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「気にしなくていいよ。最初、私が妖怪討伐の仕事をはじめたきっかけは本当の家族を捜したかったからなんだ」

 ジャック兄弟が哉惟を拾ったあの日、捨てられたのか、置き去りにされてしまったのか、いまだにその答えは見つからない。モランたちの話しでは妖国の現状を考えると家族はすでに亡くなっている可能性が高いと聞かされている。たとえ、亡くなっているとしても生死が分かるまで希望を持ち続けていてもおかしくないと考えて、今でも実の家族が生きているかも知れないと哉惟は思っている。

「そうとは知らずに余計なことを言ってしまったな」

「仕方がないよ。私は今の生活が一番幸せだと思っている。だから家族が見つかったら、私が幸せに生きていることを見てもらいたい。私が自ら進んで、やっているんだ。後悔はしていない」

 哉惟の迷いのない目を見て、莱は安心したようだった。

「あいつらのどちらかが強制的にやったなら止められたかもしれないが、哉惟自身の決断なら止められないな。だから俺も手伝う。お前の家族を捜すなら情報が必要だ」

「頼むよ。親父のことも私のこともいろいろ手伝ってくれてありがとう」

「あいつらは俺のダチだ。ダチが困っているなら助けるのが道理だろ?」

「確かに。楽しみにしているよ。情報屋の莱さん」

「そう呼ぶな……。今日はもう帰る」

 莱は半場呆れて、屋敷を後にした。哉惟は少し夜風に当たり、屋敷の中へ入って行った。

「莱はもう帰ったのか? あいつからもらった肉、凄い美味しかったからお礼言いたかったのにな」

「また来るでしょ。そのうち気が向いたら」

「哉惟、なにか食べるか?」

 かまどの前に立っていたモランは鍋のふたを開けようとしていた。

「簡単に頼む。依頼人の屋敷で夕餉を頂いた……。断るに断れなかったから」

「そうか。仕方がない。あきらめろよ」

 そう言って、モランはおにぎりを作っていた。

「哉惟」

 哉惟の目の前にはモランが作ってくれたおにぎりが乗った皿が置いてあった。

「後二つね」

 モランは何も言わず、黙って、作っていた。哉惟はかたわらにおいてある本を手に取り読みながら、おにぎりを食べていた。

「哉惟。食べるか読む。どちらかにしろ」

「やだ」

 モランは呆れて、自分の分の夕餉を作って食べていた。

「で、どうだったんだ。仕事は」

「雑魚らしき妖怪が二匹暴れて荒らしていた。国王には明日の朝、報告へ行くよ。これからは忙しくなるだろうから。莱も情報提供に協力してくれるって話し」

「あいつは元からそういう妖怪だ。お前に言うの忘れていた。莱が言っていたが、最近、城内によくない噂を持つ人間がいるらしい。念のため気をつけろよ。なにかけしかけてくるかもしれない」

「なにかしてきたら返り討ちにする。覚悟もなくけしかけるやつなんていないだろうけど。ま、用心に越したことはないね」

「あぁ……朝早いなら早めに寝ておけ、ジャックなんてほら」

 モランの言うあごで示した先にいる二匹の妖怪。ジャックはすでに寝ていた。隣にいるアーサーは迷惑そうな表情で、ジャックを見ていた。

「ジャックのあんな姿見ていると平和なんだと思っちゃうよ? あんなに無防備な妖怪、見たことない」

「昔以上に妖怪が暴れまわる姿が減ったのも理由かもしれないな」

「そうか。あ、朝早いからアーサー、頼んでいい?」

「俺は構わない」

「城の兵士に稽古を頼まれていたけど当分無理そうだね。私にとって今一番大切なのは生前の親父について聞くことだから」

「なぁ、哉惟」

 先ほどまで寝ていたはずのジャックが起きていた。

「十年前の集落の人間のはらわたが喰われていたことを覚えているか?」

「忘れないよ。あれは私にとって一番つらいことなんだから」

「無理もないだろう。目の前で、佐伊稀が息を引き取った。それにあの日は哉惟の初仕事の日でもあったから、あいつも責任を感じていたんだろ。だからと言って、お前は自分を責めるなよ」

「うん……。そういえば、あの時って、生存者いなかったんだよね……」

「ん? あぁ……。そうだ。妖怪たちが暴れていたから、思っていた以上に混乱が起きてな……どうしようもなかったんだ」

 モランは哉惟の頭を優しく撫でた。

「でも、誰だろうね……首謀者はわかってないんでしょ?」

「可能性としては城だろうな……。実際、事実かどうかわからないし、そうだと言って探り入れるのも危険だろ?」

「当たり前だ。なにかあってからじゃ遅い」

 モランに言われて、ジャックの少しいら立ちとつらさが混じった声が聞こえた。城の兵士に事情を説明して、探りを入れようと哉惟も考えたが、先代が亡くなって五年経つ今、城の内部に裏切り者がいないか、密偵がいないか、たとえどんなに小さなことでも、すべての兵士が互いを疑う。兵士だけに限ったことだけではなく、国王も含め、城にいる人間はすべて敵ではないかと疑うことにしている。兵士の中には仲間が裏切り者、密偵かもしれないと疑いを持ちたくない者も少なからずいる。この何年か「仲間を疑いたくない」と何人かの兵士は側近へ相談がしたいと接触をしている者がいる。

 しかし、その兵士の一部は側近と接触した後、行方不明になっている。哉惟は稽古を催促する門番の兵士から事情を聞いて、知っていた。だから、どうやって情報を得ようかと悩んでいた。

「国王に直に話を聞きにいくのは?」

「多分、そんなことしたらすぐに追い返されるだろうと思うよ。特にあの側近がいるとき限定だけど。それより外が気になるけど気のせいじゃないよね」

「俺も今同じことを考えてた」

 モランは戸口の脇に置いてある籠の中から拳ほどの大きさの石を一つ取り、扉を小さく開けた。扉の隙間から腕を出し、石を投げた。近くの草むらに当たった音が聞こえた直後、草むらから何か出てきて、逃げる足音が聞こえた。

 その音が聞こえるか聞こえないかという瞬間、ジャックとアーサーは草むらから逃げた主の後を追いかけた。

「やっぱり誰かに監視されてたみたいだね。城へ報告に行った後から確証のない違和感がずっとあったけど、もしかしたら確証に近づきそうだね」

「そうだな。逃げたやつが城の手先ならさっきの話し聞かれていたらまずいぞ。場合によってはあの側近が動き出す」

「でも国王に追い返される前に側近が文句言って追い返されるが正しいよね。あの方は先代の生前から王族に仕えているからなにか知っているかもしれない。でもわからないね。どこからどこまでが関係あるか……。とりあえず今はあいつらが帰ってくるのを待つくらいか。今、取り逃がしたって問題ない。少し休みたいから戻ってきたら教えて」

 哉惟は自室に戻った。

 三十分後、寝間着用の着物に着替えた哉惟は荒れた妖気を感じ、茶の間の襖を開けた。襖の前にはモランが立っていた。

「…………」

「なに。あいつら帰ってきたんでしょ。外で暴れてるし」

「……あいつら……」

 怒りをあらわにしたモランは勢いよく戸を開けて二匹を睨んだ。

「外で暴れるな! 近所迷惑だ!」

「モランが一番うるさい。別に捕らえられなくても私は文句ないよ。で、どこで撒かれた?」

「城の近くだ。最初から想定されたかのように城付近の雑木林で、けしかけられた」

「逃げたやつは城の手先だったんだ。城の連中だって、ジャックたちを知らない者はいないだろ。わかっていてやったってことはなにかあるんだね」

「それでどうするんだ?」

「余計な被害が出る前に奥の書庫に結界を貼ってー……」

「お前……無駄なところに使うなよ」

「結界を急いで貼るから準備して! 明日は報告に行くからそれ以外は何も聞く予定ない。だから城の中へは私一人で行く。聞いても多分、間違えて狙ってしまったと言われるだけでしょ。だったら、そーですかで終わるよ?」

「わかったから早くしろ! お前に言われた通り結界の札はあるだけ持ってきた」

札を受け取り、書庫の外へ行った。モランが持ってきたお札は巫女である哉惟が作ったもの。普段は屋敷の留守を任されているモランが欲しいと訪ねてくる人へ渡すために置いてあるもの。哉惟は時々、本当に効果があるか半信半疑なため、自身で使うこともあり、緊急時の対策として使うこともある。哉惟の場合、使うのは必ず、屋敷全てではなく、書庫だけ。

 哉惟にとって書庫は王室御用達の商人から時々買う異国の文化を知る一つの方法。だから哉惟は書庫を護るためにこれでもかというくらいお札を貼っていた。ジャックとアーサーは屋根を頼まれ、貼っていた。

「あ! おい哉惟。俺の工房も後でいいから貼れよ!」

 ジャックが工房のことを言ったのか、下で手伝っていたモランがいきなり言い出した。哉惟は自分で貼ってとモランに言った。早く休みたいということも理由だったのだろう。声が少しいらいらしていた。

 先に張り終えた哉惟はとっとと、自室へ行った。

  *

 それから一時間ほど経った頃、工房の方へ札を貼り終えた二匹が先に休んでいるとモランが戻ってきた。

「哉惟はもう寝たか? 俺一人に工房の札貼りさせて、自分は手伝わせてなんだよ……。いつの間に俺様な女に成長した?」

「あいつの世話してたのはお前だろ」

「わかってる。仕事に関しては佐伊稀が生きていたら互角に戦える。俺と戦ったときがそうだったんだからそうだろ」

「そのうち、高い金ふんだくる女に成長しなかっただけよかったと思えるぞ」

「あいつはそんなことしないだろ。他人が困ることはしない」

「そうだな」

「もう遅いし、お前らも早く寝ろよ」

そう言って、モランは自室へ戻った。すぐにジャックとアーサーも寝た。

  *

 翌朝、夕べのことは何事もなかったかのように迎えた。哉惟はアーサーだけ連れて、城へ向かった。城に着き、アーサーを待たせようと思っていたが、アーサーは「俺も行く」と言い、哉惟はジャックと違って静かだからという理由で、一緒に入った。

 接見の間に入って五分ほど経ち、雄霧が一人で入ってきた。いつもなら入り口近くに控えている側近の姿がなく哉惟は疑問に思った。

「報告を聞こう」

「あの集落の畑を荒らしていた妖怪は雑魚が二匹でした。依頼者の長老には今後、また妖怪が来る可能性があるので、戸締りを怠らないようにとお願いをしました。いつなにが起こるかわからないので……」

「そうか……。今日はジャックを連れてきていないのか?」

「はい。夕べ、何者かに監視をされていました。そのことでジャックが国王に文句を言っても、私が困るので屋敷で留守を任せています」

「真か。そういえば、昨夜、何者かが城付近にいたとの報告があった。なにせ夜ということもあり、そのものが何者かわからなかったと私は聞いている」

「そうですか……。昨夜、ジャックとアーサーが追いかけた者は城付近へ逃げ消えたと聞いたもので、私は城の中へ逃げたのかと思ってしまいました。違うのであれば国王にあらぬ疑いをかけてしまったと思いまして」

「そんな妖怪がいたら見つけ次第、兵士が捕らえている。それに城内にいるなら私に報告があるだろう」

「そうですね。先代の国王が亡くなって早五年。今日(こんにち)までの間に少しずつ厳しくなった。内部に裏切り者、敵の手先がいた場合、相当の刑に処すると。それは国民と妖怪、平等。不平等だと昔みたいに妖怪と人間の争いが再び起きてしまう。私もそうなってしまうのをさけたいです。今、私がこうしていられるのもこの国が平和だったから」

「哉惟の言うとおりだ。私はこの国を維持できるよう常に考えていなければならない。すべてを未然に防ぐことはできないが少しずつであれば食い止めることはできる。そのためには哉惟の協力も必要だが、国民の協力が必要なときもある」

 今まで黙っていたアーサーが話しに入ってきた。

「俺はジャックと違って匂いで相手の居場所を探ることはできない。だが、夕べの妖気の主。間違いなくこの城のどこかにいる。側近がいないから俺は言うが、国王の知らないところで誰かが悪い方向へ動いている」

「……それならば、私なりにも少し調べてみよう」

「ありがとうございます。必ずや首謀者を見つけます。妖国の国民が平和に暮らせるように……」

「頼んだぞ。今日はもう下がってよい」

 雄霧が退出した後、哉惟とアーサーも退出し、城の外へ出た。

「アーサー。さっきの話しは本当?」

「あぁ……わずかながらに感じ取れたから間違えない。だが、さすがに今すぐ追えと言われると無理だな」

「ジャックじゃあるまいし。むしろ置いて行くに決まってるでしょ。これからモランと莱に話すこともあるし。帰るよ」

「あいよ」

 巨大化したアーサーの背に乗り、屋敷へ戻った。

  *

 屋敷近くを通ったとき、火柱が見えた。

「あれは……俺たちのいる集落。哉惟!」

「複数の妖気……それだけじゃない気がする。私が屋敷にいないときを狙ったのか……」

 アーサーは何も言わず、屋敷へ急いだ。屋敷近くの上空から様子を見ると十数人の刺客らしき者と数匹の妖怪がモラン、ジャックと対峙していた。

「私がいない間に……」

 哉惟は怒りをあらわにして、アーサーの背から飛び降りた。あまり高さを気にしていない哉惟は地上に着地するまでの間、背負っている鎌鼬を出し、すぐに戦えるように構えた。敵地の真ん中に降り立つ哉惟。殺気をむき出しにしている哉惟の姿は敵味方関係なく怯えさせた。十分と経たないうちに哉惟は刺客らしき者と妖怪の全てに軽症程度の怪我を負わせた。彼らは気絶したようで、倒れて動かなくなった。ジャックは尻尾を丸め、哉惟に怯えていた。

「一体、なにがあった」

「俺は工房で農機具の修理をしていた。いきなり、そこに寝転がっている奴の一人が工房の中へ入ってきていきなり、刀を交える羽目になった。俺を足止めするためだろう。そいつを気絶させた後、屋敷はすでに一部、崩されていた」

「俺はずっと屋敷の中で休んでいたが、いきなり、複数の妖気に気づいて外に出た。そしたら、そこのでかい妖怪が屋敷を壊そうとしていた。俺は止めようとしたけど、相手の数が多すぎて、全てを抑えることはできなかった。俺が気づいた時、屋敷は半壊していた」

 哉惟はモランとジャックを攻めることなく刺客らしき者と妖怪を非難した。

「生きて帰れたとしても私の屋敷を半壊にした恩を十倍で返してやる」

「そういや、城のどこかに昨日、俺たちが追った妖怪が隠れてる。場所はわからない。だが、必ず、奴らを捕らえなければならない。城の内部に裏切り者がいるのは確実だ」

「こいつらに指示をした者が、本当によくない噂がある城の人間だったらいいけど……。明日からしばらく、仕事は休んで屋敷の修理をするよ。どっかに木、あったっけ?」

「俺、探してくる」

 ジャックが木を探しに行く。モランが斧を片手について行った。入れ違いに莱が慌ててやってきた。屋敷を見てだいたいの事情を理解したようだ。

「凄い妖気を感じて来たが、屋敷が半壊じゃないか!? ……とうとう来たか……」

「おかげで修理は屋敷だけだよ。書庫と工房は無事」

「何をしたんだ?」

「哉惟手製のお札。結構ご利益あるって話しらしいぞ。厄除けの効果があるって好評だ」

「巫女をやっていると言ってたな。だからか」

「そういうこと」

「ジャックたちは修理のために木を取りに行ったのか? それなら俺も手伝う」

「助かるよ。あまりほかの住民に迷惑かけたくない。怪我させちゃうかもしれないから」

 すぐに屋敷修理に使えそうな木を数本背負ってくくりつけたジャックと片手に抱えたモランが戻ってきた。ジャックの背にくくりつけられた木を哉惟が受け取り、何事もない表情で、持っていた。哉惟は何のためらいもなく鎌鼬で、木を切った。

 しかしできたものは……。

「お前……なにトーテムポールを作っているんだ!! 自分で新しい木、取りに行けよ」

 哉惟は今、作ったトーテムポールをそのままにして、ジャックとモランが行った森へ向かった。

「うまいな」

「感心するな。鎌鼬使いたいだけだ。切れ味の確認だろうけどな」

 すぐに大木を軽々と抱えた哉惟が戻ってきた。

「……どこからそんな大木を見つけた」

「その辺」

 哉惟はすべての木を必要な長さに切り、板にしていた。

「鎌鼬と灯龍の正しくない使い方だな。大工道具に使うとは……」

「使いやすいからね」

「ほれ、道具」

 モランから受け取った大工道具で屋敷を少しずつ直し始めた。

「これ、結構時間かかりそうな感じだよ。半壊だから」

「しばらく仕事はどうするんだ?」

「屋敷が先」

「だったら俺が国王に伝えてこようか? 屋敷の修理やるなら」

「ありがとう、ジャック。余計な行動は起さないでよ」

「もちろん」

 ジャックは一匹で城へ向かい、莱は板を一本ずつ哉惟に渡していた。

 約一時間が経ち、ジャックは馬に乗った城の兵士を連れて帰ってきた。代理で雄霧に接見したジャックの話しによると兵士に状況を確認させたいという事になり連れて来たと言う。

 しかし、連れて来た兵士の開口一番はいつになれば稽古をみてもらえるのかだった。

「……私の屋敷だから自分で修理したい」

「そうですか。それは仕方がありません。哉惟殿がそういうのであればあきらめます。私は国王に報告しますので、失礼します」

 兵士はあきらめたようで、馬に乗り城へ帰った。

「なぁ、ジャック。国王と共に側近はいたか?」

「いなかった。国王から夕べの話しを哉惟から聞いたと言っていた。この国にもしもの事があったら私が全責任を持って、関係者全員に処分を下すとさ」

「そうか。それならいい。哉惟、どうする」

「どうするもなにも、屋敷の修理は私とモランとアーサーでやる。ジャックは莱と情報収集を頼む」

 アーサーは莱が持っていた板を受け取り、莱とジャックは情報収集のため、どこかへ行った。

「哉惟とモランはどこで寝るんだ。俺たちは別にどこでも寝れるからいいが」

「え? 自室は無事なんだから問題ないでしょ? ね、モラン」

「そうだな。哉惟が問題ないと言うんだから問題ないだろ」

「そうか。哉惟は場所を気にしないんだな」

「気にしないね。寝ることが出来るなら」

 かなづちで板に釘を打ちつける力が強い。昼餉の準備をしていたモランが言った。

「哉惟、力が強い。屋敷が壊れたら一人で建て直せよ」

「それは無理だね」

 さすがに屋敷を壊しては本当に休む場所が無くなってしまうと思い、力を弱めた。

「直すのってほとんど屋敷の外観だけ?」

「あぁ、後、囲炉裏上の自在鍵が外れ落ちているぐらいだ。それだけだな」

「あの妖怪たちは余計な仕事を増やしてくれたよ。仕事を放棄する羽目になるこっちの身にもなってほしい」

「あきらめろ。どうしようもない。文句なら妖怪と刺客にしろ。だからと言って、本気で屋敷を壊すほどの力を入れるなよ」

 気をつけるよと哉惟は修理の続きを始めた。モランが昼餉の準備ができたと哉惟を呼んだので、屋敷の修理は一時休憩。モランから投げ渡された手拭いを濡らし、衣類、顔など、全身のいたる所にくっついた木くずを払い落していた。哉惟が屋敷の中から天井を見上げるとまだ一部しか修理は終わっていなかった。他にも、壁の修理と茶の間の隅に置いてあるモランが言っていた自在鍵の修理が残っている。

 囲炉裏の前に座り、哉惟は自在鍵をどうやって直そうか、昼餉を食べながら考えていた。

「自在鍵。直すと言っても難しいな」

「そうだね。上から固定して直す。くらい?」

「知るか……。だったら大工に頼んだ方が早いだろ……」

「頼んだ方が早いのなら初めからしているよ。だけど、今は他に頼めない。次、いつ妖怪が来るかわからない状態で、関係のない人に頼りたくても頼れない事を。だから私は自分たちでできることは自分たちでやる」

「そうだな。俺が忘れていた」

「少し読書をしてから続きをやりますか。モラン、後で手伝ってよ?」

「やるが、なんで、屋根を先に修理するんだ……」

 返事をしないで哉惟は読書をしていた。モランは食器を片づけ、壁の修理をはじめた。

  *

 三十分後、哉惟のお腹が落ち着いた頃。

「モラン、アーサーは?」

「出かけたか……」

「もしかして、自在鍵のこと聞きに行った?」

「あり得るな」

 しばらくして、アーサーが戻ってきた。

「哉惟。梁に固定だ」

「聞いてきたの?」

「修理頼めないだろ」

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