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第一章 五月上旬~五月中旬 5

           5

 トイレねえ、春夫は、考えたことはなかったが、女性にとっては切実な問題に違いなかった。


 けれど、刈谷係長の言う通りである。デパートのトイレで隣り合わせるのとは違う。日常的に元々は男性として生を受けた人間が、女子社員オンリーの場所に入って来るのである。幾ら女性の心を持っているからと言っても、「はい、どうぞ」と受け入れられるものではない。

 

 先刻、塚田社長は、どれほどの意識があったが知らないが、まだ、完全に女性になっていませんが、と言った。男性器の切除を済ましていない、という意味なのだろう、と春夫は理解した。

刈谷係長は、もちろん、西野明美という名前で入社する人間が女性用トイレを使うことに絶対反対を唱えるに違いない。

 

 筆記用具を持った前の席の川田佐和子が立ち上がった。

営業部は、組織的には、ふたつの課から成っている。営業部営業課と営業部業務課である。営業課は外回り、業務課は、問屋や店舗などからの受注が仕事である。佐和子は、営業課に属する唯一の女性社員である。入社二年目、外回りを希望しただけあって、元気印という表現があたっている。

外回りを希望して入社して来ただけあって、なかなかの気の強さも持ち合わせている。


「川田さん個人は女子トイレ使用、賛成派、反対派?」

 春夫は、聞いてみる。

「さあ、どうでしょう?」

 佐和子は、にんまり笑って業務の机に向かって歩き出す。


「ノーだと思いますね。佐伯さんの予想は?」

 隣の後輩の松野修が業務の方を見て言った。春夫より二年後輩の社員で、おっとりタイプである。新卒で入ったが、入社した時は今よりずっと口数が少なく営業でやっていけるかと思ったが、数字的には健闘している営業部員だった。


「全て、刈谷さん次第じゃないの?」

「でしょうね」

 と松野。

 会話の言葉が省略されるのは、その場にいなくても、いるような気にさせる刈谷係長の社内での威圧感のせいかも知れない。。

 

 春夫は、左前方のシマの業務課の方に視線を投げた。すぐには立ち上がらず、佐和子と何かを話しているふたりは、貫井夏子と東田奈々である。入社時期は六年前で同じだが、大卒と短大卒で貫井夏子の方がふたつ上である。ふたりとも仕事ではてきぱきと言葉も明瞭だが、刈谷係長に対して反対意見は言えないだろう。


 総務部総務課にも企画開発部のふたつのセクション、企画開発課とデザイン課にも女子社員はいるが、年齢的に刈谷係長が群を抜いて上である。簡単に決着がつきそうである。

           


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