突然王女と結婚することになった
「婚約を解消されたって本当なのか?」
唐突に俺のもとへとやってきた、友人のアッシュは世間話もほどほどにして質問をしてきた。
「本当だよ、あっちから解消して欲しいって言われて。解消した」
俺のあっけらかんとした返答に、アッシュは呆れたような様子を見せる。
「お前なぁ、これで三度目だろ。なんでそんな冷静なんだよ」
俺は何も言わず苦笑だけする。
俺の婚約解消はアッシュに言われた通り三度目。この国で三度も婚約解消されて焦らずにいるのは俺ぐらいであろう。
そもそも俺自身に結婚願望はない。しかも親もそれほど俺への結婚を期待していないし、しなくてもいいとも思っている。
俺はバローズ伯爵家の一応まがりなりにも次期当主であるのに。
「今回の婚約解消の原因は?」
「表向きの理由は一応あるんだけど。まあお前にはどうでもいいだろうからな」
俺はそう言うと、実際の婚約解消の理由を話す。本来秘匿せねばならぬことだが、俺とアッシュの付き合いは長い。ばらさないのを知ってるし、本当のことを知りたいはずだ。というかそのためにアッシュは来たのだろう。
そもそも婚約解消は予定調和だった。
あちらさんのご令嬢には好きな相手がいた。また彼女のご両親もその人物との結婚を望んでいた。だが、その人物との結婚にはいくつか障害があった。
そこで、その障害をなくすために、俺と一時的に婚約したのだった。
その障害がなくなったために、婚約解消をした。
とても簡単な話だ。
アッシュに説明が終わった瞬間、アッシュはさらに呆れた様子を見せる。
「バロウズ伯爵家は本当に次期当主をお前じゃなくてラフォーレにする気なんだな」
アッシュが言った言葉を俺は「前から言ってるだろ」と同意する言葉を返す。
バロウズ伯爵家は次期当主を俺の従兄弟のラフォーレにする気で動いている。理由は単純で、ラフォーレのほうが俺よりはるかに優秀な素質があるからだ。
バロウズ伯爵家の全員がそのために今色々と工作を行っている。
この国の相続のしきたりでは、今のままではラフォーレに次期当主を任せられない。この状況下で俺が結婚してしまうと、ラフォーレに次期当主を任せるのがさらに困難になる。
なので俺は結婚せずにいた。
アッシュはこの事情を実は何となく知っている。アッシュの家ロミューダ伯爵家はうちと付き合いが長く、今回の件も裏で手伝ってもらっている。
といってもアッシュは何かの裏工作かのようで信じていなかったようだが。
「まあそもそもラフォーレが次期当主になるのは昨日決まったけどな」
「は?!!」
アッシュは物凄くびっくりした様子を見せる。それを無視して俺は勝手に話を進める。
「これで俺は自由に過ごせるようになったよ。まあ色々と失うものはあるけど。個人的に進めてた事業がうまくいっててな」
「待て待て、今の話は」
「本当だよ、本当。嘘ついてもしょうがないだろ」
俺はさらっと答える。アッシュはあきれ果てたような姿を見せる。そして、ひどく長くため息をつく。
「で、これからどうするんだ、お前?」
「とりあえず、トランヴィア王国に行くつもり。伝手があるから、そこで働くつもり」
「そうか」
アッシュは「困ったことがあったら俺を頼れよ、可能な限り手を貸す」とだけ言ってすぐにその場を去っていった。俺はすぐに去ったことに違和感を持ちながらも、トランヴィア王国に行く準備を進める。
気づいたら、俺は王城の謁見の間にいた。アッシュが去ってしばらくしたら、王国の近衛騎士がやってきた。王都で働いているはずの近衛騎士は鮮やかな手口で俺を捕まえて、馬車にのせた。俺は何も抵抗もできずにそのまま王城へと連れていかれたのだ。
「よく来てくれた。グレン・バロウズ」
国王陛下が声をかける。俺はただ混乱していた。なぜこんなことになったのかがわからない。俺は不敬とわかりながらも質問しようとした。この状況の説明を求めるために。そのとき、国王陛下の隣にいた第三王女のタマラ様が俺に向けて、わけのわからないことを言う。
「グレン様、いえ、旦那様。結婚式はいつにしますか?」
「はい?!」
俺は素っ頓狂な声をあげてしまう。国王陛下は頭を抱えて、何事かをつぶやく。タマラ様は俺のもとへとすぐに来ると、矢継ぎ早に言葉を続ける。
「今すぐしますか。準備はすぐに整えます。ああでも、せっかくならしっかりと準備をしたほうがいいですかね。お呼びしたい人はいますか。それとも全貴族に参加してもらいますか。旦那様のお好きにしてください、ああでも個人的にはすぐにあげたいです。すぐにでも一緒に暮らしたいですし、一緒のベッドで。ああすみません、はしたないですね」
俺は何も言えずに黙ったままで、国王陛下に向けて視線を向ける。陛下の目は、憐れみであふれているようだった。
「あの、タマラ様、本当に結婚なんてするんですか、俺と」
「何を言っているんですか。結婚はします、絶対に。できないのですか?」
圧しか感じなかった。俺は「冗談です」と言ってなんとかして笑う。「いやな冗談やめてくださいね」とタマラ様は言う。俺は「申し訳ないです」というしかなかった。
俺はタマラ様にあったのはパーティで何度かあるだけだ。話したこともないはずだ。なのにこんなことになっている。俺はわけのわからないまま彼女に従うのであった。
気づいたら俺は結婚式を行うこととなった。待機部屋にいるとアッシュが訪ねてきた。
「申し訳ないと謝っておくな、グレン」
「どういうことだ?アッシュ、何か知ってるのか?」
アッシュはうなずき話をしてくれる。
タマラ様は俺にひとめぼれをしたらしい、そして、俺と結婚するために色々と工作をしたらしい。俺が当主になれなかったのも彼女のせいらしい。アッシュはそのことをさっき知ったらしいが、ただアッシュは俺の動向を逐一報告するように言われていたらしい。そして、俺のすべてがうまくいったので、彼女は俺を誘拐まがいの形で結婚したらしい。
「お前が謝ることはないぞ、アッシュ」
「そう言ってくれると助かる。タマラ様はいい方だ。ただ思い込みが激しそうだから気をつけてな」
不敬な発言をしながらアッシュは俺の肩をたたき、部屋を去った。
「覚悟決めるしかないなぁ」
俺はつぶやき、今後の人生を考えるのであった・・・




