<2話> お礼 634年5月13日 朝
挿絵を入れてみました。見にくくてごめんね。
朝になるとアリスターの家にコールムが訪れた。二人とも同じ考え、同じ目的だったようで、コールムの誘いにアリスターは二つ返事で答えた。さっそく二人は酒屋へと向かった。
酒屋の店主にトオムの行き先を聞くという何とも単純極まりないものではあるが、なぜか二人は店主が知っていて、まだこの町にいるに違いないと信じて疑わなかった。無論、まだトオムはこの町にいるが。
酒屋に入ると、トオムが店の手伝いをしていた。アリスターたちにとって異国の服、ジャージ姿でテーブルを拭き、木製のコップをカウンターまで運んでいる。
「お前、何してんの?」
アリスターは辛辣な物言いだったが、トオムは二人を見るなり嬉しそうにして近寄った。
「あ、昨日の人! いやぁ、その、お恥ずかしんですが、お金を持っていなかったもので、それでお金の代わりに労働しているんですよ。まぁ、今日一日だけなんですけどね」
魔王を倒す、そう豪語していた人物とは思えない、ちっぽけな人間を目の当たりにした二人は顔を見合わせる。そして店主に事情を話し昨日の分の代金を支払った。三人でとりあえずテーブル席に着いた。
「ホント、すみません。僕の分を払ってくださって。こんな身の知れない人間なのに。ありがとうございます」
トオムは深々と頭を下げる。
「いいってことよ。いやぁ、昨日は色んな話が聞けたもんで、楽しくてよぉ、でも俺っちばかりが聞きまくっていた気がしてよ、旅人ってことは何か情報が欲しいんじゃないかと思って、昨日の話のお礼と言っては何だが、今度はそっちが質問してくれ。ついでに、まだあんだろ? おもしれ―話」
アリスターは支払ったのは自分だと強く言いたかったが、コールムの対応が良すぎて、素直に関心していた。トオムもまた嬉しそうに目を輝かせていた。
「いいんですか! そうなんですよ。まだこの国に来たばかりで、何が何やら分からなくて……。えっと、じゃあまずは、この辺りの国とかから教えてください」
コールムは事前に用意していた地図をポケットから取り出した。
地図には6つの国が描かれている。
ウェルニスト共和国、ユーラス王国、ギリア帝国、フィオール聖教国、グロイア王国、バルタ王国。
コールムとアリスターは地図を見せながら、今、自分たちがいる国はグロイア王国であり、この町はギリア帝国から流れてくるラステヌ川の西側に位置する『ベンタハ』という旧城塞都市の町だと説明した。アリスターはちょうどベンタハの所に銅貨を1枚置いた。
大体の現在地を把握したトオムは、次の質問をした。
「自分の居場所は大体分かりました。それで、今この国、いや世界の情勢はどうなんですか?」
アリスターはコールムに銅貨3枚、銀貨2枚を渡した。コールムは銅貨をウェルニスト共和国、フィオール聖教国、バルタ王国に置き、銀貨をギリア帝国、ユーラス王国に置いた。
「同じ貨幣が同盟関係にある国だな。ただ、ウェルニストについてはグロイアからすると、バルタの同盟国、つまり友達の友達って感じだ。まぁ、それでも俺っちからすると仲間に違いねぇ」
「フィオールとグロイアも随分と昔から友好関係を築いてきた。同じくバルタとも。本来、ギリアとユーラスは仲が悪かったんだが、最近になって友好関係を築き始めている。ここ3、4年前だったか。おそらくだが、コガット湖の支配権をめぐる戦いでまずはバルタを潰すための一時的な共同戦線だろうな」
「ウェルニストとギリアはどうなんですか?」
「ウェルニストは巨大な国家だ。こちらの方面は戦力が薄いものの、ユーラスとの領土問題で戦争を吹っ掛けていたな。それがギリアまで広がってるから、仲はかなり悪いだろう。本気になれば、一気に南下してくるだろうな」
トオムはしばらく考え込んでいた。アリスターはその様子を見て、無理もないなと同情していた。が、トオムはすぐにある国を指して言った。
「このギリア帝国に、魔王がいます」
突拍子もないことを言いだしたトオムに対して、二人は苦笑するほかなかった。
「ギリア帝国のあの、厳ついジジイの名前、なんだったか。ど忘れしちまった」
「あぁ、皇帝レール・ドックか。あのおっさんがその魔物とやらを使役する魔王には見えないな。いや、そもそも前に出て戦うような奴じゃない。いるとしたらウェルニストのようなどでかい国だ」
「そうですか……。なら、その裏にいる奴とかじゃないですかね。女神に言われたんですよ。ギリア帝国にいますって。地図も見せずに」
コールムは腕を組んで苦い顔で言う。
「奴ぁ、一代で成り上がった男だぜ。聞くところによると、命令されて動くような奴でもなきゃ、俺が決めるって強引な奴らしい。そいつがどうして裏で操られるのを認めるのかねぇ。むしろ反対派にいるのかもしれない」
「なら、一度ギリア帝国に行ってみるしかなさそうですね」
アリスターとコールムは顔を見合わせる。アリスターが真っ直ぐトオムを見つめて言った。
「やめておけ。特に今は無理だ。今はグロイア共々戦時中ではないにしろ、そもそもギリアと国交を持つ国が少ない。まさしく兵糧攻めをしている最中なんだ。だから奴らも外部からの密偵者には厳重な警戒態勢を敷いている。たとえユーラスからでも入国目的がはっきりしないと、捕まって死ぬぞ」
トオムは再度考え込んだ。ギリア帝国への侵入は諦めていないような、そんな風貌を醸しながら。
「じゃあ、次は武器について教えてください」
コールムは机に立てかけている長剣を、アリスターはズボンから提げている短剣を、それぞれ机に置いた。
「大体は剣が主流だ。俺は短剣が身に合ってるから、これを使う。こいつはまぁ見ればわかるだろ。獣を狩るのにも、盗賊から身を守るのにも、剣を使う。戦争のときは、盾や弓を用いるが、才ある者ならば魔法も使う」
「えっ! 魔法があるんですか!? 女神からはないって聞いていたのに……」
コールムは軽く笑ってから「魔法が使える奴なんてほとんどいねぇよ。首都に言っても教会にいる奴らくらいしかまともに使えねぇし、あ、でもこの町の奴は使えるな。戦争でも前線では見たことがねぇ」と自分の頭を掻いていた。
「そうなんですか……」
トオムは少し残念そうに、そして女神の言った「ない」という意味をしみじみと実感していた。
「それでこの剣の材質は、つまるところ鉄なんですよね」
「ああ、そうだ。といっても、俺はそういった材質について詳しくない。コールムの方が鍛冶屋で働いてることもあって、よく知っているはず――」
コールムは何やら、店主と話していた。それを横目にアリスターは話を進める。
「まぁいい。もし剣術を使って働きたいのなら、傭兵や騎士がある。安定した職業だ。この町でも警備として年中募集してるからな。魔法が使えるなら、教師やそれこそ昨日言った硝子を作る仕事だったり、色々とあるな。お前は物知りだから、その知識を使って新しい武器でも作れたりするんじゃないか?」
「いやぁ、流石に知識だけでは作れませんよ。でも、面白そうではありますね」
店主が骨付き肉の入った皿を持ってきたかと思うと、コールムは当たり前のようにそれを手で掴み、食べ始めた。コールムの相変わらずのマイペースさにアリスターは呆れていたが、それでもお腹は空いていたようで肉を掴んで食べだした。
「いやぁ、すまねぇな。腹が減ったもんで。大丈夫、お前らの分も頼んでおいたからよぉ」
一先ず、この場は食事会へと変わったのだった。
最後まで見てくださってありがとうございます。
初めてクリスタで書きました。機能も使って。おかげで見にくいですね。
要望があれば、綺麗な方も出すかもしれません。