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「うん。梁に固定ね、乗れないね……。アーサー、頼むよ」
「俺より手先の器用なジャックがいるだろ」
「あいつなら身軽だね」
ある程度、壁の修理を終わらせたモランが屋根に上がる音が聞こえた。
「アーサー、板を頼む」
モランに言われ、アーサーは板を運ぶため、外へ行った。
*
その後、日が暮れた頃、ジャックが莱と共に帰って来た。帰って来て早々、ジャックはアーサーに呼ばれた。
「悪いが自在鍵を梁につけてほしいんだ。身軽で手先が器用なジャックにしか頼めない」
「あいよ。モラン固定するものある?」
「工房の奥にある。取ってくるから待ってろ」
モランは屋根から降り、工房の中へ入った。すぐに、麻縄を持って出てきた。
「麻縄?」
「とりあえず今はこれしかない。真相が明らかになったら誰かに頼んで、ちゃんと直してもらうしかないだろ」
「わかった。直してくる。アーサー、自在鍵を上げてくれ」
「わかった」
「哉惟。板は足りるか?」
「そろそろなくなる。莱、持ってきてほしい」
莱が新たに木を取りに行く。使えそうな木を二本選んだ。器用に背中に木を乗せ、屋敷へ戻った。ちょうど、板がなくなったのか、哉惟とモランは莱が持ってきた木を伐りはじめた。先に伐り終えた哉惟は何枚かの板を片手に持ち、屋根の修理をしていた。モランが伐り終えた板を持ち屋根に立てかけてあるお手製の梯子を登ろうとした時、近くの雑木林から数匹の妖怪が唸り声をあげながら出て来た。
妖怪に気づいた近所の人たちは自分の屋敷へ逃げて行った。莱は近くに置いてあった板を三枚取り、妖怪に向けて投げようと構えた。莱が板を投げようとした時、地面に三本の矢が刺さっていた。莱が後ろを見ると屋根にいたはずの哉惟がおらず、モランを見ると、あごでそっちだと示した。モランが示した方は妖怪がおり、見ると莱と妖怪の間に哉惟が弓矢を構えて立っていた。
「他の妖怪か誰かにそそのかされて来たみたいだね。なにを言われたか知らないけど、困るよ。屋敷の修理を優先したいのに仕事を優先しなければならない状況にされるのは一番嫌いだね」
哉惟は次々と飛びかかってくる妖怪を弓矢だけで相手をしていた。五分と経たないうち地面には急所に矢が刺さった状態で、妖怪たちが倒れていた。
「哉惟、日が暮れ始めたから片づけを手伝え。それはジャックたちに任せればいい」
「忘れてた。ジャック、アーサー」
「妖怪の片づけだろ……」
「頼んだよ」
外に出てきたジャックは無言で、穴を掘りに雑木林へ向かった。アーサーと莱は近くまで妖怪の死体を運んでいた。
三匹が屋敷に戻ってくると片付けは終わった後で、完全に日が暮れていた。
*
「全部の修理とまではいかなかったね……」
「まだ壁だって全部修理したとは言えない……。ここだけ夜、寒いな……」
かまやの前に立っているモランは悩んでいた。
「布でも当てて壁の代わりにしたらどう?」
「出来るわけないだろ……。明日、朝一で壁の修理から始める!」
「頑張って」
「お前もだ……。まったく……。たまには真面目に仕事以外のことをしたと思ったらいきなり屋根の修理から始める。俺の負担を増やす気か! 先に壁の修理から始めればいいものの何で屋根が先なんだよ!」
「そこまで怒ることないでしょ。でも、やることはやるよ。この屋敷の修理が終わるまでは読書量を減らすしかないか」
二人の話を聞いていた三匹はモランから「哉惟。殺す……」と言う殺気を感じた。哉惟は気にしていないが、ジャックは危険を感じモランをどうしようかとおろおろしていた。
「モラン。ジャックが困るから怒るな。昔は何度か佐伊稀が壊していたそうじゃないか。それに比べて今回はまだいいだろ。あの時は土台から作り直していたと聞いた」
「あの時は大工に手伝ってもらったから俺たちの苦労は材料を集めるだけだった。確か佐伊稀のおかげで土台から作り直したな……。俺たち含めて六人でやっていたし」
「もとは真面目な男だったからな。モランが来てから羽目を外すことが多かった気がする」
「そうかもしれない。だが、どうしようもない事実だ」
「……親父がそんな人だと思わなかった……」
「佐伊稀はそういう男だった」
そうなのかと哉惟は自身の曖昧な記憶を思い出そうと考えていたが、結局、あきらめた。哉惟の覚えている佐伊稀は変わった性格だが、いつも優しく、どんなに忙しくても話しを聞いてくれた。妖怪の血で体が汚れたときは着物と体を綺麗にしてから哉惟に接していた。
それが哉惟の覚えている佐伊稀の記憶。
「親父は私のことをいつも考えていてくれたと言う記憶しかない。私の知っている親父はそういう男だ」
「そういう時もあったな。どんな関係であろうともあいつはお前を一人の娘として大切にしてきたんだ。いくら他人だと言っても家族は家族だと俺にそれを教えてくれたのはその頃の佐伊稀だ」
「佐伊稀って……気づかないうちに俺たちを少しずつ変えていくな。ホントつくづく変わった奴だ」
「それが佐伊稀のよさだろ。佐伊稀がいたときはそれなりに楽しかったな」
「アーサーの言う通りだな。妙に楽しかった。そんな時でも仕事はしっかりやっていた。哉惟にとっては知りたくない所もあっただろうが、すべてが事実に変わりはない」
「意外と夜、モランの寝床に化けてでるんじゃない?」
「あいつが化けてでてきたとしても俺は気にしない」
モランの言葉を聞いて、莱は笑った。
「なんだ。莱」
「いや。モランらしい答えだと思ってな。モランなら佐伊稀が化けて出てきたとしても反撃しそうだなと思っただけだ」
「あーモランならありえるな。俺には無理だけど」
「ジャックは逃げるが十八番だからね」
「た……確かにそうだけど……酷いよ。哉惟……」
「今日はもう寝よう。明日も朝早くから屋敷の修理。莱、また情報収集を頼む」
「もちろん」
哉惟は自室へ戻った。
*
襲撃から七日後の朝を迎えた。あれから、屋敷の修理は残りわずかとなり、アーサーはジャックたちの手伝いをするということになった。
なぜ、そうなったかと言うと莱とジャックが、国中の集落へ向かい、妖怪をはじめ、人にも話を聞き、情報収集していたが、たいした情報はなかった。ジャックはかなり、いらいらしていたが、莱はいつものことらしく、特に慌てることもなく、アーサーも連れて、三手に別れ、情報収集をしたほうがいいのではと二匹に言っていた。
朝、最初に起きたのは外にいた莱。修理が終わっていない壁の間から屋敷の中を覗いた。まだ誰も起きていないようで、ジャックとアーサーは茶の間の隅にある寝床でまだ眠っていた。莱が驚いたのはジャックの寝相が悪い。仰向けの大の字で、鼻ちょうちんが出ている。隣で寝ているアーサーは迷惑そうに寝ている。
莱が起きてから数分後、痺れを切らしたアーサーがジャックを蹴り、その衝撃で、ジャックも起きた。
「いてーよ。アーサー」
「いい加減、寝相なんとかしろよ……俺が困る。とにかく俺が寝にくい」
「お前ら、朝からそんな状態か」
「莱か。ほぼ毎日だ」
「聞いてくれよー莱。こいつしょっちゅう俺を蹴飛ばすんだぞ! 痛いのにこんな状態じゃ、俺の体がそのうち持たなくなっちまう!」
「お前の寝相が悪いな」
二匹がけんかをしているとモランが入ってきた。
「お前ら、昨日の朝も同じことでけんかしていたろ……。いい加減やめろ。あとで哉惟が起きてきたらまた怪我するのはお前らだぞ」
「わかってる。だが、こいつが一番の原因だ。寝相が悪いから隣で寝る俺に迷惑なんだ」
「わかっているなら早く朝餉(あさげ)にしようよ。とにかく味噌汁飲みたい」
アーサーが文句を言っていると後ろから哉惟が入ってきた。二匹が朝からけんかをしているのはいつものことらしく、あまり気にしていないようだった。
「茶はいらないのか?」
「うん。味噌汁が飲みたい気分。モランの味噌汁の味は私好みの一番好きな味だからね」
「そうか……。朝餉の準備をするからちょっと待っていろ」
モランはかまやの前に行き、朝餉の準備をした。その間に哉惟は外に出ようと寝ぼけた頭を必死に働かせながら、歩いていた。ふらふら歩いているせいか、みな冷や冷やと哉惟が外へ出て行くのを見ていた。
「哉惟。まだ眠いのか」
「うーん……眠い」
「だったらもう少し休んでいたらどうだ」
「さすがにそれは無理。顔を洗ってくる」
「ジャック、哉惟の頭が覚めるまで側にいろ」
「しょうがないな……」
*
ジャックは外に出て、体の周囲に炎が立ち上がり、炎が消えたらジャックの体は大きくなった。哉惟はジャックの背に座った。
「珍しいな。哉惟がこんなに眠たそうにしているのは」
「夕べ遅くまで起きていたから」
「また……本でも読んでいたのか?」
「違う。この妖国の妖怪たちのこと、親父のこと、屋敷のこと。それぞれ、今後はどうしようかなって思ってたの」
「そうか。確かにお前に佐伊稀のことは話していないことが多かったな。屋敷は修理すれば、何とかなる。妖怪は性格を根本的に叩き直さないとどうにもならないな」
「そうなんだよね。毎日毎日、あいつら私を疲労で殺したいのかと思ってしまうよ。だから眠たくて困るんだよね。本音を言えば、モランが昔みたいに妖怪討伐をやってくれると一番ありがたいよ」
「……あきらめろ。ほれ、井戸に着いたぞ」
哉惟はのっそりジャックの背から降り、蓋を開け、紐のついた桶を井戸の中に入れた。井戸の中から桶が水に落ちた音が聞こえ、紐をゆっくり引き上げた。
しかし、哉惟は途中で引き上げる手を止め、後ろにいるジャックの方を向き、一言、眠いと言った。ジャックは呆れて、桶を引き上げた。
「ほれ、哉惟」
桶を差し出され、哉惟は顔を洗い始めた。
「あー目が覚めた!」
「それならいいけど。そろそろ屋敷に戻るぞ」
「朝餉できたかなー。特に味噌汁。早く飲みたいよ」
「どんだけ味噌汁飲みたいんだ」
ジャックは小さい姿に戻り、哉惟の左肩に飛び乗った。すかさず哉惟はジャックを肩から払い落とした。
「痛い! なにするんだよ」
「乗るな。目が覚めて気分よくなったとしてもそう簡単に乗せない」
哉惟たちが屋敷に入るとちょうど、朝餉の支度が整って、今すぐにでも食べられる状態で、モランとアーサーが待っていた。
「あー味噌汁」
「本当にお茶はいらないんだな……」
戻ってきたのに気づいたモランは哉惟の湯のみにお茶を入れたが、かまやの上に置いてある鍋に入っていた味噌汁を飲んでいた。
「今日はここの修理か」
「お前のせいでな。仕事が勝手に増えたんだよ」
哉惟はさっさと食事をはじめた。哉惟にいじられたジャックは落ち込み、折角の朝餉を食べ損ねた。空腹のジャックは莱たちと一緒にアーサーの亡き父の墓参りへ行くことにした。莱は少し遅れて向かうと二匹と途中で別れた。
しばらくして、山のふもとにある墓についた。
「ここに来るのは久しぶりだ」
「そうだな。俺たち、哉惟と一緒に仕事するようになってから来る回数が減ったもんな」
二匹が感傷に浸っていると莱の妖気を感じた。
*
その頃、哉惟とモランはひたすら修理を続けていた。
「なんか疲れた」
「やれよ」
しかし、三十分後、哉惟はだらけていた。
「哉惟。やれ」
モランが気づいたとき、隣にいたはずの哉惟はいつの間にか、木を切っていた。
「板、ないのか?」
「あと少ししかなかったらから切っただけ。多分これで足りると思うけど」
哉惟はかつぎ上げた木をモランの近くに置いた。
「ジャックたち、何か情報、つかめているかなー?」
「微妙だな。掴めそうで掴めない。掴めたとしても、いずれ奴らがけしかけてくる。掴めなかったら何もないだろうけどな」
「莱がどこかで、情報操作してくれると助かるなー。状況整理ができるまで向こうから何もしてほしくないし」
「それは俺も同感だな。奴らが城の連中と繋がっているという確証がない限り何ともいえん。どうする、哉惟」
「どうもしないよ。それは向こうの出方次第なんだから。そうと決まれば、さっさと修理終わらせて、新しいお札でも作りますか。私のお札を待っている人だっているんだしね」
「確かにそうだな。これだけあれば、壁の修理は終わる」
「でも、一つ思ったんだけど」
「なんだ?」
哉惟は周囲の目を気にしながら、モランの耳元で話した。
「屋敷の修理が完全に終わったとしても、そのうちまた奴らがここへ襲撃に来る可能性は捨てきれない。数日だけでもいいから欺きたい」
「だが、そう長くは持たないだろうな」
「わかっているよ。とにかく私は仕事ができる状態までにしたいんだ」
「それならなんとかなるだろう。お前はいつもどおり仕事をすればいいんだ。お前がやるべきことだと思うことだけやれよ」
「ありがとう、モラン。あとさ」
修理の手を止め、哉惟の方をみたモランはなんだと聞いた。
「体、鈍りそう。手合わせして」
「……わかった。先に行って待っていろ。すぐに行く」
モランは工房に行き、自分の刀を取りに行き、哉惟が行った先へ向かった。哉惟が待っていたのは集落の広場のようなところ。哉惟は鎌鼬を背負い、左腰帯に灯龍を差し、腰帯の近くにあるホルスターには銃と右のホルスターには雷神が入っている。
それに対して、モランは妖刀・村正ただひとつ。先日の襲撃以来、モランは村正を使う。
モランは鞘から刀を出して構えようとしたが、刃先を見て、思わず声をあげた。
「すまん……。刃こぼれしているところが一ヶ所あった」
「え……。この前の襲撃後、整備したんじゃないの」
「お前が屋敷の修理をするというから整備するのを忘れていたんだ。あーこれなら先にやるんだったな。この状態でやったら、村正が悪くなってしまうな」
「じゃーたまには素手でやろうよ。いつも武器使っているからさ」
「それもそうだな。条件は武器を持ったままで」
哉惟は体を動かして、いつでも手合わせができる準備ができていた。モランは腰帯に村正を差した。
「哉惟。すまん。さっさとはじめるか。あいつらが帰ってきたらうるさくなるだろうから」
「それもそうだね。素手で手合わせするのって久しぶりだな」
「そういえばそうだったな。もう五年か六年くらいはやっていないな。丁度、お前が仕事になれて波に乗ってきたってところだったから」
どちらかも攻めることなく、時間が過ぎる。先に攻めてきたのはモランだった。二十年程、哉惟と一緒に暮らしているので、哉惟の弱点は知っている。モランはその弱点を狙って攻めようとしていた。
しかし、哉惟は寸前のところで避けた。哉惟は近くにある木の太い枝の上に立っていた。
「そうこなくちゃ。面白みがないな」
「なんか……莱から聞いた話しにあったような。昔、毎日、妖怪たちから手合わせを申し込まれていたって」
「それは事実だ。俺と佐伊稀は毎日、妖怪たちから手合わせを申し込まれていた。ここ二十年ぐらいはないな。あいつが死んだということもあるが、お前を見たさに屋敷によく来る奴らがいてな。それが嫌で、佐伊稀が言ったんだよ。『俺たちと手合わせしたいんだったらここに来るな。ジャックに伝言を頼め。そうじゃなかったら俺たちはお前らと手合わせはしない』って、おかげで頼んでまで来るやつはいなかった」
「大変だね」
「仕事には集中できたからいいけどな。それより、早く降りて来い。決着がつかないだろ」
「わかってるよ」
哉惟は木から飛び降り、モランと間合いをとって、着地した。哉惟は一気にモランとの間合いを詰め、モランの懐をめがけ、下から蹴りを入れた。モランは瞬時の判断で、両腕で防御をし、哉惟と間合いをとった。
「少し衰えているね」
「黙れ」
今度はモランが反撃を開始した。武器を多く所持している分、哉惟の動きは鈍いかのように見えたが、モランの方が、多少、動きは劣っている。ギリギリのところでモランの攻撃をかわしている哉惟は余裕の表情をしている。モランの攻撃が遅いのか完全に読みきって避けている。モランは負けじと次々と哉惟に攻撃をする。
十分後、モランはまだ、哉惟に攻撃をしていた。哉惟は連続攻撃をしてきて、疲れてないのかと思っていた。哉惟はモランの一瞬の隙を突いて、蹴り技で反撃をした。モランは少し疲れているようた。
「あれ、もしかして、連続攻撃で疲れた?」
「そんなんじゃない。少し焦っていたのは事実だな」
そこは認めるんだねという表情をした哉惟はすぐに反撃を開始した。
二人がおこなっている手合わせはモランが必死に攻撃を繰り返しているため、哉惟に疲労がみられない。モランは完全に息が上がっている。体に鞭を打ち、攻撃をしようとしたが、一瞬の隙を哉惟が見逃さず、モランの左脇腹めがけて、蹴りをいれた。いきなりの衝撃に驚いたモランは体勢を立て直そうとしたが、倒れてしまった。モランが立ちあがろうとしたら、目の前に哉惟の足があった。
「やっぱりだめか。しばらく、やっていないと衰えているな」
「衰えているよ。でも、モランはままだまだ仕事に出ても問題ないでしょ」
「どうだか。ほかの連中次第だ。俺は難しいと思っている」
最後に一言、お前に仕事を任せているからなと言った。
「でも、最終的にはモラン次第だからね。私はまたモランが仕事に出てくれるなら、私の仕事の負担が減る」
「本音はそっちだろうが」
「あ、ばれた?」
「ばれる」
笑う哉惟をよそにモランはさっさと屋敷に戻った。哉惟が鎌鼬を投げてきたことに気づき、モランは素手で受け止めた。
「おい、何で鎌鼬を投げるんだ」
「だって、モラン、勝手に帰るから」
「ガキか! お前は」
「ガキ違う。一言言ってくれてもいいじゃない」
「そうやって言うから俺は先に帰るんだ。ほれ」
哉惟はモランに文句を言う。モランは持っていた鎌鼬を哉惟に投げ返した。投げ返された哉惟は黙って受け取り、なにもなかったかのように屋敷へ戻った。
すでに昼過ぎで、モランはいつも通り、昼餉(ひるげ)の準備をしようとかまやの前に立った。
「昼は面倒だから朝と同じでいい。モラン特製の猫まんまでいいよ」
囲炉裏の前に座る哉惟の左隣に座ったモランは哉惟の分の猫まんまを出した。哉惟は無言で食べ始め、開口一番に言ったのは「味噌汁の味が美味しい」だった。モランは小さくため息をついた。
普段ならあまり食べない哉惟はこの日、珍しくおかわりをしていた。さっきまで手合わせをしていたということも理由にある。食後、哉惟の行動はいつもと変わらず、読書をしていた。
モランは先に一人で屋敷の修理をしていた。いらいらしているせいか、モランが金槌で釘を打つたびに屋敷が少し揺れる。
「モラン。屋敷が揺れてる」
「俺としてはお前がここの修理を手伝うのが妥当だと思うんだがな」
「気のせい」
「……お前な……やれよ」
「えー。わかった……」
哉惟は読んでいた本を片付け、外に出て、修理を手伝った。
「でも、これってモラン一人でもできそうな気がする。ほとんど終わったし」
哉惟の言うとおり、屋敷の修理はほとんど終わっている。
「哉惟……。修理やれ」
えーという表情をした哉惟をよそにモランは自分のかたわらに置いていた修理道具のすべてを哉惟に渡した。
「俺はお前と違って休憩なしでやってるんだ。少し休憩する」
「わかったよ。修理は私がやっておく。でも全部、修理を終わらせる予定はないからね。さっきも言ったとおり、情報を集めたいんだから」
哉惟は完全にあきらめた。




