絶滅危惧種バニーガール
「次のニュースです。絶滅危惧種バニーガールの話題です」
ニュースキャスターが真面目な顔で言った。
俺は飲んでいたコーヒーを吹きそうになった。
「バニーガール?」
減っているも何も、最近見たことがない。
すると画面にグラフが表示される。
全国推定生息数 二百三十七匹。
環境省指定。
絶滅危惧Ⅰ類。
本当にあるらしい。
絶滅危惧Ⅰ類とはごく近い将来または近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種?
「バニーは野生じゃないだろうに」
「現在確認されている個体数は二百三十七匹」
ニュースキャスターが深刻そうな顔で言った。
画面には野生のバニーガールの映像が流れている。
深夜の繁華街。
路地裏から顔を出し、警戒しながら移動するバニーガール。
ナレーションが続く。
バニーガールは非常に臆病な生き物です。
近年、生息数の減少が問題となっています。
「いやいや」
俺は思わずテレビに突っ込んだ。
「バニーガールって生き物だったのかよ…あ、生き物か。人間だし。」
「職業としてのバニーガールってことか?うーん、それはないな。」
不思議と記憶に引っかかる。
「そういえば、どこかで見たような…。」
しばらく考える。
昭和。
平成。
バラエティ番組。
ステージの脇に立つバニーガールたち。
「あっ」
思わず声が出た。
いた。
確かにいた。
子供の頃、テレビで見た。
『全日本仮装大賞』だ。
司会のきんちゃんの隣に、バニーガールのお姉さんたちが立っていた。
得点ボードを持ったり。
出場者を案内したり。
何をしていたかはよく覚えていない。
でも確かにいた。
そうだ。
昔は普通にいたんだ。
テレビの中に。
イベント会場に。
ゲームショーに。
パチンコ屋のポスターに。
あー確かにいたわ。なぜかわからんけど。
「若い世代の中には、バニーガールを実際に見たことがない方も増えています」
「もはや伝説上の存在に近いですね」
俺はうなずき、伝説上の生き物を想像した。
ユニコーン。
河童。
ツチノコ。
バニーガール。
全部同じカテゴリかもしれない。
「発見者には保護協力金三万円が支払われます」
俺は立ち上がった。
「探そう」
こうして俺の、
幻の生物バニーガール探索記録が始まったのである。
「あー、かあちゃん」
居間で横になっている母親に声をかける。
母はせんべいを食べながらテレビを見ていた。
「ちょっくら行ってくるわ」
「どこに?」
「バニーガール探し」
「へぇ」
興味なさそうな返事だった。
「見つけると三万円なんだって」
「そうなんだ」
母はぽりぽりとせんべいをかじる。
そして何気なく言った。
「私も昔バニーやってたことあるよ」
「はぁ?」
思わず振り返る。
母は平然としていた。
「え?」
「だからバニーガール」
「え?」
「大学生の頃」
「え?」
頭が追いつかない。
俺の母親である。
スーパーの特売日に命を懸ける女である。
通販番組を見ると必ず電話しそうになる女である。
その母がバニーガールだって!!
「嘘だろ」
「ほんとほんと」
「証拠は」
「あるよ」
母は立ち上がる。
押し入れをごそごそ漁る。
そして取り出した黒い箱。
嫌な予感しかしない。
「まだ残ってた」
「着てみようか?」
「サイズ入るかなー」
「やめてくれ!!」
こうして俺は知った。
バニーガールは絶滅危惧種ではないということを。
母は翌日、昔のアルバムを持ち出してきた。
そこには笑顔でポーズを決める若き日の母。
その隣には同じような格好をした友人たち。
さらに数日後。
近所のおばちゃん。
親戚のおばさん。
会社の上司の母親。
次々と元バニーガールが発見された。
推定生息数二百三十七匹どころではなかった。
バニーガールは絶滅危惧種ではない。
俺にとって絶滅させたい危惧種なのだ。
「あれ?現役はいないな…。」
「だから私が…」
「やめろっての!」
翌日、環境省のホームページから。
保護協力金制度はひっそりと削除された。




