今持っている中で一番確かかもしれない情報を元にこの町にやってきた。季節は夏に近いこともありちらほらと観光客らしき人も見える。


「あっ!あそこ、見て下さい!新作のアイス、鯨味だって」

「こっちにもあるぞ。こっちはチョコクレープの味がするチョコだってよ。んなもんチョコクレープ食えば良いのにな」

「向こうには今年のトレンドのスケバンルックの店ですよ。トレンドって本当かな?」

「嘘くせえよな。おっ、新作の映画やってるぜ。どっかのバンドのドキュメンタリーみたいだな、見てくか?」

「・・・いい加減にしろ」


 はしゃいでたら巌咲くんに怒られた。だってこの町は町ひとつでテーマパークみたいになっててついつい時間がたつのも忘れちゃうからね。しかたないね。


「だいたい、〈影の守り刀〉。あなたもあなたです。もっと自覚を持って・・・」

「アタシ、自覚なんてもってねえし」

「しかしですね。現在もっとも強いのはあなた」

「今ならアタシよりアンタが強いと思うよ。アタシは夜限定で強いの。いまはただのお荷物」


 巌咲くんの説教をものともしない八束さん。あ、あれが大人の女性の対応というのか・・・!私もあの対応が出来るようにならないと。

 そんなことを考えていてもいけないので改めて巣守の捜索に専念する。


「でも、この中から巣守のいるところを探し出すのは相当困難ですよ?そもそも場所が分からないんですけど」

「それは心配しなくてもよろしいかと」


 私達の目の前、車のドアのところにいつの間にか男の人が立っていた。俗に言うカイゼル髭を生やしてアロハシャツを着ておりなぜかニコニコと笑っていた。


「あの・・・失礼ですが、どなたでしょうか?」

「私のことは今は関係ないと思われますが?それよりもあなた方はどなたか探されてるのでは?」

「ああ?それこそそっちにはカンケーないだろ?」


 礼儀正しくありどこか一歩引いてるかと思えば言葉ではどんどんこちらに踏み込んでくるアロハシャツの男に露骨に嫌な顔をしている八束さん。ちょっと、初対面の人にそんなことしちゃだめですよ。とは言えないな。


「そちらにはカンケーなくともこちらにはあるのです。詳しく言うと私の上司が、ですが」

「上司?生憎とそのような知り合いはいないけど・・・」


 巌咲くんが話そうとした言葉をアロハの男は右手で制した。その手は細くほっそりとしていた。ってそういうことじゃなくて。男が出した右手には一枚の名詞があった。


「私の上司。名は、巣守天一でございます」


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