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アリスターの日記 序章  作者: きてつれ
第一部 出会いと日常
5/30

<5話> 仕事 634年5月15日

 早朝、日の昇る前の静かな時間。ひゅるひゅると風が吹く。

 アリスターはコールムの家に来ていた。コールムと一緒に畑作業を手伝う仕事があったからである。ただ、肝心のコールムはというと雇い主の所へ出かけていた。今日の作業にトオムも参加させるための交渉をしに。そのためコールムの家にはアリスターとトオムの二人だけであった。


「アリスターさんは、コールムさんとはいつ出会ったんですか?」


 唐突なトオムからの質問に、少し驚きながらもアリスターは椅子に座って、答えた。


「まぁそうだな。ここから北西の位置にあるスぺイルっていう町で出会った。もう六年くらい前だったかな。あいつも大分若々しくて、もっと細くて、もやしだった。今じゃ筋肉ダルマだが」


「そうなんですか。ホント、いつも筋トレばかりやってますからね。ところで、コールムさんって歳はいくつなんですか?」


「22だな。俺と同じ歳だ」


「えっ!! コールムさんって意外と若いんですね! もっといってると思ってました」


「ちなみにユーナも22だ。トオム。お前はいくつだ?」


「僕は19です。先月の12日になったばかりですけど」


 アリスターはトオムが意外に年をとっていることに驚いていた。もう少し若いかと思っていたからである。


「案外、歳が近かったんだな。俺ら」


「そうですね」


 二人の間に沈黙が流れた。トオムが気を利かせて、また質問した。


「アリスターさんも、色んな町を転々としてたんですか? 僕も親の都合で色んな所に引っ越しては、またすぐに引っ越す、なんてことばかりだったんで、その、友達とかができずらくて」


「そうだったのか。……コールムは良いやつだろ? バカで、明るくて、しっかりしてる。……俺たちは二回、町を移動した。親も、こんな時代だ。戦争で死んじまう。……トオムも親は大事にしろよ」


「あっ……そうですね。大事にします」


「……悪いな。なんか。こういうのは、やっぱり酒の場で話すべきだったな。気にしないでくれ。もう過ぎたことだ」


 アリスターはそういうも、トオムはどこか気にしていた。

 気まずい空気が流れる中、コールムが帰ってきた。


「おう! アリスター! トオム! オッケーだ。まぁ、仕事の体験だと、思ってよぉ。気楽にな」


 右手の親指を立てて、ドヤッった顔でそういうコールムにアリスターは粛々と金銭について聞いた。


「それで、配分は三等分だな。値上げ交渉はしたのか?」


「あっ……。ま、まぁ、……忘れてた。もっかい行ってくる」


「だろうと思った。いいよ。コールム。今回は向こうとしても高い金を払ってんだ。銀貨三枚に銅貨十五枚。ちょうど三等分しやすい。トオムもこれでいいな?」


「はい! アリスターさん、コールムさん。ありがとうございます!」


 深々と頭を下げるトオムに、コールムは言う。


「おうよ! 困ったときはお互い様だろ。それに今日のは、かなりつらい作業だぜ。昼休憩なしだかんな。覚悟はしておけよ」


「ちなみに仕事の内容って、まだ聞いていないんですけど、何ですかね?」


「お前、言ってなかったのか? ったく、畑仕事だよ。種まきとか、植え替えとかだったか」


「おう、わりぃわりぃ。言ったもんだと思ってた。まぁ、そんな頭を使う作業じゃないから、言われたことをやりゃいいのよ」


 だっはっはーと笑うコールムに、いつものことかとやや呆れを覚えつつ同意するアリスター。


 日が昇る前に農家の元を訪れ、三人は仕事を開始した。


 三人は夕方手前まで、ずっと言われたとおりの単純作業を繰り返した。トオムは慣れていなかったのか、初めはやや作業が遅れたが、昼からはスムーズに作業を進められた。


 泥だらけの三人を夕日が赤く照らす。支払われた給料の銀貨と銅貨を分け、ヘトヘトの姿のままそれぞれ家へと帰った。アリスターは一度、公衆浴場へ行き、疲れを癒してから、自宅のベッドで倒れるようにして眠った。

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