表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリスターの日記 序章  作者: きてつれ
第一部 出会いと日常
1/30

<1話> 出会い 634年5月12日

 日が高く昇り、正午ごろになったものの、冷涼な風のせいか外はまだ肌寒くあった。

 アリスターは街中の大通りを一人歩いていた。不精髭(ぶしょうひげ)を手でなぞりながら、目的もなくただぶらりぶらりと彷徨っていた。

 そんな中、一人の大柄な男がアリスターに声をかけた。


「よぉ、アリスター。今、暇だろ? 一杯どうだぁ?」


 強面でスキンヘッドの彼の名はコールム。アリスターの友人である。


「そうだな。ちょうど暇してたんだ。行こうか」


 コールムは腕を上げて、その大きな筋肉を見せつけた。アリスターは気にも留めず、酒屋のある西門に続く道へと歩き出した。


「相も変わらずその半袖と短パンなんだな。まだ、寒いだろ」


「筋肉のない奴はみんなそういうな。俺っちはいつも暑いもんさ」


 アリスターの服装は、薄い茶色の長袖に黒い長ズボン、といった具合で周囲の人間と同じような恰好をしていた。街はそこそこの賑わいで、近くの川で獲れた魚や森で獲れたイノシシの肉が、それぞれの店前に並んでいる。


「年々冷化しているってのにな。絶対やせ我慢してるだけだろ」


「へへ、問題なし! もし寒くなっても、酒を飲みやいいのよ」


「それもそうか」


 レンガと木で造られた二階建ての家屋が連なるその一つに、小さな木の看板を引っ提げた酒屋があり、二人は意気揚々と入った。木の板に書かれているのは、『ようこそ、ベンタハ内一番の酒屋へ』だった。


 二人がいつも座るカウンター席には、見知らぬ若い黒髪の男が一人で座っていた。アリスターは怪訝な顔をしたが、コールムは構わずその男の左隣に座った。アリスターもコールムの左に座る。店主にいつものように果実酒を頼む。出された酒を一気に飲み干すと、コールムがその男に話しかけた。


「見ねぇ顔だな。(あん)ちゃん。名前は?」


「トオム、です」


「おぉ、トオムってんだな。俺っちはコールム。よろしくな!!」


 コールムは手を差し出した。トオムは一瞬、戸惑った表情をしたが、すぐにコールムの手を強く握った。コールムはニッと歯を見せて笑う。アリスターはそっぽを向いた。


「んで、どこから来たんだ? ここらの人間の恰好じゃねぇな」


 お前もだろ、とアリスターは無言でコールムの服を横目で見る。


「えっと、その…………」


「なんだぁ? 言えねぇのか? まさか、ギリア帝国の野郎じゃねぇだろうなぁ!」


「いやいやいや。違いますよ! ……トウキョウから来ました」


 聞いたこともない地名にコールムは黙って考えてしまった。トオムは何かと申し訳なさそうな顔をしている。


「聞いたこともねぇな。なぁ、アリスター」


「そうだな。聞いたこともない。遠い場所なのか?」


「ええ、まぁ。すごく遠い場所ですね」


 トオムはお酒を口に含んだ。


「なら兄ちゃんは放浪者か旅人ってとこか。なんでこんなところに来たんだぁ?」


 トオムは少し俯いた。言ってしまっていいものか迷っているように、もじもじとしている。アリスターはコールムの無意識であろう質問攻めに内心笑っていた。が、トオムの様子を見て「言えないなら言わなくてもいい」と言おうとしたその時に、トオムは話し始めた。


「とある魔物を倒しに来ました」


「「魔物?」」


 コールムとアリスターは口を揃えて言った。そして、二人して見つめ合ってから、コールムが噴き出して笑った。アリスターも心配していた気持ちが吹き飛び、くすくすと笑いだした。


「だっはっはっはー! そりゃあ、おとぎ話か神話か? それともなんかの比喩か? だはははは! それにしても傑作だ! こりゃあ、酒が美味い!」


 笑いすぎて涙が出ているコールムに対して、トオムはその笑われ様に恥ずかしさを感じて顔を赤らめた。店主もまた笑っていた。ただ、トオムが引き下がらずに質問した。


「あ、あの。その、この世界には『ゴブリン』とか『オーク』とかそういったものはいないんですか?」


「ん? なんだその『ゴブリン』や『オーク』ってのは?」


 いまだに笑っているコールムを横目にアリスターは言った。そして、ちょっとうるさかったのか、肘でコールムの脇腹を小突く。


「いえ、知らないならいいんです……」


 トオムは残念そうに言った。


 アリスターはトオムの云うことを信じてはいなかったが、興味深そうにその()()とやらについて詳しく聞いた。トオムは淡々と自身が知っている魔物について話した。アリスターやコールムにとっては、魔法という言葉以外は全て聞いたことすらないものばかりであり、現実味のない話にしか聞こえなかった。


「それで、その魔王っていうのがこの世界を支配しようとしているから、それを防ぐために、ここに来たということ、か」


「俺っちには分からねぇが、そりゃ何かいけないことなのかねぇ」


「もとは人間らしいのですが、今は魔の道に落ちているんです。人類を淘汰してくるでしょうね」


 アリスターとコールムは自分とは全く関係ない話のように認識していた。しかしそれは、火事がまだ対岸にあると思い込んでいるに過ぎないからだった。特にアリスターはこの火事を対処しなければならない運命にあるが、まだ自覚していなかった。


 3人ともお酒が進んでいき、順調に酔ってきていた。


「ところで、その剣は何でできているんですか」


「おっ、こいつか。こいつは鉄でできてる。逆に俺っちは鉄以外を知らん」


「ミスリルとかオリハルコンとかは?」


 聞きなじみのない言葉にコールムは首を傾げ、剣を机に立てかけた。アリスターも何か対抗しようと蘊蓄(うんちく)を言う。


「最近になって、硝子ってものが流入してきたらしい。透明できらきらと輝く宝石のようだそうで、それを作るために魔法を上手く使える奴をみんな探してる。今それが一番稼げる。よく考えるもんだ」


「ガラスって窓とかに使われるやつのことですか?」


「知ってるのか。窓に使われるのかは知らんが、最近の流行りは硝子だ」


 トオムはそう言ってから、店内の内装を見回し、はっとなって下を向いた。酔った様子のコールムがアリスターに絡んだ。


「そういやよぉ、俺っちの家の窓がよぉ、ガキどもに石投げつけられて留め具が壊れちまって、今はもう開きっぱなしな訳よ。そこでよぉ、その硝子?ってのをよぉ、窓に付けりゃ、寄ってくんのがガキから美女に変わるんじゃねぇーかって思った訳よぉ。つまり俺っちモテモテって訳。うらやましいだろう? んで、その硝子ってのをよぉ、お前んとこのユーナに作らせりゃ、いいんじゃねぇかって思った訳よ!」


「女が寄ってくるなら、美女に限った話じゃないだろ。婆さんからガキまで来るぞ。それに、ユーナは俺のものじゃない」


「だっはっはっはー! 俺っち人気者じゃねぇか! ならどんなに石投げつけられてもかまいやしねぇな!」


「(たぶん石を投げられたら割れると思うけどな)」


 酔っ払いを横目に、まだそこまで酔っていないトオムは店主とも話していた。アリスターの目には、自信を持って生きている気さくな青年の姿が映り、どこかうらやましく感じていた。


 日が沈みかけてきた頃になると、アリスターは気持ちよさそうに寝ているコールムのツルっとした頭を引っ叩いて、お金を置き、帰路を歩いて行った。コールムは眠い目を擦りながらアリスターの後を追っかけて走る。

 茜色の空の下を昼間より一層強い風が吹いていった。

最後まで読んで下さってありがとうございます。

定期的に更新していくつもりです。あくまで、つもりです。

いや、やります。しっかりやります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ