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アリスターの日記 序章  作者: きてつれ
第一部 出会いと日常
4/30

<4話> 魔法の訓練 634年5月14日

魔法の説明はまだ続くよ。

でもこれで基本はおしまい。

 昼下がりの心地よい風が吹く。

 ユーナがアリスターの家を訪れる。


「アリスター? 昨日はどうも。トオム君はいる?」


「いないよ。コールムの所じゃないか。それに、これまた何でだ?」


 アリスターが居間のテーブルまでユーナを案内し、椅子に座った。ユーナはいつものように、アリスターの対面の椅子に座り、出された水を一口飲んだ。


「トオム君の魔法に対する興味に答えてあげようと思ってね。私が魔法を他人に教えることなんて、滅多にないからね。二十年と二年しか生きてないけど、弟子を持ってみてもいいかなって、そう思っただけだよ」


「あいつに魔法を教えるのか? ……まぁ、才能があればいいな」


「アリスターもどう? これをきっかけにさ。まぁ、アリスターならすぐに覚えられると思うけど」


 アリスターは下を向いた。これまで何度か魔法に挑戦してきたものの、長続きしなかった。目に見える形での成長を実感できなかったためである。


「俺はいいよ。やっても、どうせ上手く使いこなせないから……」


「いつもそうね。まったく。やってもみずに何が分かるのかしら。……アリスター。行くよ」


 ユーナが立ち上がってアリスターの手を引き、コールムの家まで連れて行った。


 コールムの家に着くと、外でトオムとコールムが剣を振るっていた。コールムは上半身が裸だった。


「おっ、アリスターにユーナじゃねーか。どうした? 俺っちたちは今、剣の訓練中だぜ」


「はい、そうなんです。しばらくコールムさんの家に泊めてもらうことにしました。それで、訓練と称して剣術を教わっているんです」


「おいおい。そんな大そうなもんじゃねーぞ。ただの素振りだ。俺っちにそんな心得なんてねぇよ」


 汗だくのコールムに対し、トオムは涼しい顔をしていた。ユーナはそんなことを一切気にせずに、トオムに言った。


「剣術よりも魔法の実践の方が興味ない? ちょうど今日アリスターと訓練しようと思って、ついでだけど教えてあげるよ? 基本的な魔法だけど」


 トオムは二つ返事で「はい、お願いします」と食いついた。ユーナは満足げな表情を浮かべ、ユーナが保有する訓練場へ向かった。


 町の北東部にある人通りの少ない広々とした空き地に着いた。木の的らしきものも数本立っており、地面にはなんらかの鉱物を砕いたのか小さな石が散らばっている。


「さて、昨日教えたのは座学としての魔法学。そして昨日見せたのは、その魔法学の実践として体感してもらうためのもの。そして今日のは実際に魔法を行使してもらうためのもの」


 ユーナはそういうと、一番遠くにある、およそ30メートルほど離れた木の的に火を放ち、命中させた。アリスターはその様子を見て、ユーナが魔法を見せたいだけなのだと思うばかりであった。コールムとトオムは純粋に、すごいと目を輝かせていた。


「じゃあ、実際にどうやるのか。まず、魔法っていうのは私達の周りを含め、内部にも至る所に存在する。それを人によってはオーラだとか、気だとか、あるいはエネルギー体そのものだ、として理解していたりする。つまり纏う空気とか、纏う透明な液体だとかそんなイメージとしてね。実際、それが見える、っていう人もいる。私には見えないけど。ていうか、これは昨日の時点で言うべきだったよね」


 ユーナは少し黙ってしまった。トオムたちは互いに見合って、魔法の姿を確認し合っているが誰も目撃できずにいた。ユーナは続けて言った。


「まぁいいか。それで私の認識としては、そういった流体ではなく、といっても全体としてはそうなんだけど、ああ分かりにくいよね。じゃあ、わかり易く言うと、小さな粒があると想像して? その粒は人間の何十倍も何万倍も小さくて、いっぱいいる。その小さな粒が、川のようにこの世界を流れている、そんなイメージね。どう? ある程度魔法がどんなものか掴めた?」


 アリスターとコールムはさっぱりわからないという顔をしていた。トオムはなんとか理解できるような素振りだった。


「このイメージがものすごく大事なんだけどなぁ。まぁ感覚だから、何ともいえないんだけど。それで、その粒たちを自分の手に集める。ここからがもっと大事な部分。頭の中で思い浮かべるの。例えば、火なら燃え盛るイメージを。風なら渦巻くイメージ。水なら湧き出るイメージ。土なら固めるイメージ。それが元素魔法を生み出す。……こんな風にね」


 ユーナの右手に静かにそして力強く燃える火が現れた。


「はい、じゃあやってみて?」


 三人とも見よう見真似で手のひらをじっと見つめていた。最初に火が出たのはアリスターだった。雑に揺蕩いながら燃えてはぱっと消えた。


「うん、いい感じだね。二人もそんなに根詰めなくてもいいよ。もしできるなら、『出でよ火』とか『燃ゆる火』とか『可愛い我が火炎よ』とか、言葉をかけてあげるとイメージの補助にもなるからやってみて。それが詠唱の先駆けになるから」


 トオムが「出でよ火」と恥ずかしげもなく大きな声で言った。すると、右手にボウっと火が点き、嬉しそうにユーナの方を見た。それを見てコールムも「俺の火が燃える!」と言い、火を出すことに成功した。


「ユーナさん! 火! 火が出ました! 思った以上に熱くはないんですね。火傷する覚悟でやっていたんですけど。これ、どうやって消すんですか?」


「うん。自分の魔法だからね。耐性があるんだよ。火を消すには、今の逆のことをすればいい。集めた粒をもとに戻す。引きはがして霧散させる。あっ、言葉ね。『消えろ』とか『沈まれ』とかだね。そのまま維持し続けると、魔力を消費しちゃうからね」


 コールムの方はすぐに消すことができたが、トオムの方は中々に消すことができずにいた。それを見て、ユーナは風の魔法を使って、吹き消してあげた。


「うーん、魔法は正直だからね。消したくないって思いに呼応して点き続けるよ。だからこそ、精神魔法が厄介なんだけど。それは置いておいて、どう? どっと疲れが来たんじゃない?」


 ユーナの指摘通り、トオムは息を切らして手を膝についていた。アリスターとコールムは時間にして数十秒ほどしか使っていなかったが、トオムは2分弱、火を点けていた。息を整えてから、トオムは言った。


「はい、ものすごく疲れました。でも、もう大丈夫です! 次に行きましょう!」


 こんな調子でアリスターたちは風、水、土と元素魔法を出してみた。アリスターはどの属性もある程度しか生み出せなかった。コールムは土の属性だけが他よりも多く生み出すことができた。トオムは水が一番多く生み出せた。そして、魔法講座は次の段階へと入った。


 ユーナがどこからか三人分の木の棒を出して、それぞれに手渡した。木の的をおよそ3メートルほどの距離に置いた。


「じゃあ次は、魔法を使用する上で最も重要な、指向性についての実践だよ。私ぐらいになれば、棒とか使わなくても魔法を飛ばしたり、操作することもできるけど、最初はやっぱり視覚的にも棒があった方がわかりやすいだろうし、操作してる感があっていい」


 手本としてユーナが煌々と光る五センチ程度の火の玉を的へと放った。火の玉は的の中心を穿ち、更にその奥の的をも穿ち、ユーナの手元へと帰ってきた。的は炎に包まれ、燃え崩れた。


「こんな感じね。あっ、的に当てるだけでいいからね。それぞれ得意な魔法で、ってアリスターは分からないのか。そうだね、じゃあ風でやってみよっか」


 三人は苦戦していた。一朝一夕でできるような代物ではないことくらい、ユーナは理解していた。が、どのくらいの適性があって、どのくらいの魔法に対するセンスがあるのか、それを計っていた。

 コールムは土塊を飛ばしていたが、1メートルもしない位置で失速し、地面に落ちていた。

 トオムは水を噴射させて飛ばそうとしたが、まるで勢いよく流れる蛇口を蓋しようとしてあちこちに飛び散る水のように方向が定まらなかった。

 アリスターは風なので的に当てることはできたが、穿つまでの威力はでなかった。

 ユーナはそんな三人の様子を見て、それぞれにアドバイスをした。コールムにはもっと圧縮させて、小さくするように、と。トオムにも同様に小さくまとめた水の玉を操作するように、と。アリスターには、もっと出力を上げて押し倒すように、と。

 アリスターとコールムは中々できずにいた。途中諦めて、適当にしている横で、トオムは何度も何度も挑戦し、夕暮れごろになってようやく的に当てることができた。息絶え絶えになりながら。その様子をユーナはじっと眺めていた。


「ユーナ、さん。最後に、精神魔法に、ついて教えてくれませんか?」


「随分、熱心だね。適性がないと使えないんだけど、まぁ見ていてよ」


 ユーナは自分の左の人差し指の先をナイフで切りつけた。血が指から滴って地面に落ちる。


「よく見ててね」


 ユーナは右手の親指で数秒じっと傷口を抑えつけた。親指をずらすと、傷口は跡すら残さず綺麗に治っていた。


「これが光の属性における回復ね。まぁ再生ってのもあるんだけど、それは置いておくとして、あとは身体の運動能力の強化とか、疲れの癒しとかいろんなことができるね。闇の属性は、私は持っていないけど、疑似的に体験してみよっか。せっかくだし」


 ユーナは不敵な笑みを浮かべて、三人に向けて恐怖心を光属性で強化した疑似的な闇属性の魔法をかけた。三人の全身に正体のわからない不気味な恐怖感が襲った。身体が硬直し、一歩たりとも動けずにいた。


「これが、闇属性の魔法だね。どう怖かったでしょ? ごめんね。でも体感しておくだけで、実際にかけられた時に正しく認識できるから、その練習だと思ってね。まぁ、実際にかける時はこれの何百倍も悪意を含んでるけど」


 ユーナの言葉を冷やりと汗をかきながら聞いていた三人。魔法の訓練に加えて今の精神的な疲労が、体をずっと重くした。


「ふふ、ホントごめんね。お詫びと言ってはなんだけど、光の魔法で今日の分の疲労を取ってあげよう」


 ユーナはアリスター、コールム、トオムの体にそれぞれ一瞬だけ触れた。三人はえもいわれぬ心地よさに包まれていた。魔法による疲労感が吹っ飛び、今からでも同じ魔法講座を受けれるほど元気を取り戻していた。


「すごいです! ユーナさん! さっきまでの疲れが一気になくなりました! あっ、反動とかあるんですか?」


「ないよ。私の魔法の量が減るだけ。すぐに回復するけどね。あんまりかけすぎると、不眠症になるから普段は使わないけど、今日は特別。頑張ったご褒美だ」


 ユーナは優しい笑みを浮かべた。トオムは深く頭を下げて、コールムとアリスターとともに帰路に着いた。ユーナはもうしばらく残ると言って、訓練場で三人を見送った。


「いやぁ、しかし、トオムのガッツには驚いた。俺っちにはやっぱり魔法は性に合わねぇ。ちまちましててよぉ。最後、的に当てた時ゃ、やっぱこいつはすげぇ男だって思ったね。おん。トオム、改めてよろしくな」


 コールムはトオムに手を差し出した。コールムからの賛辞にトオムも真っ直ぐ答えて、強く手を握った。アリスターはそれを見て、自身が少し翳っていくのを覚えていた。


 アリスターは自分の家の前でコールムとトオムを見送り、すぐに食事処へ向かった。アリスター自身も今日は一人でゆっくりと食べたい気分だと、自覚しつつ、その自分に些かの苛立ちを覚えていたのだった。

 夜を知らせる冷たい風がアリスターの体を撫でた。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

ユーナちゃん、結構見せたがり屋だなぁ。これぞレべチってやつかな。

日常は続く。日常が終わるその日まで。

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