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とっさに哉惟は銃を取り出し、兵士の肩を狙い撃った。撃たれた衝撃で倒れた兵士の上にジャックは乗り、押さえつけた。手を叩く音が聞こえた。その主は那拓。
「国王が危ないとよく気づいたな」
「兵士の行動を考えたら予測できる。それに以前、ジャックたちに攻撃してきたのは城の兵士。もしかしたらと思っていたが……。やはり、裏切り者は兵士にもいたんだ」
「哉惟、助かった。礼を言う」
「いえ、礼には及びません」
哉惟は流を睨んでいた。追いつめられて危機を感じているはずの流は、こんなことも想定内だという表情をしていた。
「なにがおかしい」
「私がこの程度で捕まると思うな!」
すると、近くから無数の妖気を感じた。哉惟たちは雄霧を四方から守るように立った。那拓は二人のとこへ行かず、哉惟に言った。
「やっぱり、俺は一人の方が楽だ。俺は今日からまた自由になる!」
那拓は四方八方からくる妖怪たち相手に一人戦い始めた。
「那拓め……やはり、私を裏切ったか」
那拓が妖怪たちと戦っている隙に逃げ出そうとした流の行く先を今度はジャックがさえぎった。
「貴様ら妖怪に私がやられると思うな!」
「それはどうだかな」
ジャックは威嚇をして、一歩一歩、距離を縮めた。後ろには哉惟たちがいる。逃げる道はない。
すると、空から一匹の巨大な妖怪が現れた。見た目はカラスのような形と色をしているが、目は額のところにもう一つある三つ目の妖怪。哉惟たちは初めて見る巨大な妖怪に驚いていた。普段から見慣れている莱が巨大と言っても、この妖怪に比べたらまだ小さい。
「ジャック、どう思う?」
「難しいな。ここまででかい妖怪を相手にしたことがない」
「だろうね……」
哉惟はじっと妖怪を見ていた。
「どうする、哉惟」
「これ以上、私に歯向かうのはやめておとなしくしていたらどうだ」
「それはこっちのせりふだ。アーサー」
「なんだ」
「国王を屋敷へ。ここは危ない。屋敷ならモランたちがいる」
「……わかった。国王、俺の背中に……」
雄霧が背中に乗ったのを確認し、アーサーは急いで、屋敷へ向かった。見届けた哉惟の表情が変わった。
「これで心置きなく戦えるね。ジャック、今なら暴れても文句言わないよ」
「最初っからそのつもりだ」
ジャックは目の前にいた巨大な妖怪へ威嚇した。負けじと妖怪もジャックへ威嚇した。その声はあまりにも大きすぎて、近くにいた哉惟は耳を塞いだ。哉惟は背負っていた鎌鼬を出した。先に攻撃をしたのはジャック。
しかし、寸前のところで、妖怪が放った強風とも言える風がジャックを襲った。ジャックは遠くへ飛ばされ、那拓と戦っていた妖怪たちの一部も、どこかへ飛ばされて行った。哉惟は鎌鼬を地面に突き刺し、飛ばされることなく、その場をしのいだ。
「ジャック……」
哉惟はジャックが飛ばされた方を見た。思っていた以上にジャックの妖気が遠くへ行っていないことに気づき、安心していた。妖怪の方を見ると鳴いている。一体なんだと哉惟は思っていると、妖怪の近くにいた流は妖怪の背に乗った。哉惟はすかさず、銃で妖怪を狙ったが、たいした怪我にならず、妖怪はそのまま飛び去ろうとした。
しかし、近くから炎が現れ、流と共に妖怪の体が炎に包まれた。哉惟が知る妖怪の中で、こんな芸当ができる妖怪は一匹しかいない。
「おかえり、ジャック。飛ばされた気分はどう?」
「最悪だ……。間違って焼死体になってしまわないように気をつけたからな」
ジャックの炎で火だるまとなった妖怪は苦しそうな鳴き声を上げ、不安定に飛び、炎を消そうと川がある方へ進みながら、もがいていた。哉惟はジャックの背に乗って、妖怪を追いかけた。妖怪は近くの川の中へ落ちるように入った。
*
しばらくして、妖怪は動かなくなり、川の中から服がボロボロになった流が出て来た。
「いい加減に大人しく捕まったらどうだ」
「そう簡単にいくか!」
流は手に持っていた杖を振り回しはじめた。哉惟は慌てることなく、流の持つ杖を蹴り払った。
「貴様ら親子はなぜ、私の邪魔をする!!」
流は懐刀を出し、哉惟めがけて、刺そうとした。哉惟は寸前のところで避けたが、右の脇腹を切られてしまい、そこから血が、巫女服ににじみ出てきた。哉惟は脇腹が痛むのをがまんし、鎌鼬の持ち手で、流の背中を思いっきり殴った。
そして、流は懐刀から手を離し、その場に倒れた。哉惟は鎌鼬を杖代わりになんとか立っていた。
「哉惟……。哉惟、俺が一緒にいながらごめんな……」
ジャックは急いで、哉惟の足元へ行った。
「これくらい大丈夫……。それより今は流をどうするかが先……」
哉惟は耐えきれず、その場に倒れ込んだ。
*
ジャックはあーくそっ!! といらいらしていた。これからどうしようかと考えていたら、川から水の音が聞こえた。見ると先ほど動かなくなったはずの妖怪が頭を持ち上げ、立ちあがろうとしていた。妖怪の毛は所々、燃えてなくなり、一部、皮膚が焼けただれているところもあった。
ジャックは唸り声をあげ、妖怪に威嚇をした。妖怪はジャックに向かってくるのかと思われたが、妖怪は力つきたようで、その場に頭を落とし、水しぶきが上がった。それから妖怪は動かなくなってしまった。思わず呆然としてしまったジャックは急いで哉惟だけでも屋敷へ運ぼうと背負おうとした時、誰か来たのに気づいた。
それは那拓と莱だった。
「莱! お前、どうしてここに……」
「城の兵士に聞いた。あの男にも話は聞いた。哉惟……。酷い怪我だ……。早く、屋敷へ戻れ、俺のダチがモランにこのことを伝えているはずだ。ここは俺が片づけておく」
「あぁ……。莱、ありがとう」
那拓の手を借り、ジャックは哉惟を屋敷へ運んだ。屋敷に着いた時、モランは莱のダチという妖怪から話しを聞いたと言っても、哉惟を見た時、驚きを隠せなかった。モランが哉惟の手当てをしている間、屋敷の中はとても静かだった。
ジャック、アーサー、那拓、雄霧が囲炉裏を囲んで、モランが戻ってくるのを待っていた。一番落ち込んでいたのは目の前で哉惟が怪我をするのを見ていたジャックだった。自分が悪いと何度も言っている。雄霧がなだめてもジャックは同じことの繰り返しだった。いらいらしていたアーサーが掴みかかり、ジャックに文句を言った。
「あぁ……そうだよな」
ジャックはそれだけ言って、屋敷を出て行ってしまった。
*
それから哉惟が起きたのは七日後。雄霧は三日前にアーサーが城へ送った。那拓は哉惟の屋敷で世話になることになり、今は哉惟の代わりに妖怪討伐の仕事をしているとモランから聞かされた。唯一困ったことがあった。あれ以来、ジャックが屋敷に戻っていない。過去に一度もこんなことはなかったため、哉惟は心配していた。
「あいつは……アーサーはまだ自分を責めているの?」
「あぁ……」
「そっか……。帰ってこないと屋敷の中が寂しく思えるよ。ん? 莱?」
モランが襖を開けると外に莱が後ろ足だけで立っていた。
「西の集落付近で倒れているのを見つけた」
莱に抱きかかえられているのは紛れもなくジャック。まともな食事をとっていなかったようで、やせ細った姿になっていた。
「ありがとう。バカだなジャックも……。モラン、ジャックはここに寝かせて」
自分の右隣にと言う哉惟にモランは仕方なしにそこへジャックを寝かせた。
「まだ生きているが、もう二、三日遅かったら、命にかかわるところだ」
モランは部屋を出て行った。
「莱、あの後、どうなった」
「あぁ……哉惟に伝えることがいくつかある」
ジャックが哉惟を屋敷へ運んだ後、莱の手によって流は拘束された。拘束された際、流は「すべてあの親子が邪魔をするから悪い!」と何度も言っていた。城の被害は思っていた以上に小さく、城の地下にある罪人たちがいる牢に被害がなかったと。牢へばらばらに入れられた兵士を含めた流は数日後に刑が言い渡されることになった。当初、那拓も刑を言い渡されるはずだったが、今回の件で、雄霧が当分の間、哉惟の代わりに妖怪討伐をするように言い渡され、それを聞いていたモランは不服そうだった。
流の話しを聞いていたときの哉惟の表情は硬かったが、そのあと、モランのことを聞いて笑っていた。
「ほーそれだけ笑うほど元気なら、仕事を再開しても問題なさそうだな……」
今にも怒りそうなモランが立っていた。
「どこが。話し聞いたけど、那拓が私の代わりにやっているようだね。この前、妖怪たちが来た時、一人で相手してたから、那拓には丁度いいんじゃないの?」
「あぁ……那拓も嬉しそうだった」
「でも、しばらくは安心だね。この前の手合わせ、決着がついてないし、那拓の再戦に応じないといけないし、先にこの傷が完治から鍛錬を再開しないと……。休んでた分、鈍っているだろうしね……」
*
それから数日、ジャックは意識を取り戻した。哉惟の怪我はまだ完治しないようで、那拓はいらいらしていた。
更に数日後、流の打ち首が決まり、兵士数名は島流しが決まった。哉惟の怪我は完治し、少しずつ鍛錬を再開していた。ジャックも元気をとり戻し、以前と変わらず、哉惟と鍛錬をしていた。誰もジャックを怒ることなく、アーサーはジャックに謝っていた。
「いや、いいんだよ。俺が悪いんだし」
二匹は無事に和解していた。
「ジャック、アーサー。出かけるよ!」
「どこに行くんだ?」
「親父の墓参り」
すぐにジャックとアーサーは哉惟と一緒に佐伊稀の墓参りへでかけた。モランは黙って見送った。
ジャックが立ち止まり、哉惟に聞いた。
「そういえば、佐伊稀と哉惟が悪いって言ってた理由わかったのか?」
「そのことなら、先日、国王から聞いたよ……。話すのは親父の墓の前で」
哉惟たちは再び歩き出した。
*
佐伊稀の墓は遥維たちが住んでいる集落の中にある。ほかの墓と同じように佐伊稀の墓もある。
「親父、久しぶり。今日は報告があるんだ。十年前と十五年前のこと、話しの詳細はモランと莱に聞いたよ。首謀者は先代国王だった。この前、側近の流が打ち首の刑になったから国王に呼ばれて、話しを聞いてきた。三十年以上前から国を一掃して、新しい妖国を作ろうとしていたみたい」
「それ、本当かよ!」
「間違いない。でも、計画の途中で、親父に邪魔をされた。それが十年前と十五年前の二つ。その後、親父が亡くなった二年後、つまり三年前、先代は亡くなり、現国王が継いだ。でも、裏で、流は国を一掃する計画を続けようとしていた。最近までそんな動きを見せなかった。理由は国王の目があったのと、過去と同じ過ちをしないようと慎重になっていたからだと思う。最終的に二人は私にすべての罪を擦りつけようとしていた。その理由はわからないと言われた。今回の件は那拓が洗いざらい自白したからよかったけど……」
「那拓には感謝だな」
「そうだね。そういえば、那拓はあれからどうしたのか知ってる?」
「知らん。あの後すぐに屋敷を出たからな」
「そっか。さて、屋敷に戻りますか」
屋敷へ戻ろうとしたら、後ろから那拓の気配があった。
「那拓か。久しぶりだね」
「あれから調子はどうだ」
「だいぶよくなったところ。礼を言うよ」
「あれくらいどうってことない」
「どちらかといえば、私の仕事を代わってくれたことに対してだよ」
「そっちのことか。俺は好きでやっていることだから問題はない。あーそうだ、さっきお前の屋敷に行ったら、商人がいたぞ」
哉惟は思い出したようで、ジャックたちと屋敷へ帰った。
*
哉惟が墓参りに行ったのと入れ違いに来た一人の青年がモランに泣きついていた。
「なんで、私が来るとわかっていて、でかけるんですか!」
「あんまりうっとうしいと哉惟に嫌われるぞ」
モランに言われ、哉惟に気づいた青年は哉惟の巫女服を掴み、文句を言っていた。
「わかったから……落ち着いてよ……。いつもどおり、気に入った本あったら買うからね」
「絶対ですよ! 今日も、哉惟さんが好きそうな本を大量に持ってきました!」
哉惟は早速、大量の本の中からほしい本を次々と選んでいった。
モランはまた出費が増えるとげんなりしていた。
終




