第1話
素人が妄想した駄文です。オリ主嫌いの方は注意です。一刀くんは出る予定はありません。
「生まれ変わるとしたら何になりたい?」
誰もが一度は考えたことがあるだろう問いだ。答えは人によって様々だろう。また人間に生まれ変わりもう一度違う人生を歩みたい。と考える人が居れば、鳥になり大空を自由に飛び回りたい。そう考える人も居る。
大抵この問いを考える時は取り返しの付かない失敗をしてしまった時や、現状に満足いかない時である。人はストレスを感じた時それを発散させるために様々な行動を起こす。これもその一つだ。現実逃避。
ある日目が覚めるとそこは空だった。真っ青な空の元いくつもの雲が悠々と流れている。こんな大空を観たことは初めてだ。と心が感動に満ち溢れた。柔らかい風が頬に触れとても気持ちがいい。
珍しくいい夢をみたものだとしばらく幸せな気持ちに浸っていると、遠くから地響きがやってきた。何事かと当たりを見回そうとするも体が自由に動かず思うようにいかない。どうやら体を布のようなもので巻きつけられている。とたんに背中に嫌な汗を感じた。拘束され体が自由に動かないという状況は、先程までの心地良い気分を一瞬にして不安と絶望の色へと変えた。更にはこちらへと近づいてくる地響きの音は、よりその色を濃くしていった。現状を打破する解決策がある訳もなく、遂にはその音が頭の上で止まった。
「赤子…?」
突然目の前に一人の女性が現れ、そう言うと俺を抱きかかえた。長さのある黒髪を持つとても綺麗な女性だった。そんな人に急に体が近づき俺の鼓動が早くなる。
そんな此方の心情など気づくはずもなく女性は不思議そうな顔をしながらも俺をまるで赤子をあやすかのように背中をポンと押し、辺りを見廻している。
全く状況が読めないことに俺は混乱していた。しかしはたとある疑問に気づいた。
そう。彼女は今俺を抱きかかえているのだ。元々俺は大柄な体格ではなかったが成人男性が軽々と女性に抱きかかえられるということが可能であろうか。
否。
とにかく彼女に自分の状況を伝えようと声を出そうとしたのだが、禄に口を利くことさえもままならない。更には漏れでた声はまるで赤ん坊の喘ぎ声だった。その瞬間にようやく自分の状況を理解することができた。
どうやら俺は赤ん坊になったらしい。
衝撃的な事実が発覚したが今の自分にはどうすることも出来ない。そのまま彼女に抱きかかえられ、彼女が乗ってきた馬に乗った。そうか俺を不安と絶望に染め上げた音の正体はお前だったのかと知り、体が自由ならば一つ小突いてやりたい気持ちになった。
そんな俺の気持ちを察したのか馬は物凄いスピードで荒野を走る。抱きかかえられているとはいえ、そのスピードと上下の揺れは幼い自分の体にはとてつもないダメージを与え、ましてや馬になど乗ったことがない自分がその前代未聞の衝撃に耐えられるはずもなく、意識を手放すのはそう時間がかかることではなかった。
早くも本日二回目の目覚めである。起きたらいつも通りの自分の部屋であった。
そうであって欲しかった。しかしそんな希望は簡単に打ち壊された。どうやらただの夢ではないらしい。本格的に大変な状況に陥ってるようだ。目が覚めても自分の体は赤ん坊のままだったのである。
なぜ?どうして?と様々な疑問が頭に浮かぶが明確な答えが出るはずもなく堂々巡りの問いを繰り返した。
そういえば此処はどこだろう。
一番根本的なことを考えていなかった。考えてみれば一番初めにいた場所も荒野だった。自分の住んでいたところにあれほどの荒野は存在しなかったはずだ。ましてや先程俺を抱きかかえた女性の服装は、なんというか戦国時代のドラマに出てきそうな鎧を着ていた。確実に此処は俺の知る世界ではないだろう。馬に乗って現れたことから最悪時代も違うのかもしれない。夢なのか現実なのかさえも曖昧なままだ。また不安が心を染めていくのを感じた。思わず手を額へと移した。
どうやら体を動かせるようだ。自然に出た仕草が希望の光を少し照らした。先ほどまで体を拘束していた布は取り払われていた。体を横に倒し周りの風景を確認する。何処かの屋敷のようだが自分が慣れ親しんだ雰囲気の家ではなかった。どこか中華っぽい。そんな事を思っていると突然扉が開いた。
遠乗りに出かけた帰りだった。空を見上げると光が輝いていた。太陽とは違う光だ。その光は地上へと落ちていきやがて落ちた。幻を見ているのかと思った。
「どういうことだ……」
しばらく呆然としていた私だったが、思わず口から溢れた言葉に我を取り戻し、吸い寄せられるかの様に光の下へと馬を走らせた。いつもの冷静な私の判断ではなかったかもしれない。しかしあの時の自分は使命感に似たなにかを感じ取っていた。私が行かなければならない。そう感じたのだ。
光が落ちただろう下へと到着した私だったが辺りには何もなかった。取り越し苦労だったのかと消沈した所だったが。目の端になにかを見つけた。近づいてみると赤子だった。
「赤子…?」
まだ1歳というところか、文台様の次女蓮華ちゃんと同じくらいに見えた。なぜこんな場所にと考えたが周りを見渡してもこの子の親が見つかるはずもなく、このまま荒野に捨て置くのはあまりにも非常だろうと思い、その赤子を抱き馬へと乗って部隊へと帰ることにした。
「で?これがその子と言うわけ?」
文台様へ事の顛末を報告し、とりあえず自分の自室に置いてきた荒野で拾った赤子の元へと二人でやってきた。
「それで?この子どうするつもりなの?」
「……どうしましょう?」
当然の問いにも何も考えずこの子を拾ってきてしまった自分はそう答えるしか無かった。
「どうしようじゃないでしょう!あなたが拾ってきたんだからあなたが育てなさい!」
「しかし私は子育てなどしたことはありませんし……」
「丁度いいじゃない。何事も経験よ♪け・い・け・ん♪」
そう話す文台様は先程から子どもを抱きかかえ笑顔で相手をしている。
「そんな困った顔しないで~ほら♪」
と私にも抱くようにと体を差してくる。それを受け取ると今にも泣き出しそうな顔でこちらを見てくる赤子と目があった。
確かに私は自分の目の前で光が落ちていくのを目撃した時、何か惹きつけられるようなものを感じた。そしてこの子と出会った。運命という言葉はあまり好ましい表現ではないが、もしこの子と私が出会ったことが運命なら私はその役割を果たそうと心に決めた。
「わかりました。こうなったのも何かの縁でしょう。私がこの子を育てます。」
「よし!朱治君理よく言った!ならば責任持って立派な大人に育てなさい!」
文台様は満面の笑みを作っていた。
「そしてついでに雪蓮と蓮華も育てなさい!!」
そういう事か。単純にこの人は私が子育てを始めれば自分の子どもも押し付け自由になれると計算していたのだ。男の子みたいだし私の子と結婚させるのも手ね!となにかつぶやいている。まったくこの人は……主君のあまりの短絡的で自分勝手な考えに呆れた。
「そういえばこの子の名前は?」
「いえ。まだ何も決めておりません。」
名か……重要なことだ。それに真名も考えねば。この子の一生を左右する名だ。慎重に考えて大事にしなくては。
「そうね。然にしましょう。朱然。いい名前ね。ハイ決定~」
あっという間に決まってしまった。
「真名はそうね~……蒼なんてどうかしら?」
理由は蒼天から降ってきた子だからだそうだ。
「それにあなたの真名にも少し似ているでしょ?」
私の真名は葵確かに蒼もあおいとも読める字である。
「ねぇ。どうかしら?私がいろいろ決めちゃって怒ってる?」
「いえ。いい真名だと思います。それに文台様が名付け親になってくれたのならこの子も誉れ高いでしょう。」
そんな会話を朱治さんに抱かれながら俺は事の成り行きを聞いていた。どうやら俺はこの朱治さんという方の養子になるようだ。どうやら捨てないでくれと必死に念じた事が伝わったようだ。もしこの姿でまた荒野の真ん中に捨てられたらどうなるだろう……例えこれが夢だとしても考えたくないことである。
名前も決まった。
朱然。
これが俺の名前らしい。真名というものはよくわからないが、この朱然という名前。そして朱治さんと一緒にやってきた文台様と呼ばれている人の名前に何処か聞き覚えがあった。とにかく此処は中国の何処かなのだろう。名前的にもそんな印象を与えるし建物の様式も、以前ドラマで観たことのあるような感じだ。はてどんなドラマだっただろうか。だがどうやら今は何も思い出すことができそうにない。
こうして俺は朱然としての生活が始まった。
朱然と蒼の名をもらってから数日の時が過ぎた。その時の流れの中で、自分が置かれている状況を完全に理解した。
どうやら俺は古代中国にいる。時期は後漢末期ちょうど三國志に出てくる英傑たちが活躍した時代だ。
やはり文台の名は聞いたことがあった。孫堅文台。その人だった。しかし女性なはずは無かった。何かの間違いだと思ってもみたが朱治さんとの会話を聞く限り本物の孫堅だと信じるしかなさそうだった。
正直俺は三國志の話は殆ど知らない。中学時代に三國志を題材とした某アクションゲームをやり込んだことはあったが、知っている武将も多くないし所詮ゲーム知識なので全く宛にならないだろう。それに既に時が経ちすぎて記憶も曖昧であることが一番の要因だ。
そしてもう一つ俺は重要な事を思い出すことに成功していた。やはり俺は朱然を知っていたのだ。孫堅の名を聞いてから三國志の記憶を必死に思いだそうとした。
夷陵の戦いの時火計を成功させるために守らなきゃいけないモブキャラ。
それが記憶の奥底から掘り出した俺の朱然の情報だった。
気になっていた事柄をようやく思い出し開放感を覚えたが、それと同時にモブキャラかよ。という残念な気持ちも押し寄せた。
とにかく俺はどういう訳があったかは謎のままだが主な武将が女性という三國志の時代に赤ん坊の姿で現れ、自分は夷陵で火付け役をする朱然ということがわかったのだ。
さて自分の状況を確認できたところで少しは安心したがまたさらに大きな問題を抱えることとなった。
俺は朱然なのだ。
このまま時間が経過すればこの世界は群雄割拠の戦国時代へと突入するはずだ。待ち受けるのは戦争である。夷陵の戦い前後のことはよく知らないが、少なくとも一回は確実に戦争に参加することになるだろう。人殺しなど自分ができるはずがない。今後に予想される苦難の日々を想像しぶるりと体を震わせた。
もし生まれ変わるとしたら俺は戦争のない平和な世界で暮らしたいと切実に思った。
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