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第3話

「ホラホラそんなんじゃ誰も守れないわよ!」

 雪蓮の速く鋭い攻撃えを必死に防ぐ。どうもこの人は剣を握ると性格が変わるらしい。普段よりサディスティック分が大幅に上がっている。

「くっ!!」

 なんとか攻勢に出ようとするがなかなか突破口が見つからない。

「そろそろ決めるわ!!ちゃんと構えてなさい!!」

 宣言通り更に攻撃の速度は増していく。剣筋だけでなく、体の運び、筋肉の動かし方で次の攻撃を予測する。しかし遂にはその速さは自分の処理能力を越え、首筋に刃を突きつけられた。

「そこまで!」

 祭さんから試合終了の合図が飛ぶ。

「あ~また負けた!!」

「でもだいぶ耐えれるようにはなったわね。」

 天を仰ぎ悔しがる俺の姿を見てそう雪蓮が評価する。確かに俺は以前とは比べられないほどに雪蓮の攻撃に耐えられるようになっていた。

 それは覚悟を決めたから。初陣の後の葵さんの言葉があったからだ。民を守るために俺は武を磨いた。

「そうじゃな。防御に関してはかなりイイ線をいってると思うぞ?そこから攻めに転じることが出来ればわしらにも敵うだろうよ」

「それができれば苦労しないよ……」

 祭さんは簡単に言うがこっちとしては防ぐだけでいっぱいいっぱいだ。

「なに、そう簡単に越えられては儂が困るからの!」

 からからと笑う祭さんにはきっと一生叶わないだろう……



「そういえば今度荊州に行くんですって?」

 鍛錬を終えて一休みしていると思いだしたかのように雪蓮が祭に尋ねた。

「うむ。なんでも劉荊州牧からの依頼だそうでな。賊の反乱を鎮圧して欲しいそうじゃ。」

「なんでまた?自分たちですればいいじゃないの!」

「儂も詳しいことはわからんのじゃが、どうやら複数の賊が居るらしくてな、連動されても困るので一気に滅ぼしたいそうなんじゃ。荊州軍は江陵や襄陽のほうで手一杯らしい。わしらは夏口あたりに赴く事になっておる。」

「ふ~ん」

何処か納得していない雪蓮だったが既に決まっていることなので反論しようにも出来ない。

「それで?将は誰が行く事になってるんだ?」

「なんじゃ?蒼は聞いておらんかったのか?文台様にわし。そして葵殿じゃよ。」

「え?母さんも行くんだ?でもなかなか凄い面子だね」

「そうね。主力がそんなに居なくなってこっちはどうするのよ?」

「なに策殿はもう立派になられたではないか、それに冥琳や蒼もおる。留守番ぐらいできるじゃろ?」

挑発的な物言いにあたりまえよ!と雪蓮は返した。


「でもな~んかきな臭い気がするのよね~劉表と母さまって親交あったかしら?てっきり豪族上がりの孫家には批判的だと思ったわ。」

「確かに。あっちは皇族の血を引く劉家なわけだし、最近江東の虎の異名が各地へ広まっている情勢はあまり快くは思ってないと思けど。」

「まぁ好かれてはおらんじゃろうが、こちらとしては恩を売る形にしておくほうが何かと都合がいいからの」

「なるほどね~劉家と繋がりがあれば官位も得やすいか…」



「って事を三人で話してたんだけど冥琳知ってた?」

午前中で鍛錬を終え午後からは冥琳の手伝いのため共に仕事をしていた。

「あぁ。というか雪蓮の奴も知っていたはずだぞ。先日の軍議の話だからな。まさかあ奴はあの時居眠りをしていたな!」

 雪蓮は将として冥琳は軍師として既に軍議にも出席する義務があるのだが、出席していても話を聞いて無ければ意味が無い。どうやらやぶ蛇だったらしい。

 ちなみに俺はまだ軍に入るための年齢に達していないため、蓮華の護衛兼付き人兼雑用係という微妙な立場であり正式な軍人しか出席を許されていない軍議にはもちろん参加できない。

「そう心配することもなかろう。何があってもあの三人なら切り抜けられるはずさ。」

「そうだね。最近じゃあの三人の名を聞くだけでこの辺の賊たちは逃げちゃうし。そういえば風のうわさで聞いたんだけど、今度新人さんが来るんだって?」

「うむ。陸家から文官として仕官しに来るそうだ。だがまだお前と同じで軍参入の年齢に達していないので私が面倒見ることになっている。しばらくは私や葵殿の手伝いをやってもらうつもりだ。」

 陸家というと陸遜か?でもあの人って後半から出てくる武将だったはずだけど……確か夷陵の火計はあの人の策だった気がする……

「ふ~ん。あっ!これこの前頼まれてた次の戦のための物資配分の計算。終わったよ。」

 曖昧な返事をしつつ書簡を手渡した。

「相変わらずお前の計算能力の高さは凄いな。普通の人間にやらせたら一週間で終わるかというところを2日で終わらせるとは……」

「…そんなこともないよ冥琳だって本気をだせばこのくらい余裕でしょ?」

「いや。私でもこの量を終わらせるのには3日はかかるぞ?前々から思っていたことだがなにか秘密があるのか?」

「いやだな冥琳。秘密なんてあるわけ無いよ……じゃ!俺はこれから蓮華の所行かなくちゃならないからこれで!」

「まぁいいだろう。だがいずれ聞かせてもらうぞ!」

 現代知識の数学や簿記の理論を使いましたなんて言えるわけがないだろう。と逃げるように冥琳の執務室を後にした。



「お~い蓮華!俺だけど入っていいか?」

 部屋の前で入室の許可を求める。中からどうぞ。の声。

「お疲れ様。また勉強してたの?」

「えぇ。姉様や冥琳。それに蒼には負けてられないもの。」

 先の二人はすで将であり、今や孫家に欠かせない存在だ。俺は初陣を済ませ後は時が立つのを待つばかり。自分だけ置いていかれてしまったようで不安なのだろう。

「でも最近は政務の手伝いもしてるんだろ?十分みんなの役に立ってるよ。あんまり無理し過ぎないようにね。」

「あなたこそ毎日色んなところに顔を出しているみたいじゃない。その言葉はそのまま返すわ。」

 言い返されてしまい思わず苦笑する。その様子を見た蓮華は口元に手を置きフフフと笑う。

「二人共焦っているのかもしれないわね。早く母さまのお役に立ちたいって気持ちが強くて。」

「みたいだな。でも今の勢いなら文台様も州牧の地位だって夢じゃない。そんな大事な時期だからこそ何か役立ちたいと思うことは仕方ないんじゃない?」

「そうね。お母様は本当にすごいわ。でも私もお母様のようになれるかしら……」

 蓮華はとたんに俯き不安な表情になる。

「きっと蓮華にだってなれるさ!」

「でも私はあまり武芸には向いていないし……」

「文台様になれとは言ってないよ。蓮華には蓮華のやり方がある。同じ道が全てじゃないさ。それに……」

「それに?」

言いよどんだ俺に疑問に思いながら次の言葉を待つ。

「それに文台様には母さん。雪蓮には冥琳がいるように俺は蓮華の隣で君を支えるよ。」

恥ずかしいセリフを吐いたことは自覚している。だがそれは俺の本心であり、使命だと思った。だからはっきりと蓮華の目を見て宣言した。

「あ…ありがとう。」

 耳まで真っ赤にしながらも蓮華は俺に感謝の意を示す。

 そして示し合わせたかのように二人同時に笑顔になる。

「これからもよろしく。蓮華。」

「えぇ。こちらこそ。蒼。」






 それから蓮華としばらく話をしていたが夕飯の時間ということで自分の屋敷へと帰ってきた。蓮華からはこちらで食べていけばいいと言われたが、今日は母さんが帰ってくる事を伝えると、なら仕方ない。と見送ってくれた。

「ただいま」

「おかえりなさい。」

城でちょくちょく会っているが、家にいる葵さんは久しぶりだ。

「すぐに夕食にするわ。手を洗って着替えてきなさい。」

「は~い。」

 すでに10年以上親子をしている。会話に違和感など感じられない。当初は記憶のせいでいきなり親子という関係は厳しいものがあった。どこか他人行儀になっていたかもしれない。 だが時が経過していく内にそれも薄れ、もはや葵さんは俺にとって本物の母親だ。


「荊州に遠征に行くんだってね。」

 夕食を食べ終わり一服したところで例の件を聞くことにした。

「なんだか危険な感じもするけど大丈夫なの?」

「えぇ。確かに劉表は裏で何をしてくるかわからない相手だわ。でも賊討伐の要請があった以上断れないのよ。」

 お茶で唇を湿らせ葵さんの言葉は続く。

「だからこそ私達だけで向かうことにしたのよ。雪蓮ちゃんや冥琳ちゃんの才を疑っているわけでわ無いわ。でもまだあの二人はまだまだ経験が足りない。賊討伐や山越退治には多く参加しているけど、今度の戦はそう単純なことではないの。」

 賊を討伐しながら劉表の調略から逃れなければならない今度の戦はとても難しい。足手まといとなる可能性があるのなら排除するのが当たり前だ。

「でもそんなに心配しなくてもいいわ。私達はそんな修羅場はいくつも乗り越えてきた。それに江東の虎がこんなところで死ぬわけないじゃない。」

 話を聞く間に暗い表情になっていたのだろう。俺の表情を見て明るげに答えた。






「陸伯言といいます~よろしくおねがいします~」

「朱義封だ。よろしく。」

 のんびりとした子なんだろうというのは声色からも想像できた。しかしそんな性格からは想像できないが軍略、政治ともにかなりの能力をもつというのが冥琳の評価だ。ちなみに普通字は成人した証として親からつけてもらったり自分でつけたりするものらしいが、俺は初陣の後母さんから頂いた。

「それとですね~私のことは真名で呼んでほしんですがよろしいですか~?」

「いきなりいいの?」

「はい~。実は孫家の仕官するにあたり他の皆さんとは真名の交換は済んでるんです~」

 陸遜がやってきたのは数日前なのだがあいにくタイミングが合わず今まで会えていなかったがどうやら俺が最後になるらしい。

「それならいいよ。俺の真名は蒼。」

「わたしの真名は穏っていいます。穏って呼んでくださいね~」

 こうして陸遜こと穏は孫家の一員となった。

「ところで~蒼さんは算術が得意と聞いたのですが~?」

「へ?まぁそれなりにだよ。」

 唐突の問に思わず間抜けな返事をしてしまう。

「冥琳様からはどうやら隠し事としてるみたいだ~って聞いてますけどそこの所どうなんですか~?もしかして算術を簡単にするすごい秘密があるんですか~??」

「ただ普通に計算してるだけだよ。」

 どこかスイッチが入ったようにキラキラと目を輝かせながらにじり寄ってくる穏から後ずさる。

「でも冥琳様より計算が早くてなおかつ的確だなんて凄いじゃないですか~それに計算する仕事は絶対に家に持ち帰ってやるみたいですし~隠し事はいけませんよ~」

「別に隠し事なんてしてないよ。あぁそういえば俺これから祭さんと鍛錬の時間なんだ悪いけどこれで!」

 強引に話を終わらせ、穏から逃げるように足早に去る。後ろから

「待ってくださ~い。まだ聞きたいことたくさんあるんですよ~」

と聞こえたような気がするが気のせいということにした。


 冥琳のやつ本格的に俺の計算能力の秘密を探ってきたな……

 最初はほんの出来心だったのだ。物資配分計算の資料を見てかなり曖昧な事に気づき、簿記の能力さえあれば簡単により正確に出来るのにと思ってしまった。そこから更に職人にそろばんまで作らせてしまい気づいた頃には冥琳に怪しまれていた。

 いずれ教えるつもりだったがまだ年若い俺がいきなりそんな知識をさらけ出して不審におもわれるのが嫌だったし、何よりこの国、特に孫家はできるやつに全て任せた方がいい。という人が多いためすべての計算の仕事が俺に回ってきてしまうことを恐れた。

 現に冥琳はそのたぐい稀なる知識のせいで仕事の量は膨大だ。だからこそ俺が手伝っているのだが……どうやら俺も冥琳と同じように働かなければいけないらしい。

 さてどうやって説明しようとまた俺の悩みが一つ増えた。







遂に荊州への遠征の日がやってきた。城門の前にはみんなが集まっている。

「では留守を頼わよ雪蓮!」

「は~い。私と冥琳がいるから安心して♪」

「冥琳もウチのじゃじゃ馬のことよろしくね。」

「はい。お任せください。しっかりと雪蓮の手綱は握って起きます。文台様もお気をつけて」

「なにがじゃじゃ馬よ!冥琳もヒドイじゃない!!」

「実際にその通りだろ!」

 戦の前だというのにいつもと変わらない。みんな気がかりなことはあるがそれ以上に彼女たちの事を信頼していた。

「蒼。あなたも雪蓮ちゃんと冥琳ちゃんの事支えてあげるのよ?」

「わかってるよ母さん。それに蓮華や穏もいる。戻ってくるまで留守はちゃんと預かるよ。気をつけて。」

 皆それぞれに挨拶を交わししばしの別れを告げた。

「よし!では出陣!!」

 文台様の声とともに行軍を開始する。

 この時孫家に暗雲が広がり始めていたことには、誰も気がつくことが出来なかった。

詰め込みすぎた上に薄い。実力不足を感じる今日この頃。


追記。こちらのミスでいつの間にか削除されてしまいました。また改めてということになりますが、このような駄文を見てくれている人もいると信じ投稿を続けたいと思います。

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