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「いや、誰一人として嘘はついてない。それに今わかっていることはジャックが見つけたものばかり、だから気にはなったんだけどよくわからないんだよね」

「でもいろんな匂いが混ざっていた。さっき言わなかったけど、穴からの匂いは二匹分。それ以外はなかった」

「恐怖に怯えている住人たちの前でそのことを言わなかったのは正解だね。問題はどうするかなんだよ。屋敷へ戻る前に城へ向かう。アーサーは先に屋敷に戻って、モランに武器の状態を聞いておいて」

「おう。わかった。でも、聞くまでもないだろ? あいつの修理と整備の確認は問題ない。それに哉惟が毎日、整備を欠かさずにやっているんだ。整備に問題あったらおかしいだろ」

「念のため。いつも使える状態にはしているけど、手抜きしていたら困るからね。城が見えた。行くよ! ジャック」

「え!? 待てよ。馬鹿ー!!」

 哉惟に突き落とされたジャックは叫び声と共に城の近くにある雑木林の中へ消えた。

「お前な……」

「後はよろしく」

 アーサーの文句は聞かず、哉惟はジャックが落ちたと思われる場所に向かって、飛び降りた。先に地面に着いたジャックは体中が傷だらけになっていた。

「うー……痛い……あーもう傷が増えたらどうするんだよ!」

「え? どうもしない」

「……報告行って早く帰ろうぜ。お前のおかげで疲れた」

 一人と一匹は何事も無かったかのように城へ向かった。顔見知りの門番兵士に用を伝え、接見の間へ通され待っていた。待つこと数分、妖国の王・雄霧(ゆうぎり)が、側近を連れて現れた。ジャックはその場でお座りをした状態。哉惟はその隣に片膝を立てた状態でいた。

「哉惟、ジャック。現状報告を」

「アーサーは空から何も見つからなかったと言っていた。俺は匂いで探したが、体格は俺たちより少しでかい」

「匂いだけで、そこまでわかるのか」

「歩いたときの歩幅は匂いで残るからな」

「後、血の匂い。こちらは人間か妖怪かわからないそうです。それと、どこからか這い出てきたと思われる穴が近くの雑木林に塞いでありました」

「目撃した住人の話は?」

「はい。念のため、個別に聞いたのですが、全員同じことを言っておりました。なので、目撃した住人は誰も嘘をついていません」

「そうか。なにかわかり次第、逐一で連絡を頼む。もう、下がってもよい」

 雄霧が接見の間を出て行き、哉惟とジャックは城を後にした。城の外に行くと一人の兵士が、哉惟に近づいてきた。

「哉惟殿! 哉惟殿にお会いしたいという妖怪が近くの雑木林でお待ちです。話しによるとモラン殿の紹介で来たと……」

「そうか。ありがとう。またなにかわかったら、使いをよこす。多分、私も忙しくなると思う」

「そうですか。しかし、それは仕方がありませんね。時間ができましたら、また我々の稽古をよろしくお願いします」

「時間ができたらね。ジャック、行くよ」

「おう」

 哉惟は城を出て、雑木林へ向かった。ジャックは全く警戒しておらず、むしろ嬉しそうで、足取りは軽い。

「あいつの匂いだ。あいつはいい奴だ。よ! 久しぶり、元気だったか?」

「やっぱり、モランに染み付いていた匂いはお前だったか! 久しぶりだなジャック。俺たちは元気だ。俺は莱。モランが言っていた佐伊稀の娘の哉惟はお前の事か」

「私だよ。モランがそっちに行ったって事はだいたいの話しは聞いているということでいいかな?」

「あぁ……。佐伊稀のことで間違いないか?」

「間違いない。夜には依頼先の屋敷に行かなければならないから、聞きながら屋敷に帰りたいんだけど、いいかな?」

「俺に言ってくれればいつでも話すさ」

「莱が知っている親父の話しをしてよ」

「わかった」

 莱と名乗った巨大トカゲの妖怪は佐伊稀のことを話しはじめた。

「俺と佐伊稀が出会ったのは佐伊稀がモランと出会う数日前だったかな。佐伊稀は当時、今は亡き、先代の雄霧の依頼で、ある妖怪を捜していた。俺たちは森の中であった。最初、俺は佐伊稀が怪しい奴だと思って警戒していたが、話しに聞いていた男だった。仕事もあって、汚れを洗い流していなかったんだろう。少し汚かったが、あいつが持っていた脇差しを抜いたときに佐伊稀だと俺は気づいた。互いに名乗ったら、佐伊稀の捜していた妖怪は俺だと言った。それから、俺たちは城へ向かった。佐伊稀は城の中に入り、俺は外で待っていた。後から佐伊稀に聞いて、知ったんだが、どうやら、俺にその時、佐伊稀が依頼されていた妖怪の居所を聞いてほしいという話しだったんだ。そいつはよく、どこかの集落に現れては作物、家畜を食い荒らして帰る奴でな。それで、佐伊稀に討伐の要請がいったらしいんだ」

「そうだったんだ。そういえば、私の覚えている親父って、仕事から帰ってくるといつも少し汚れているところあったな。一度、部屋で着替えてから私と遊んでくれたから忘れてたよ」

「哉惟と暮らすようになってから、身なりに気をつかうようになったのか」

 そうかそうかと莱は一匹、納得していた。哉惟は足元をつっつかれていることに気づき、足元にいるジャックを見た。

「哉惟、そろそろ帰らないとモランとアーサーが怒るぞ」

「仕事があるんだったな?」

「そう。あんまり待たせるとうるさいからね」

「それなら俺も久しぶりに屋敷へ行きたいな」

そう言ってきた莱と一緒に哉惟はジャックの背に乗り、屋敷へ戻ることになった。ジャックの周囲に炎があがり、大人のライオンを二回り大きくした姿になった。哉惟はジャックの背に乗り、その後を莱が追いかけてきた。

 妖国の移動手段は妖怪がほとんど、人間の足で帰路に着くと何時間もかかってしまう。

 何百年もの間、妖怪と共存している国民は一部の妖怪と仲がいい。逆に一部の妖怪は人間が作った作物を食い荒らす。被害が酷い場合のみ、国王・雄霧を通して哉惟に討伐依頼をする形式になっている。

 十年前まで妖怪討伐は佐伊稀とモランがやっていた。当時、ともに仕事をしていた妖怪はジャックとアーサーの父。現在、仕事は哉惟が一人でやっている。哉惟とともに仕事をしているのはジャックとアーサーの二匹。モランはほとんど屋敷の隣にある工房で農機具の修理か哉惟に頼まれた仕事道具の武器修理をすることが中心の生活をしている。

 すぐに屋敷に着き、工房へ向かうとモランが怒っていた。

「……遅い……」

「そう怒るな、モラン。久しぶりだな、アーサー。奴に似ていて頼もしそうだ」

「それはどーも」

「仕方がないよ。接見の間で待っていたけどすぐに報告できなかったから」

「そうか……。城の人間には気をつけろ。ほとんどが先代国王のときからの人間ばかりだ」

「わかってるよ。武器は?」

「どれも問題はない。すぐに使えるぞ。切れ味確認するか?」

「いや、モランの腕前は申し分ないからね」

「そいつはありがたいな」

「俺も仕事を手伝おうか?」

 工房の外にいた莱が答えた。

「あー今回は屋敷の中で待ち伏せだから莱には無理だと思うけど……」

「そうか。それは仕方がない。困った時はいつでも呼んでくれ話し相手でもなんでもやる」

 莱は棲処(すみか)へ帰った。哉惟は一丁の銃を左腰のホルスターに、妖刀・灯龍(ひりゅう)を左の腰紐に通し片付けた。

 すでに工房の外にいたアーサーの背に乗り、依頼人・長老の屋敷へ向かった。

「オイ、哉惟! 忘れてた!」

 モランの声が聞こえた。気づいたアーサーは投げられた物が取りやすい場所へ移動した。アーサーのおかげで無事に取ることができ、改めて、モランが投げ渡した物をジャックと確認した。

「ん? 雷神(らいしん)?」

「そうでしょ。そういえば、何ヶ月も前に私の力だけじゃ雷神の力が制御できないからってモランに頼んでいたこと、すっかり忘れてた。こいつの威力半端じゃないからね」

「それじゃ近々、雷神のおかげで、仕事が片づくってところか?」

「そうだね。幼い頃から今より威力は弱かったけど、使っていたから私にとって思い入れの強い武器だからね。これからも頼むよ。雷神」

 哉惟は雷神を右腰のモラン特製・耐雷用ホルスターに片付けた。

「それ、雷神のなんだ」

「そうだよ。モランがこのホルスターを作ってくれたおかげで、私に被害はない」

「さすがモラン。というか時々あいつ何者って思うんだよな」

「親父たちが知らないって言うんだから知らないんだろ? 唯一、佐伊稀から聞いたのは他国の人間ってことぐらいだ」

「それは私も昨日聞いたよ。そろそろ日が暮れそうだね。アーサー、少し急いで」

「あぁ……」

 アーサーは急いで集落へ向かった。

「危ない。日が暮れる前になんとか着いたな」

 哉惟は何も言わず、まっすぐ、長老の屋敷へ向かった。

「すみません。哉惟です。誰かいませんか」

 奥の部屋から急ぐ足音が聞こえ、長老が現れた。

「哉惟様。お待ちしておりました。どうぞ、おあがりください。今、お茶の準備をします」

「いえ、そこまでは……」

 哉惟は茶の間の囲炉裏の前に座り、二匹は土間にいた。長老は水の入ったやかんを囲炉裏の上に吊るされている自在鍵(じざいかぎ)にかけてお湯が沸くのを待っていた。

 しばらくの沈黙、先に沈黙を破ったのはやかんから出た音。長老は慌てて、囲炉裏の上からやかんを取り、急須にお湯を入れた。震える手元に気をつけながら、湯飲みにお茶を入れ、哉惟の前に出した。ジャックとアーサーは水入れの皿にお湯を入れてもらい飲もうとした。アーサーの隣でジャックがお湯を冷ましている姿を見て、緊迫した空気はどこへやら……と哉惟は一人思っていた。

「熱すぎましたか?」

「いや……俺が猫舌なだけだ」

「……今夜はここで見張りをさせていただきます。いきなり出て行くこともあるかもしれませんが、その際は必ず戸締りをお願いします。この集落に何匹妖怪が現れるかわかりません」

「哉惟様がこの集落にいてくださるだけでありがたいです」

 おいと哉惟はジャックに呼ばれる。

「思っていたより早くに来たようだ。あの穴から出てきた妖怪だと思う」

「予想していた妖気より大きい」

「だからと言って、お前たちが手こずるような相手じゃなさそうだよ」

 出されたお茶を少し飲み、意識を集中させて、妖気をたどった。辿った先にいる二匹の妖怪は近くの畑に干していた食料を狙っているようだ。居場所がわかり、哉惟たちは即座に三方向に分かれ、妖怪のいる畑へ向かった。こちらの気配は隠しているので、妖怪たちはいまだ、哉惟たちが近づいていることに気づいていない。

 先陣を切ったのはアーサー。空から急降下して、妖怪を畑から離し、自分の方へ気を引かせる。隙を見計らって哉惟とジャックが出てくる。哉惟の片手には灯龍が握られている。

「畑に被害は少なそうでよかった」

「こいつらこの辺りじゃあんまり見かけない妖怪だ」

「食べるものが少なくて流れてきたんだろ」

 哉惟たちに囲まれて、威嚇の体制に入っていた。

「あの牙、モランにお土産で持って帰ったら喜びそうだね」

 仕事なのにも関わらず、哉惟は冷静にモランのお土産は片方の妖怪の鋭くて大きめの牙がいいかな? とつぶやいた。牙のある妖怪は痺れを切らしたようで、哉惟に襲い掛かろうとした。妖怪の行動を予想していたかのように哉惟は寸前のところでかわした。かわされたことに腹を立て、先程より妖怪の動きが荒くなった。

「やれやれ、単純な妖怪だね」

 一瞬の隙をつき、灯龍を地面に突き刺し、再度向かってきた妖怪の牙を掴み、動きを止めた。止められて焦る妖怪の攻撃をかわしながら、突き刺した灯龍を抜いて、心臓めがけ一突きした。完全に死んだのを確認してから、灯龍を抜いた。刀身に付いた血を振り払い、二匹に後はよろしくと一言告げ、今、殺したばかりの妖怪を灯龍で解体しはじめた。

 後ろで見ていた二匹は呆れて見ていた。すぐに残った妖怪の方を向き、睨み合いをしていた。いまだ威嚇してくる妖怪にジャックは威嚇し続けていた。互いに少しずつ間合いを詰めながら、どちらも攻撃をしかけない。ジャックは内心、いら立ちながらも妖怪の隙ができるのを待っていた。

 解体をしている哉惟はというとほとんど解体は終わり、皮、肉、骨と綺麗に別けて、皮と骨は懐から取り出した風呂敷に全てまとめていた。

「まだ?」

 哉惟の問いかけが合図となり、妖怪はジャックに攻撃をしはじめた。ジャックは慣れたように攻撃をかわし、反撃をしていた。

「あまり邪魔するなよ……」

「あっちの妖怪はいらないか」

「モランの土産はいいから俺の話しを聞けよ!」

 戦っているジャックの方を見た。二匹は互角に戦っているように見えた。だが、ジャックの方が有利のようだった。アーサーがふと隣を見ると哉惟が座って、見ていた。

「お前、何で座ってるんだ。まだ仕事は終わってないだろ」

「私はやること終わったけど、ジャック待ちだからいいじゃん。それに他人の仕事を奪うほど私、酷くないから」

 そう言って、使っていた灯龍についた血を拭き取り、鞘に収めた。

「アーサー、この肉の塊どうする?」

「後で埋葬すればいい」

 哉惟はすでに話しを聞いておらず、ジャックを見ていた。ジャックは妖怪にかすり傷程度の怪我を負わせ、確実に仕留めるための隙を待っていた。妖怪もやられてばかりでなく、ジャックに傷を負わせようと攻撃してくる。

だが、ジャックのほうが一枚上手で、かすり傷一つつけられないことに妖怪はいら立つ。一瞬の隙に気づいたジャックは瞬時に爪で深く、妖怪の体に傷をつけた。反動で妖怪は倒れ、傷口から流れ出た血が地面に水溜りのように溜まっていた。

 妖怪は何度も立とうと試みる。ジャックがつけた傷口から流れる血は止まることはない。数分と経たないうちに妖怪は死んだ。

「ジャック、長いよ」

「悪い……。なかなか隙ができなかった」

「そんなことより穴掘って埋葬するよ」

「俺の仕事だろうが!!」

 ジャックは涙目で素早く、大きめの穴を掘った。穴を掘り終え、穴の中に妖怪の亡骸を埋葬した。血が溜まったところは簡単に掘り返して、隠すように埋めた。

「片付け忘れたところないよね?」

「ないない。早く依頼人の屋敷に戻って報告するぞ」

 アーサーに言われ、依頼人の屋敷へ戻った。屋敷に着き、哉惟は扉を叩いた。すぐに中から長老が扉を開けた。

「哉惟様! 終わったのですか?」

「はい。今夜から安心して眠れます。ですが、今まで通り、戸締りだけは忘れないようお願いします」

「ありがとうございます! なんとお礼をすればよろしいのやら……」

「いいえ、お礼なんていりません。これが私の仕事ですから」

「あ、あの……よろしければ、簡単なものですが、夕餉を食べていきませんか?」

「そこまで世話になるわけには……」

 長老の必死なお願いをどうにか断ろうとしていたが、結局、哉惟が折れた。

「わかりました。夕餉を戴きます」

 長老は嬉しそうにかまやへ向かい、夕餉の支度を始めた。本来であれば、このまま屋敷に戻り、夕餉を食べる予定だった。他にも哉惟には恒例の読書という予定があったので、予定が狂ってしまい、かなり落ち込んでいた。哉惟がここまで落ち込むのは相当なもので、ジャックとアーサーは少し驚いていた。哉惟は小さい声で「本持ってこればよかった」とつぶやいていた。

 三十分と経たないうちに哉惟の前には穀物と味噌汁の入ったお椀が並んだ。二匹には猫まんまが入ったお椀が置かれた。せっかく作られた料理。食べないわけにはいかなので、哉惟は黙って食べていた。妖国ではよくある軽食料理の一つ。長老はきっとお腹を空かせるだろうから少しでも腹の足しになればと思い作ったのだろうと哉惟は思っていた。普段から小食ということもありあまり食べない哉惟には丁度良い量だった。二匹はすでに食べ終わっていた。

「夕餉をありがとうございます。屋敷まで空腹を耐えなくて済みました」

「いえいえ、私からほんのお礼です。本当に今日はありがとうございました」

 長老に見送られ、屋敷を後にした哉惟たち。ジャックが早く屋敷に帰りたいというので、帰りはジャックの背に乗った。アーサーはジャックの後を追いかけていた。アーサーの時とは違い、ジャックの移動は早く、思っていた以上早く屋敷に着いた。

「おかえり」

 哉惟たちを出迎えたのは夕方、棲処に戻ったはずの莱だった。

「莱、私に用?」

「あぁ、昼間、仕事あるって言ったよな?」

「言ったよ」

「さっき、俺の知り合いから聞いたが、素手で相手することもあるんだな」

「うん。武術っていろいろあるでしょ。武器がなくても戦えるようにってモランから教えてもらっていたんだ。親父は武器使っていたし」

「そうだったな。あいつに一度聞いたことがある。武術の師匠がいたって。家族がいたかまでは俺も知らない」

「親父は独学じゃないんだ。今の私みたいに武術の師匠がいたんだ」

「哉惟は佐伊稀とモランか」

「そうだね。こいつらなら親」

 莱はいきなりなにか思い出したようだ。

「ジャックたちにお土産」

 そういって、どこからか大きい肉の塊が出てきた。

「に、肉!」

 ジャックは千切れんばかりというくらい尻尾を振っていた。

「最近はあまり上手い肉が見つからないからな。いいのか?」

 アーサーの言うとおり、二匹好みの肉は仕事で片付けた妖怪ではおいしいと思えるものはない。ここ数ヶ月、まともに肉を食べていないので、飢えていた。

「当たり前だ。お前らが好きそうなものだと思ったし、ついでに持ってきたんだよ」

「ついででもありがたいな。いやーしかし悪いな。上等な肉持ってきてくれて」

「食べたいなら腐らないうちに食べろよ」

 話しを聞いていた哉惟は無言で灯龍を鞘から抜き、肉の塊を半分に斬った。莱は疑問に思っていた。

「半分にしないと後でけんかするから」

 肉の塊にがっついている二匹を見て、莱は納得した。

「あれ? モランは」

「農機具の修理が終わったから届けに行ってる」

「そうか、モランの新しい材料持って帰ったのに」

「骨か?」

「あと皮も」

 哉惟は工房に骨と皮が包まれた風呂敷を置き、屋敷の中から一冊の本を手にして戻ってきた。

「なんだ? その本は」

「王室御用達の商人から買った小説だよ。何十年以上前に有名な作家が書いた小説だって聞いたよ」

「面白いのか?」

「面白い。それにこれは好きなんだ」

「妖国にはない文化があるからな。人によっては好き嫌いがあるらしいと聞いた」

「そうみたい。私は好きだけど」

 肉を食べ終えた二匹が戻ってきた。

「あー上手かった!」

「久しぶりにいいもん食った」

「それは持ってきたかいがある」

 二匹は満足したようでさっさと屋敷の中へ入っていった。

「莱、本当は私に聞きたいことあるんでしょ? あいつらの前では聞けないような事」

「鋭いな」

「それも仕事」

「モランから聞いたが、年頃の娘が自ら妖怪相手に戦ったり、重たい武器扱うのはどうかと思うのは今更だが……」

「今更だね。でもなに」

「年頃の娘なら男の一人や二人好きになることもあるだろ?」

「ない」

「即答するなよ……。哉惟ぐらいだろ」

「こんな国の人間から頼られる私が誰かを好きになることはできない。それだけ」

「それは俺たちが結婚していないから。違うか?」

 いきなり後ろから話に入ってきたモランに驚きもせず、話しを続けた。

「おかえり。そうかもしれない。それに私はほかと違って女らしいおしとやかな人間になれないから」

「みんながみんな、そうじゃないだろ」

確かにと哉惟は消えそうなほど小さな声で答えた。悲しそうな表情にモランは余計なことをさせたと思い、莱を睨んだ。

「な、なんだ。悪いのはわかっている。悪気はないんだ」

 必死に弁解をする。だが、モランはそれでも莱を睨んだままだった。

「いいんだ。モラン……。莱をあまり攻めるな」

 モランは哉惟に言われて、工房に向かいその場を去った。莱は哉惟に謝ろうとした。

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