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ハート・ビート   作者: 藤浜吉和
天災科学者との遭遇
1/7

プロローグ

「冒険とは満たされた者には訪れない」


 以前私はこんな言葉を聞いたことがある――いや、読んだことだったかな? ともかく私はこの言葉を、だったら今自分は幸せなんだ、と幼い頭で解釈し、理解していた。

 しかし、高校に入って一年目。ある一人の男に出会ってから、私はその言葉を思い出し、認識を改めた。

 なぜなら、満たされているはずの私に冒険が訪れたのだから。


 きっかけを作った男の名は、嘉倶圭一かぐけいいち

 一月、とある些細な出来事から、私は彼によってこの世界には炎や水を操ることをやってのける人達――能力者がいることを身をもって思い知らされた。

 しかし、それで知ったのは能力者のことだけではない。驚いたことに、私自身がその能力者だというのだ。その時は正直混乱してたけど、嘉倶圭一が能力を使う場面を見て、私自身の能力を発現した時、不思議とその事実をすんなり受け入れていた。もしかしたら、心の何処かでそれを求めてしまっていたからなのかもしれない。

 その日以降、同じ能力者として私に目を付けた嘉倶圭一に勧誘され、彼の営業する〈よろずヤ嘉倶〉へアルバイトに通う、という、非日常に踏み込んだ日常を選択した。


 それから一年後の、四月某日。

 その日も私はいつもと変わらず、放課後、とある街角のビルの三階へと足を進ませていた。何のためと言われたらバイトのため。いい加減エレベーターをつけてくれという願いをビルの白い壁にぶつけながら、アルバイト先の扉をやや乱暴に叩き、入室する。


「おい、天辻あまつじ。この前整理した書類どこにやった? 食べたのか? 悪い子だな」

「誰が食べますか、誰が。たとえ飢えていても書類なんて食べませんよ。こっちはテストで疲れてるんです。今は嘉倶さんの相手は遠慮したいんですけど」


 入るなりこちらの怒りの沸点を下げるような冗談を言ってきたのは、私の上司でありこのよろずヤの支配者、嘉倶圭一。年齢は25歳前後。無精髭に伸ばした髪を大雑把に後ろに流し、肩甲骨あたりで縛っている。年がら年中スーツを着ていて、靴だけは頑丈そうな、作りのしっかりとしたミリタリーブーツを履いている。

 そんな学生の苦労なんて知らないだろうと思われる我らが上司の嘉倶圭一さんは、無駄に豪華なレザーチェアに斜めに座り、無駄に高そうなオフィスデスクへ両足を乗せ、片手にはソフトクリーム、もう片方の手にはなぜか納豆を手にしていた。


「あの・・・それなんですか?」

「それって、このアイスのことか? それとも納豆のことか?」

「両方ですよ」

「欲しいのか? だがやらん。欲しかったら自分で買ってくるんだな」


 この上司、甘いものに関してはかなりの独占欲を持っている。

 ――しかし何で納豆?

 甘党の、というか嘉倶さんの思考は理解出来ない。私はセンターテーブルの脇にある来客用のソファに腰掛け、スクールバッグを置いた。


「納豆が気になるのか? 気になって仕方がないんだろ」

「そう言われると興味が失せます。でも、たしかに嘉倶さんのもってる組み合わせは気になると言うか、首を傾げたくなりますね」


 どこの世界に進んで納豆とソフトクリームを食べる食の探求者がいるのだろう。この目の前の馬……上司を除いて。


「昨日偶然見つけたんだけど」


 嘉倶さんは頼んでもいないのに、何故普段合わさる事のない二つの物体を持っているのかを自分から話し始めた。結構時間が経ってるのか、ソフトクリームのほうは少し溶け始めている。

 ……私に見せて自慢する気だったのか。


「納豆アイスって知ってるか?」

「はぁ、納豆アイスですか……」


 聞いた事あるような。しかし食べたことはない。神に誓ってもないと断言できる。

「そこには食べた感想しか載ってなかったんだけどよ。すげぇ美味しそうでよ。こうして急遽調達してきたって訳だ。甘いもの好き日本代表の俺がこのスイーツを食べないわけにはいかないってな」

「はぁ、日本代表だか選抜だか分かりませんけど、程々にしてくださいよ。この前だってチョコとご飯持ってきてチョコおにぎりだ、とかいって散々な目に遭ったじゃないですか。あの後片付けるの大変だったんですよ」

「む、あれはな。おにぎりにする際に塩を使ったのがいけなかったんだ。おにぎりと言えば塩だからな。しかし塩とチョコレートがあんだけ相性が悪かったとは」

「普通分かりますよね?甘いもの代表なんですから」

「だが今回は大丈夫。余計なものは使わないで素材の味、そしてハーモニーを楽しむ。これこそスイーツの醍醐味だ」

「その素材が大喧嘩しそうな勢いなんですけど。でもまぁ、ほどほどに・・・」

 私の心からの警告が言い終わる前に私の目の前に映った光景は無精髭の男が納豆とソフトクリームを同時に口に入れ、数回咀嚼した後、声にならない悲鳴と共にキッチンに駆け込む姿だった。

 10分は経っただろうか。ようやく奥のキッチンから出てきた嘉倶さんはぶつぶつとなにやら呟いていた。 


「うっ・・・こんなの食いもんじゃねぇぜ。嘘書き連ねやがってあいつら。恨んでやる!親子三代に渡って!」

「親と子供関係ないですけど。というかまだ残ってるんですか?さっきあれほど悶えてたのに」

「その天辻の台詞に更に悶えるよ・・・」

「変態ですか。散々胃の中の物吐露した後は己の性癖も吐露するんですか」

 さすがに私の突っ込みが効いたのか次の台詞を言おうとした嘉倶さんも口を開きかけて途中で止めた。もしかしたらまだ残っていて逆流してきたのかも。ざまあみろ。

 嘉倶さんは時折苦そうな顔をしながら机の上の作業に戻る。見ると新聞の切抜きが日付バラバラに無造作に置かれていた。

「嘉倶さん。それって随分前の新聞ですね・・・というか嘉倶さん切り抜きなんて残してたんですか」

「暇だったからね。これでも几帳め・・・」

「なんだかイメージと違って気色悪いですね」

「あれ?俺のイメージしてたのは天辻の褒め言葉なんだけどな」

「だれが褒めますか。上司を褒めて何になるんですか。ボーナスでもくれます?」

「それはない」

 あっさりと拒否。ボーナス欲しかったのに。

「だいたい天辻には十分すぎるほど給料やってると思うんだが」

「私は一人暮らしで仕送りも期待できないんで十分すぎる以上の給料が必要なんです」

 実際はもう少し余裕はあるのだがそれでもお小遣いが殆ど残らないので正直きついところがある。

「そんなに高い買い物してるのか?ゼータクだな」

「昔とは違うんですよ、昔とは」

 昔の話なんて正直あまり興味は無いんだけど、昔より今のほうが物価が高いのは日の出を見るより明らかだと思う。

 高いものもあまり興味は無いけど、服やCDも安いと言ってもやはり値が張る。ここは私の生存戦略のためにももう少し粘るべきだ。

「しかしですね・・・」

 私が抗議を提示しようとした時、珍しく事務所の扉が開かれ一人の女性が入ってきた。長い髪をポニーテールにして、胸元を強調した白いタイトなシャツと脚線美を見せ付けるジーンズを着こなしている。


「ちーっす。邪魔するよ」

 そう言いながら嘉倶さんが返事をする前に事務所に置かれた来客用のソファーに腰掛けていた。

「すでにソファに腰掛けて足を伸ばしてるけど更にそこから邪魔するのかよ、八束橋姫やつかみきょうき。」

 嘉倶さんから名前を呼ばれた女性、八束橋姫は片手を上げてひらひらと振る。どうやら気にするな、と言う合図らしい。私もお客さんに出すお茶を用意して八束さんの前に持っていく。

「八束さん、いつもご苦労様です」

「ん。すまないねぇ」

 この3ヶ月間でいくらか接客のほうもスキルが上がってきた気がする。初めの頃はどうしていいか全然分らなかったけど。嘉倶さんもぜんぜん教えてくれないし。

「天辻も天辻だ。このお邪魔虫にはお茶なんていらない」

 嘉倶さんが顔をしかめて私に注意する。最近知ったけど目の前の八束さんとここの事務所の嘉倶さんはどうやら昔からの知り合いらしい。八束さんにどんな仕事をしてるんですか、と聞いたら職業は賞金稼ぎだとの事。今時賞金稼ぎ、って思ったんだけど意外と需要があるのか忙しそうにしてる。

 でもまだ何の賞金で稼いでいるのかは教えてもらってない。

「で、橋姫。また何の厄介ごとを持ってきたんだ?」

「失礼な。アタシがいつ厄介ごとを持ち込んだと」

 嘉倶さんの言葉にはなかなかの毒が盛られていたけれど八束さんはぜんぜん気にしていない様子で返す。

「何時もだろ。前の駅ビルの時も、空港での時も。どれだけ後処理に苦労した事か・・・」

「あれ?アンタの趣味は事後処理じゃなかったけ?」

「断じて違う。お前の記憶を処理しようか?」

「はぁ、いちいち昔の小さい事で騒ぐ事ないでしょ?昔より今を生きてるのよ」

「はぁ・・・それで、実際何しに来たんだ?橋姫」

 ひとしきり挨拶のコントを終えた二人は手元にある飲み物(八束さんはお茶玉露入り、嘉倶さんは甘甘のココア)を飲み始める。私も何か入れようかと台所に向かった。ちょうどココアが出ていたので淹れていると応接間のほうから二人の話が聞こえた。

「今日は遊びで来たんじゃないのよ。依頼よ、依頼」

「ほう。なかなか面白い冗談じゃないか」

「アタシはいつでも本気よ。探して欲しい人がいるの」

 そういって八上さんは嘉倶さんの目の間に一枚の写真をだした。どんなものだろうと覗き込んでみると、写真に写っていたのは頬が痩せこけた白髪の男の写真だった。

「・・・八束さん。このおじいさんは?」

巣守天一すもりてんいつ。それがこの男の名前。こいつを探して欲しい」

 そのおじいさんの名前を聞いたとき嘉倶さんの顔が曇った気がした。

「巣守・・・ってまだ生きてたのか。ったくしぶといな、あの研究者」

「あの・・・その巣守って人、二人の知り合いか何かですか?」

 話についていけなくて二人に尋ねてみる。それまで真剣な顔をして話をしていた二人のうち八上さんは私のほうを向いて驚いた風な顔で

「誰って・・・アンタ何も聞いていないのかい?」

「はぁ・・・恥ずかしながら」

 私の言葉を聴いた八上さんはきっと嘉倶さんの方をにらむ。うん、なかなかの迫力。

「アンタ。これはどういう事?説明は?」

「はて・・・何のことやら」

「しらを切るんじゃないよ!アンタには説明っていう義務があるだろう!?」

「・・・はいはい、悪かったよ俺が悪かった。今から説明するから」

 あ、この人説明する気なんて更々無かったんだ。


 

 嘉倶さんはそういうと立ち上がり応接間の奥のほうにあるホワイトボードを引っ張ってきた。

「んじゃ、説明するからちっと耳を貸してくれよな。一応橋姫にも補佐をお願いしようかな?」

「は?アンタだけで十分だろ?アタシはまだ用事が・・・」

 そそくさとその場を去ろうとする八上さんだったけどを嘉倶さんが半ば強引に引き戻しソファに座らせる。

「まず初めに・・・天辻、俺たちは世間一般の一般人とは違う事がある。それはもうわかってるよな?」

「はい。・・・能力の事ですよね」

 私は数ヶ月前無精髭の男嘉倶さんと出会ってこの世界には「超能力」を実際に使う人たちがいることを知り、同時に私自身もそれまで信じていなかった、テレビや本の中のものだと信じきっていた「超能力」と言うものを使えるようになった。

 その出来事はそれまで生きてきた私の人生を、生き方を180度変えるには十二分すぎる出来事だった。

「俺達能力者は随分前から一般人との間にいざこざがあってな基本的には能力を隠している。ばれたときは何かと面倒だからな。因みにそこにいる橋姫だって立派な能力者だ」

さらさらとホワイトボードに二つの名前、能力者と一般人という名前を書き入れその間には大きくバツマークを書き込んでいた。

「えっ・・・本当なんですか?八束さん」 

 突然言われた事に少しばかり驚いたけど八束さんは当然と言う風に頷く。

「アタシ仕事柄他の能力者と会うことも多いんだけど圭一はどっちかと言うと一般人相手に仕事してるから能力者は珍しいかもね」

 そう言われてみればここ数ヶ月この事務所を訪ねてきたのは主婦やサラリーマン、小学生と居たけど誰も能力を持っているようには見えなかったな。

「俺だって好きでやってるんじゃねぇよ。橋姫みたく好きで神器と関わっていたくねえんだよ」

「悪かったわね。トラブルに突っ込む女で」

「ところで・・・仁義って何ですか?」

 突然私には理解不能な単語が出てきた。仁義で何かするのだろうか?義を貫くってやつ?

「発音が違う。神器だ。いいか神器ってのは・・・はぁ、何でこんな事まで俺が」

「なんでってアンタのかわいい部下じゃないか」

「お前には聞いてない、俺の心の中まで踏み入ってくるな」

 全然心の声になってないです、嘉倶さん。そんな両手を十字に組んで間接をあらぬ方向へ曲げようとしてないで早く続きを説明してください。

「んで、どこまでだっけ?そうだ、神器だったな。神器って言うのは第一次世界大戦の頃から一般人の間で本格的に研究されてきた物で簡単に言うと能力者の真似事だな」

 そういいながらホワイトボードの一般人のところに神器と書き込んだ。

「アタシも聞いたくらいだけど前のベトナムやアフガンでの戦闘は神器のお陰であれだけの犠牲者で済んだ、と言う声も聞かれてるみたいだし」

「ま、相手を能力者だと決め付けて神器を使うのが正しいのか分らんがな」

 話を聞く限り相当凄いらしい、神器。

「とすると私も嘉倶さんみたいなすごい能力を使う事が出来るんですか?」

 私の能力は少々特殊で嘉倶さんのように派手な能力では無いので、少し憧れる。

「俺?・・・あるかも知れないけど神器は普通能力者は使わないぞ。あれは一般人専用みたいなもんだからな」

 ちぇ、使えないのか。残念。

「もともとあれは一般人が能力者と戦うために研究されてきたものだからな。俺達が神器を使うなんて以ての外、タブーだよ」

 神器の項目から能力者に向けて矢印を引いてその上からバツマークを書き込む嘉倶さん。

「それに神器を使うには特別なことをしなきゃいけないみたいだしね」

「なにか特別な仕掛けでもしてるんですか?」

「仕掛けがどんなものかは知らないが、分類上は兵器にあたるからな。無闇やたらに使われても迷惑だと言う事だろう」

 嘉倶さんはやれやれだと言う風な感じで肩をすくめながら答える。

「そこでその神器の話が今回の依頼に繋がるんだけど」

 仕切りなおして八束さんが話を進める。

「巣守天一さんでしたっけ?その人がその神器とはどういう繋がりがあるんですか?」

「巣守天一は昔から神器の研究をしていてその筋じゃ有名なんだよ」

 ここからはアタシが、と八束さんも立ち上がり嘉倶さんからペンを奪い取りボードに巣守天一と書き込んだ。

「年齢は見ても分るとおりじじいだ。若い頃に神器についての論文で高く評価されていて自分の研究室も持っている」

「そいつの研究のお陰で神器もかなりの種類が出てきて能力者と一般人の差は昔ほど無くなって来ている」

 八束さんが巣守と書いたところに嘉倶さんが別のペンを持ってきて神器と書き込みその二つを線で結ぶ。

「そう、アタシ達能力者としてもあまり力の差があいていない状態は望ましくない」

「・・・そういうもんなんですか?」

 ここら辺は私は能力者になったばかりなので疎い。というか今まで一般人サイドからしか物事を見てないし。多角的に物事を見ろ、と言われても能力者側って何?状態なんだけど。

「私達は所謂隣の芝生って奴なのよ。でも羨ましがってる一般人の芝生も青かったら何の意味も無いの」

「俺達の数は少ないからな。数だけではどうしようもない。特別、である事に意味があるんだ」

 二人の説明に私はそんなものなのかな?と納得したようなしてないような。

「幸い神器も数は多くないからこちら側に脅威があるわけじゃ無かったんだけど」

 八束さんはそういいながらホワイトボードに1つの単語を書き込む。

「えっと・・・記憶の書、ですか?」

「これが今回のターゲット。アンタ達にはこいつに関しての調査とこれの破壊を頼みたい」

 大きく神器の下に記憶の書と八束さんは書き込みその上からバツ印を入れる。

「どんな物かはまだ詳しくは分らないけどこの巣守が完成させてことは調べている。それと仕入れた情報によるととんでもない物らしいことは分ってる」

「俺は遠慮しときたいな。神器にその研究者の巣守と来たもんだ。その仕事をするなら俺はどっかの最強生物と戦うほうがまだましだね」

「ええ~嘉倶さんこの仕事請けないんですか?」

 嘉倶さんは今までめんどくさいと言いながらも結局仕事を請けてきたので今回も受けるかと思ったんだけど。

「そうだよ。アンタらしくも無い」

「何と言われようとも俺は受けんぞ。他のところにでも頼むんだな」

 嘉倶さんは腕を組んで首を横に振り続けている。何処かにこんなお土産があったような?

「料金は言い値でいいから」

「言い値でもいやだね。いくらあっても足りない」

 ああ、赤べこか。思い出した。そう思うともはや嘉倶さんが赤べこにしか見えなくなってしまう。

 それにしても今回の嘉倶さんはかなりしぶとい。たぶん全属性半減と異常状態無効のスキルが付いてるはず。

 でも今回は私にとって初めての能力者関連の依頼かもしれない。これを見逃すことは嘉倶さんには悪いかもしれないけど嫌だ。手に入れた力をろくに使えていない今少し不満に思っていたし、書類整理も町を駆け回って探し物するのも少し飽きてきた。

 私だって能力者なのだ。少しは能力を役に立てたい。

「私が・・・私がその依頼を引き受けます」

 その言葉を言った瞬間その場の空気が凍りついたことを痛感した。あれ?これって言っちゃいけない事だったの?

「天辻・・・何言ってるか分ってるのか?」

「そうよ。アンタとんでもない事を・・・」

 うっ、これは怒られるパターンか?!もしかして拳骨?鉄拳制裁?!最悪クビ?

「お前は馬鹿か?!」

「アンタ天才よ!」

 二人の言った事はバラバラの別々だった。

「ああ!?橋姫も何訳わかんないことを」

「アンタでだめなら美佳がいるじゃない!美佳だって立派な能力者なんだし、アンタよりも優秀かもね」

 あ、八束さんの目が悪い目をしている。禍々しいオーラが事務所を包んでるよ。普段でも、笑っていても怖い目力が何時もの4割り増しで凶暴になってますよ。

「ぐっ、なにを・・・天辻はまだまだひよっこだ。能力に関しては特に」

「あら、そうかもしれないけどアタシは美佳にはアンタにはない才能があると思うんだけど?」

 私はまだ笑って聞いてるけど、実際に言われたら傷ついちゃうな。才能が無いって。

「・・・・・・俺が」

「何?才能も無ければ吼える気力も無くなったの?」

「俺が!一緒にやってやるよ!ああ、いいさ!やればいいんだろやれば!何でもやってやる!」

 嘉倶さん半分自棄になってないかな?そんな事もないかな?叫びながらちゃっかり甘すぎるココアを手に取ってるし。案外冷静なのかも。

「ただし橋姫、今は調査だけだ。もし戦闘なんて起こったときには別料金を請求するからな」

「分ってるわよ。アタシも調査はしていくし」

 お金の事請求するなんてやっぱり冷静だったみたい。それにしても調査か、ドラマの探偵みたいな事をするのかな?だったら何か便利道具の一つでも必要な気がしてきた。

「はぁ、そういうことだから天辻。今日はこれで終わりだけど、明日から余ってる時間でいいからその記憶の書、若しくは巣守天一についての情報をなんでもいいから集めてくれ」

「・・・はい!」

 たぶんこの返事は私がここに来て一番言い返事だったんじゃないだろうか。

「返事はいいが無理はするなよ。それと無闇に首を突っ込まない事、危険だと思ったらすぐに俺か橋姫に連絡してその場から逃げるんだ」

「はい」

 こうした一連のやり取りがあって私は一般人天辻美佳としてではなく能力者として始めてまともな調査を行うこととなった。



 

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