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悪意のひとかけら

作者: 天魔幻想
掲載日:2010/02/28

この小説を読んだ後には、非常に不愉快な気分になるかも知れません。それでも構わない方のみ、お読みください。




―――今日もまた、憂鬱な時間がやってくる





私はS県に住む、42歳の主婦だ。私はここ最近、非常に憂鬱に思っていることがある。




それは、夫の母親である義母の事だ。



 今年68歳になる義母は半年ほど前に腰を悪くし、それ以来寝たきりの状態が続いている。そのため、私が食事や下の世話をしているのだが、私に対する態度が少々・・・いや、かなり酷い。




―――私に対して暴言を吐くのは当たり前


―――食事の世話をしてあげても、感謝の言葉どころか文句ばかり


―――挙句の果てには、気に入らないことがあると私に対して暴力をふるうようになった



 夫にも相談したのだが、夫は実の母親には頭が上がらないようで、「話はする」と言ってくれているものの、状況は一向に良くなる気配を見せない。


 そして今日もまた、私が義母のオムツを取り替える時間がやってきてしまった。義母の服を脱がせ、オムツを処分する。その間にも


「グズグズするんじゃないよ!あたしに風邪をひかせる気かいっ!」


「あんた、あたしがこんな惨めな姿をしてるのが愉快なんだろっ!だからそんなにグズいんだっ!!!」



といった、義母の暴言が容赦なく私に降り注ぐ。さらに


「さっさと!おやり!この!のろまがっ」


と、文句の合間に私に暴力を振るうのだからたまらない。私がだまって耐えていると、義母の暴力はエスカレートしていき



―――ビチャッ



義母に叩かれた衝撃で、私は義母のオムツに頭からつっこんでしまった。



「―――ふんっ、汚い顔だね。サッサと洗ってきなっ!」


私は情けないやら、泣きたくなるやらで、うなだれたまま洗面所へと向かった・・・





 家に帰ると私は、いつものように義母の行動に対する不満を夫へとぶちまけた。しかし夫は投げやりな態度で私の話を聞き流し、挙げ句の果てに



「確かに母さんの態度も良くないかも知れない。だが、そもそもお前の介護の仕方が悪いんじゃないのか?」


と言い出した。








―――もう、色々と限界だった







 そんな日々に転機が訪れたのは、ある曇った日の午後だった。ふと覗いた『介護の裏技』というサイトにこんな文章が載っていたのだ。



「食事に多くこんにゃくを混ぜると、こんにゃくはそのまま出てくるので下の世話は楽になる(ただし、こんにゃくは栄養分が少ないのでこれを続けていると栄養不足になる)」



 私は半信半疑だが、その方法を試してみた。私たち夫婦の食事とは別に、こんにゃくが多く含まれている食事を作り、それを義母に食べさせたのだ。その結果、義母の下の世話は驚くほど楽になった。多少汚れてはいるものの、こんにゃくがほぼそのままの形で出てくるので、そこまで生理的嫌悪感を覚えずにすむ。



 その日から義母の食事には、こんにゃくが多く混じることになった。義母からの暴言や暴力は相変わらずだが、今の私にはそれに耐えられるだけの心の支えがある。それだけで、まるで世界が変わったように感じられた。



 当然、注意書きの事は覚えていた。しかし『義母は寝たきりとは言え少々元気過ぎるから、少しぐらい弱ったぐらいでちょうど良いのだ』と、私は自分に言い聞かせていた。




―――この食事を続けて一カ月、心なしか義母の睡眠時間が延びてきたようにも感じられる。昨日も、私が声をかけてもなかなか起きる気配がなく、起きてからもしばらくの間はぼうっとしていた。そろそろ栄養のあるもの中心の食事に切り替えようかと考えるが、まだ少しの間は大丈夫のはずだ。


―――この食事を続けて三カ月、義母は確実にやせ細っている。まだときどき暴力は加えられるが、それも随分と弱弱しくなった。夫は仕事に忙しく、まだ義母の体の異変に気がついた様子はない。このまま夫にバレなければ、私の幸福はずっと続くことだろう。


―――この食事を続けて半年、義母はだいぶやせ細り、ほとんど元気がなくなっている。私に対して暴力を振るうこともなくなった。何もかも事態は良い方向へ進んでいる。これも全てあのサイトのおかげだ。さすがに異変を感じ取ったらしく、夫は最近、よく義母の体調について私に質問してくる。しかし、今までずっと私の苦労に無関心だったのだ。今更関心を持ったところでもう遅い。





 そして私が義母の食事にこんにゃくを混ぜ始めて半年後、義母は亡くなった。私はやっとこの苦行から解放されたのだ!










 ―――しかし義母の葬儀が終わった翌日から、義母の死のことで夫が私を責め立て始めた。夫の言い分はこうだ


『母はこの数カ月でめっきり痩せてしまった。それは、お前の世話が悪かったせいに違いない』


 確かに、義母の体の不調には私にも責任がある。しかし夫がもっと相談に乗ってくれていれば、このような事態にはならなかったはずなのだ。私は、自分の責任を棚に上げて私ばかりを責め立てる夫の言い分には全く耳を貸さなかった。


 





 今日、お向かいの奥さんに露骨に無視をされた。どうやら夫が、義母に対する私の世話が悪かったと、近所の人たちにふれまわっているらしい。子供のような仕返しをしてくる夫に対して、私は本格的に愛想がつき始めた。




 






 今日、警察が訪ねてきた。どうやら私には、義母に対する虐待の容疑がかかっているらしい。話を聞かれ正直に何もしていないと答えたのだが、そのまま逮捕されてしまった。




―――どうしてこうなってしまったのだろう・・・


―――私は、義母に殺意を抱いたわけでも、義母の食事に毒を混ぜたわけでもない


―――私はただ















悪意のひとかけらを混ぜただけ・・・


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― 新着の感想 ―
[一言] 介護は少しだけ経験していますが、下の世話などはなかったにも関わらずかなり大変だったことを覚えています。 夫の無関心、義母の態度に心が擦りきれついくさまがよく描かれていると思いました。 実…
[一言] 実際にありそうな話だったので、恐ろしいと思いました。 最近、介護疲れや介護士の方々の減りも問題になっていますしね。 今回は文学という難しいジャンルに挑戦され、凄いなと思いました。 これ…
2010/02/28 21:10 退会済み
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