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第一章 五月上旬~五月中旬 7

           7

 本社社員二十八人ばかりの社員が使うには十分過ぎるスペースのワンフロワーには、みっつの打ち合わせに使われる場所がある。


 十数人が座れる立派な椅子が置かれている会議室、主に来客用の応接間、ふたつのテーブルと八個のパイプ椅子が並べられたテーブル席。社員同士間の簡単なミーティングでは大抵このテーブル席が使われるので社員間では、「打ち合わせテーブル」の呼び名で通っている。八個のパイプ椅子があるのは、お弁当持参の女子社員達がランチタイムにも使用するからだった。


 春夫は、西野明美が入ることによる営業の割り振りの件だろうと思った。二月に辞めた加田という社員の担当のかなりの部分を春夫が引き継いだのだ。受け持ちの問屋や店舗は地域によって分けられているが、加田の担当地域と春夫の担当地域が隣接していることもあってそうなった。


 明美が入れば業界初心者なので、まるまるかどうかは分からないが、加田が担当していた多くは明美の担当になるはずである。


 三田部長も来て木川課長とひとつ置いた席に腰を下ろした。

「新入社員の西野明美さんの件で、あなたに重要な任務を与える」

 木川課長が、言った。


 四十代半ば、端正な顔立ちを引き締めて、随分ともったいぶった言い方をして来た。趣味が社交ダンスだけあって、立っている時も座っている時も背筋がピンと伸びている。それがいつ言われたかは忘れたが、全日本の社交ダンス百位以内に入っていたと誇らしげに飲み会で話していたのを春夫は記憶している。

 

 フェルシアーノは、去年の春から社長の鶴の一声で男女とも特別ラフでなければ服装自由になった。営業部も例外ではない。けれど、この木川課長は、毎日必ずスーツ姿にネクタイを忘れない。それも、同じ柄のネクタイには滅多にお目にかからないという気の使い方である。

 春夫は、不意打ちをくらった気持ちになった。営業の割り振りから入ると思ったのが、重要な任務を与えると来た。


 横に座る三田部長を見れば微笑んでいる。木川課長より調度十歳上の五十七歳であるが、年齢よりずっと老けて見える。薄くなった髪が白髪のせいもあるが、顔に走るしわが深いのも老けさせている要因になっているのは確かである。外見だけではない。雰囲気も老成していて、本当に五十七歳なのかと思う時がある。


「重要な任務ですか?何でしょう?」

「加田君から引き継いだ担当のとりあえず七割程度を速やかに西野さんに引き継いでもらう。それと、しばらくの間、西野さんの子守り役をしてもらうことにした。吉村係長には伝えてあるから」

「えっ、子守り役ですか?」

 引継ぎの話はともかく、聞き返さずにはいられない。子守り役とはどういう意味だ?

          


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